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163話 莉子入院・8*

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 莉子が「はるちゃん」と声を出して以来、どんどん声が出せるようになった。俺はその度にキスをした。まるで条件反射のようにね。莉子にご褒美だよ。
あれから莉子のおなかにメンタ湿布とマッサージを続けるようになって、便通が整った。良かったよ。浣腸されるとあいつはワーワー泣くから、それを人に知られたくなかったんだ。だから俺のいないところでされるのは嫌だったんだよね。だってかわいそうだろう? それにしてもメンタ湿布は良く効くねえ。感心したよ。

食事も流動食から、全粥になってきたんだ。そのタイミングでバルーンを外して歩かせてみた。個室部屋のトイレまでだから5歩も歩けば着くんだけど、最初は腕をつかまらせて一緒に行った。中に入れば手すりがあるからね。大丈夫だと思うんだけど、どうかなあ?片手でつかまっていると、下着が下せるかなあ? 一人で出来る?と声を掛けると、無理......と言ってきた。ふっそうか、つかまるのに全力を使ったんだね。

ショーツを下してあげて、座らせた。でもなんか、出ないというんだよね。ずっとバルーンを入れていたから急には出しにくいのかもしれない。
ゆっくりでいいよ、少し下腹に力を入れていきんでごらん。というと、しばらくいきんでいたみたいだけど、出た?と聞くとまだだって。よし、長期戦だ。俺は向こうで待っているから、気長に出してねと言って離れた。

10分くらいすると出たと言った。おしりは拭けるか?「うん、できる」立ってショーツを上げられるか?「無理」
よし、はい、ヘルパーが来ましたよ。じゃあ下着を上げるね。はい、ベッドに戻るよ~と言いながら身体を支えて、ベッドに横にならせると、下着は......要らないんじゃないの?と聞くと、「うん、そうだね」と莉子が言った。

どうせトイレで下せないんだったら、なくてもいいもんね。その代わりに、腰の下にバスタオルを敷いてあげるから少々汚しても大丈夫だよ。寝間着も着替えがあるからさ。「うん、そうする」と莉子も観念したみたいだね。
で、横になった莉子の下着を脱がせた。よし、これも洗濯だ。

そこへちょうど、川瀬と岩城がやってきた。「莉子ちゃん~どうですか?食べられるようになったんだって?」と岩城が聞いた。莉子は恥ずかしそうに「はい、ありがとうございます。大分良いです」と答えた。

川瀬が「それは良かったねえ~一時は俺たちもどうなるかと思って心配したよ。良かった良かった!北原の献身的な看護のおかげだねえ。ふふふ」と嬉しそうに言ってくれた。 
「北原にいっぱい甘えるといいよ」と今度は岩城がニコニコして言った。

ああ~北原、ちょっといいか?話があるんだけど、下に行こうか? うん?なんだよ。いいよ。じゃあ、莉子すぐ戻ってくるからね。
俺たちはスタッフ用のエレベーターに乗って地下の職員用の食堂に行った。コーヒーでいいか?と岩城が言うから頼んだ。二人ともなんだかニヤニヤしていて嫌な予感がするんだよなあ~(汗)

椅子に座ると、二人とも我慢できないように笑い出した。もう止まらないみたいだ。
「なんだよ??また俺のことをからかいに来たのか?」
そういうと二人は顔を見合わせて、またぷーっと二人とも吹き出した。
「いや~もう我慢が出来ないよ。あははは。」岩城と川瀬が笑っている。全く、二人ともなんだよ。ふふふ。

岩城が「うちのナースから聞いたんだけどさ、北原は今や内科病棟女子の憧れの的になっているらしいぜ」

俺が「はあ?なんだよ、なんでだよ。知らないよ。ナースとはほとんど口をきいていないからな」

「なんか引継ぎの申し送りであったらしいなあ。初めての水は口移しで飲ませたのか?それ以外に表現ができなかったらしいぜ」あはははと二人が笑っている。おまけに毎回食事の介助に通ったんだってな。それとこの前、面会謝絶の札を借りたらしいじゃないか?」二人はここでまた笑う。

「一体何をしていたんだよ??」と岩城がまた聞くから、俺もしょうがなく「それはこの前お前たちが言ったんだろう?もっとさすったり抱きしめたりしたらどうだ?って言っただろう?だから実行しただけだよ」

岩城が「ふ~んそうか。その時に口移しで飲ませて、初めて目を開けたんだなあ。良かったなあ~。俺たちに感謝しろよ。あははは」とまた笑った。

岩城が「今日、浣腸はしなかったのか?グリセリンなしで?」というと、また二人で大笑いした。

全くなんだよ~、莉子は腸が弱いからお湯だけでやらないと負担が大きいんだよ。分かるだろう?

アハハハ、また岩城が「分かる分かるよ。でもなあ、その一言で内科の女子たちが悶絶したらしいぜ。あははは。うらやましいってさ。で、それからは浣腸はグリセリンを入れるかどうかの選択肢が引継ぎで出来たらしいよ。みんなで大向けだってさ。(笑) 
おまけにメンタ湿布に?マッサージに?身体を拭いて?歯磨きに温湿布か? もう病院中の女子たちがノックアウトだよ。結婚したかったってみんな言っていたぞ」そういうと、みんなで大笑いした。

「全く迷惑な話だよなあ?俺たちはもう男じゃない扱いなんだぜ」と川瀬が笑いながら言った。

岩城が「それにだよ、俺たち昨日の夕方、様子を見に行ったんだよねえ~・・・」えっ?知らない。いつだよと俺がいうと、なんかもじもじして、「だってさ、ドアの前に行ったら~」これにはみんな爆笑!! 

だから、俺たちは友情を発揮して、誰にも邪魔されないようにドアの前で見張ってやってたんだよねえ!

「くそーっ」と俺が言うと、もう3人とも笑いが止まらなくなってしまった。もう俺は穴があったら入りたかったよ。
だってしょうがないだろう?莉子がいつまでたってもしゃべれないからだよ。だから感覚で呼び覚ましてやろうと思ったんだよ。ただ、それを実行しただけだよ。あははは。

もういつまでたっても3人とも笑いが止まらない。食堂のみんなが注目しているのはわかっているんだけど、もう止められないんだよ。

「いや~見張ってもらったおかげで莉子をイカせてやったよ。で、声が出るようになったんだよ。すごいだろう?」というと、またわっはははと大笑いをしてしまった。

あのなと川瀬が言うには、「俺と岩城がドアの前でずっと笑いながらとどまっていたから多分医局の皆にバレたと思うよ」と言った。二人ともまた大笑いだよ。

もういいよ、おれは恥をかき捨てるよ。莉子さえ元気ならそれでいいんだよ。俺は何を言われても全部無視するよ。

岩城が「全く大したもんだよ。お前は。莉子ちゃんも本当に幸せだねえ。オメガバースなら運命の番かって感じだよね。だって助けを求められないだけで、身体が命の危機になっちゃうんだもんなあ?おまけに声まで失ってしまうんだぜ。普通ではありえないよね。そこまでの結びつきって本当にすごいよ。実にうらやましいよ」と笑いながらも呆けているような表情で言った。

川瀬が「本当だよ。いないよ、こういう二人って、現実的じゃないもんな。これは漫画の世界だよ。うちの夫婦なんか現実だけしかねえよ」と皮肉気に言った。

岩城が「おまけにさ、抱いたら声が復活するって、もうなんだよ、オチが凄すぎるよ。R18のコミックの世界だよ」

そういうわけで、大笑いのうちに二人は帰って行った。俺も本当に病院中に恥をさらしてしまったな。まあいいや。俺は非常勤だからさ。ふふふ。まあ、いいさ。
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