医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘～い愛の物語

80話 離れて・３（８歳の莉子と父のスパルタ指導）

俺の実家は海にほど近い町にある小さな内科医院だ。実母が病気で亡くなったのは俺が１６歳の時だった。
その後、父が再婚してやってきたのが、今の継母と連れ子の義妹の莉子だ。

実母が亡くなった後は、祖母が実家に同居してくれて、俺を育ててくれた。その後父が再婚したので、後は任せたいということで、祖母は自分の家に帰ったんだけど、その６年後に亡くなっている。

始めて出会ったのは莉子が８歳の時。俺は医大４年の22歳だった。14歳も違う妹が突然出来たんだ。柔らかい髪に瞳が大きくて可憐でかわいい妹だった。

最初は母親の後ろに隠れていたが、俺がしゃがんで「莉子ちゃん、初めまして。今日から俺がお兄ちゃんだよ」と言って握手をしたんだ。すると、にこっとして俺のそばにきたから抱っこしてあげたんだ。
すると、俺の首に両手を巻き付けて恥ずかしそうに笑っていた。

それ以来、小学校から帰って俺がいると、両手を広げて抱っこ！とせがむんだ。かわいくてかわいくて、もう俺はすぐ骨抜きになった。22歳で。
家にいる時はくっついてきてしょうがないから、散歩に行く時も、買物に行く時も連れて歩いたよ。
研修医になってしばらく帰れないという時は、すぐ目をうるうるさせて服の端っこを握ってはなさないんだよな。

莉子は幼少の時から虚弱体質だったんだ。だからちょっとした変化を見逃すと、次の日は熱を出すか。呼吸が不安定になるか、湿疹だらけになったこともあるし、蕁麻疹もしょっちゅうだった。学校から帰ると子供の病気をもらってくるし、過敏体質だし、おなかがすごく弱くて、良い状態に保つことがすごく難しかったんだ。

それで、父から莉子の看護や治療の記録を付けるように言われて、毎朝莉子を診察して記録を付けた。臨床の勉強になるからと言われたんだ。

臨床と言っても、普通は、一人につきっきりで診ていくなんて経験は滅多にないことだからね。医者は普通、病気になった人は診るけれど、治ったらそれっきり患者が来ないのは普通だからね。

父は先輩の医者として、その指導ぶりはすごく厳しかったんだ。
治療はもちろん父がするんだけど、先にお前の診断はどうなんだ？って聞かれるし、その根拠は何だ？とか、看護日誌を見ながら、いつも細かく原因や対応を聞かれて、本当に毎日がプレッシャーだった。

莉子は特に腸が弱くて、下痢と便秘を交互に繰り返すんだ。で、原因を聞かれるから、俺は莉子が何を食べているかを、いちいち記録してチェックをしていたよ。
変なものを食べていないか？、食べすぎていないか？、おやつも横目でちらっと見て、おなかを壊さないだろうなあ？といつも疑いの眼で見ていて、必ずメモをしていたよ。それから疲れすぎても駄目だから、必ずお昼寝をするようにさせていた。

食べ合わせも気になっていたんだ。複合的な理由も父から追及が入るからな。
とにかくおなかの具合が悪くなると俺の仕事が一気に増えるんだよ。

注射は父がするんだけど、一人前以下の俺は、浣腸だけが俺の仕事になっていたんだ。莉子は浣腸されるとすぐワーワーと泣くから、父が付き合いきれなかったのかもしれないけど、本当はかわいい莉子を泣かすのが嫌だったんじゃないのかなあ。それで嫌な役を俺に押し付けたんだよ。絶対そうだと思う。

莉子が浣腸されて、トイレで俺にしがみついて泣いてるのを、廊下の奥から父と母が笑いながら覗いていたんだよなあ。なんだよ。面白がっているのか？と俺は思ったんだけど、莉子に泣かれると俺だって弱いんだ。

結局最後まで付き合うことになって、それが今でも習慣化してしまったんだけど、どうせ俺は激甘だよ。
まあ、鍛えられたおかげで一人の患者を継続して観察する基礎が学べたかもしれない。

さて、そろそろ実家だから莉子起きて。もうすぐ着くよ。
莉子は車に乗っている間中ずっと寝ていた。やっぱり体力が全然ないんだよなあ。この先どうしようかと思うよ。

それと、実家にいる時はどこで寝ようか？　俺と莉子の部屋はそれぞれにあるんだけど、一緒に寝るにはちょっと狭いけど莉子の部屋になるのかな？　で、ネット診療をするなら俺の部屋だな。

しかし、莉子の部屋はピンクの花柄とかフリフリな感じで苦手なんだよなあ。落ち着かないんだよね。

とにかく、明日は病院の診療日だ。早朝に起きて行こうと思う。車で１時間半から、渋滞しても２時間はかからないと思うから、朝６時に実家を出れば間に合うだろうと思う。だから五時起きだね。ふう。