上 下
140 / 196

139話 告白(岩城&洋子)サイド

しおりを挟む
 入口から背の高いスーツを着た男性が入ってきた。「こんばんは。昨日は大変お世話になりました」と岩城はカフェに入るなり中村に挨拶をした。「あっ、昨日の岩城さんですね?」「はい、それに今日は突然のお願いで申し訳ありませんでした」と岩城が言うと、奥を指さして「洋子なら奥の席でお待ちしていますから、どうぞいらしてください」
「はい、ありがとうございます。では失礼します」と、岩城が奥の席に進むと洋子が立ってお辞儀をした。笑顔だけど、なんだか緊張しているようだ。

「すみません、突然のお願いなのに、早速に時間を作っていただいて恐縮です。一応これが俺の名刺です。どうぞ」と岩城が名刺を渡して言うと、洋子もニコッとして、
「いえいえ、昨日は私も楽しかったです!久しぶりに運動が出来て良かったし、私までお仲間に入れていただいてありがとうございました」と答えた。

岩城が早速話を切り出す「あのう、1時間と言うことでお願いしたので、すべて前置きなしで1時間以内に終わるように率直にお話ししたいのですが、良いでしょうか?」えっとちょっと驚いた洋子だがニコッとして、「うふふふ、いいですよ、話が早くて賛成です」ふふふと笑っている。

「聞いていただいたと思うのですが、昨日、洋子さんとお会いした時にピンときました。で、テニスをご一緒にして大体お人柄が分かりました。洋子さんとは初対面のようなものだから、戸惑うかもしれないのですが、昨日一晩考えて俺は決心しました。もしお嫌でなければ、結婚を前提にお付き合いをしていただけないでしょうか?」

「は?、ええ~と、ああ......。えっ??」と洋子が驚いて岩城を見つめた。「なぜですか?私のことを何にもご存じないですよね?それなのにですか?それはどういう冒険ですか?」洋子が焦ってそう聞いた。

「ええーっと、空気感です。すごく分かり合えるような気がしたんです。
俺はずっと小さい頃から勉強ばかりしていたので、医大に入ってからは気晴らしのためにテニス部に入ったんです。
で、北原や川瀬と一緒にテニスをしたのが初めての遊びのようなものだったんです。卒業してからは、今の大学病院の外科一筋で、仕事に追われてろくに自分の時間もなかったし、家に帰っても一人暮らしだし、遊ぶ時間もなく、ただ寝ていただけの生活でした。

だから、正直、気の利いたデートも出来ないし、おいしい店も何にも知らないです。実は恥かしながら女性とお付き合いをした経験がほとんどないです。こんな武骨で不器用な俺ですが、もし家に帰って洋子さんがいてくれたらどんなに幸せだろうかと思いました。

洋子さんはすごくきれいで魅力的です。だからさぞモテたんだろうなあと思いました。でもそれは当然のこととして、すべて無条件にありのままのあなたを受け入れる自信が俺にはあります。いずれ…と言うか、本当はすぐにも結婚してほしいです。突然こんなことを言われても困りますよね? すみません、勝手なことばかり言ってしまって」

驚いたままの洋子は、視線が泳ぐような感じで彼に言った。
「なんと言っていいかわかりません。私はあなたの何も知らないし、気に入っていただけなのなら、女性としてうれしいですけど・・・。ありのままと言われても。私バツイチなんですよ。ご存じですか?」

「いいえ知りません。それが問題ですか? 過去のことは何の障害にもなりません。ただ、あなたがモテたということだけですよね? それは結構なことです。魅力的な女性なら当たり前だと思うので」とあっさり岩城が言った。

「はあ? それでいいんですか?どんな相手だったか?とか気になりませんか?」と洋子が聞くと、「それは気になりませんが、ただ一つだけ気になることがあります」ちょっとうつむき加減でそう言った。

「なんですか??ちょっと怖いんだけど・・」

「北原のことです。洋子さんは北原のことが好きなのではありませんか?」えっと洋子は呆然とした。
「なんでそう思うんですか?」

「コートにいた時にあなたの北原に向けた視線でわかりました。莉子ちゃんと一緒にいる北原を、あなたは切ない目で見ていましたね?だからすぐわかりました」ええ???......と......洋子はもうどこを見ていいのかわからなくなった。

「私誰にも言っていないです。兄にも言っていないし、北原さんにも言っていないです」

「はい。分かっています。北原は昔から莉子ちゃん一筋で他の女性には目もくれないやつです。
病院では一番モテるイケメンなのに、自分からゲイだと言って誰も寄せ付けなかったんですよ。昔から全然変わっていないです。でも本当にいいやつだから、大事にしたい友達です。

だからどういうスタンスでいればいいのか、やっぱり一度は聞きたいんです。彼のあなたへの態度で何も気が付いていないのはすぐわかりました。と言うか、あいつは莉子命だから他のことは本当に鈍感なんですよ」ぷっと思わず洋子は苦笑した。

「俺の想像通りなら、それでいいんです。俺も今までどおり彼と仲良くしたいと思っています。あとは洋子さんに踏み出して欲しいから自分の気持ちを一方的にお話ししました。これからじっくりと考えていただいて結構です。
ただ俺はすっごく急いでいます。
洋子さんのお弁当は素晴らしかったです!!夢のような味でした。もし週に1回でもあれが食べられたら、本当に俺は幸せです。
外科は忙しいからろくに家に帰れないかもしれないけど、いない間は自由にしてもらっていいので、週に1回か2回はそばにいて欲しいです。もう1時間経ったかな?」

ふふふと洋子は笑って彼を見た。「面白い方ですねえ」と言ってまた笑った。
「私が100人くらいの男性とお付き合いをしたと言ったらどう思いますか?」と聞くと、笑って答えた。

「最高に光栄ですね。100人より俺が選ばれたってことですよね?自慢に思いますよ。当然」
うふふふと洋子はもう笑いが止まらなくなった。

「とりあえず連絡先を交換しましょうか?」とにっこりして洋子がいうと、

あわてて岩城が「ええ??うれしいなあ。はい、ぜひお願いします。ラインのメールでお願いします。電話は出られないことが多いので、急ぎは着信を残していただければ、折り返しあとで電話をします。

ただ手術中だと10時間以上の時もざらにあるので、なかなかすぐには難しいかもしれません。そういう意味ではある程度は自立した女性がいいんです。どうぞよろしくお願いします」と、自分の言いたいことだけを言ったらそのまま帰ってしまった。

洋子は笑いながら中村の所へ行った。「いいのか?さっさと帰ったみたいだけどさ。一体なんだったんだ?」と言うと、あはははと洋子が笑いだした。「おかしい~笑える~」と笑いがこみ上げてしょうがないようだ。

「お兄ちゃん!私、あの人と結婚するわ」「はっ??何事だ?あいつは一体何を言ったんだ??」

うふふふと笑いの止まらない洋子でした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

処理中です...