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77話 退院の夜

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莉子の退院は8日めになった。
他の人より少し長くなったのは、生理のダメージで体力が伴わなかったからだ。
本当は通常の6日目で退院させて、あとは自宅で療養させたかったんだけど、俺の仕事の都合で、点滴の見守りが出来なかったから断念したんだ。
それに手術をした後だから、何かあった時に一人にさせておくのは心配だった。
トイレに行ってそのまま倒れていたでは困る。

父に預けても良かったんだけど、それでは俺が寂しすぎて嫌だった。これ以上離れているのが耐えられないんだ。全く情けない俺だがどうしようもない。莉子にはこのことを話してわかってもらった。
ようやく退院の日に迎えに行った。川瀬のところにも二人で行って挨拶をした。本当に良くしてもらったからね。感謝しているよ。

莉子を車に乗せる。それだけで俺は幸せだった。今日まで待たせてごめんね。
気晴らしをしたいかなと思って、家に帰る前にどこかで食べていく?それともカフェでお茶する?と聞いたら、
莉子はすぐ家に帰りたいって言ったんだ。そうか。

家に帰ったら抱きしめちゃうよ。莉子、覚悟は出来ているか? ふふふと笑っていた。
「寝ちゃうかもしれないけどごめんね」と莉子は言った。いいさ、俺の腕に中で眠るならいくらでも寝ていいよ。

うちに帰ると二人でうがいをして、手を洗って消毒した。

それからぎゅーっとしばらく莉子を抱きしめていた。寂しかったよ。莉子がいないと生きている気がしないよ。
「春ちゃん、私も寂しくて毎日泣いていたよ」そうか、そうか、と背中をすりすりして、頭も撫でてあげる。
よく頑張ったね。本当に偉かったよ。莉子。愛しているよ。またぎゅっと抱きしめた。

でも莉子は本当に腕の力がなかった。腕がだらっとしたままだったから、身体のダメージ具合が分かるよ。

着替えさせて俺のベッドに寝かせた。
やっぱり体力がないんだよね。歩くと多少ふらついているんだ。危ないなあ。目が離せない。
手術の前後の食事がおかゆだったり絶食だったりしたから、栄養失調状態なのかな?
ちょっとこれは俺の課題だね。高カロリーの補助食を註文しよう。あと、点滴も続けよう。
しばらく静養が必要だ。残念だけど、抱けないな。

すぐに診察した。熱は36度ないな。やばい。血圧も低めだ。ちょっと貧血なのかも。父の所で血液検査を頼もう。それとおなかの傷を見せてね。穴が4つあるね。小さいけど、まだ痛む? 
「うん、触ると痛いよ。笑えないかも。ふふふ」じゃあ、笑ったらだめだ。ふふふと二人で笑った。

莉子はおなかを押さえながらそーっと笑っていた。聴診器で胸の音やおなかの音を聴く。久しぶりだ。
胸の音は悪くない。でもおなかの音がもう一つだな。ちょっと下腹が張っている気がする。

膝を立ててね。おなかに触るよ。どの辺が痛いの? 下腹は痛い? おなかは張っている?
「う~ん、ゆっくり考えさせてほしい。頭がついていかないよ」うん、確かに動きもしゃべりも緩慢だね。いつもの莉子じゃない。身体全体がうまく循環していないような感じだ。

昨日と今日はお通じがあった? ガスは出ている? 吐き気はしない? あっ、聞きすぎた!二人でくすくすと笑った。
生理は終わっただろう? 今出血はあるの?見せてもらってもいい?
「はい、どうぞ」と言って、顔を隠した。ふふふ、まな板の上の鯉になりましたね。
出血を確認すると、莉子はちゃんとナプキンを付けていた。偉いぞ、莉子。俺の言ったこと、ちゃんと守っているね。偉い偉いと頭を撫でてあげる。

食欲はある?朝グラタンを作ったんだ。食べられる??
「うん、食べた~い!!」と、にっこりして言った。かわいい! よし、すぐ温めるね。
ドリンクは何がいいの? 「う~ん、温かい紅茶が良い」良し!OKだ。待っていてね。
グラタンはすぐ用意が出来た。
莉子、ベッドに持って行ってあげようか? 「ううん、ダイニングに行く」そうか。じゃあ、テーブルで食べよう。

こうして二人で食事するって幸せだねえ。「春ちゃん、一人で食べるってつまんないよね?」うん、俺も一人で泣きながら食べていたよ。ふふふ。「ウソつきー!」また二人で笑った。

食べ終わって、ゆっくり紅茶を飲んでいたんだけれど、だんだん莉子の目がトロンとしてきたから、大急ぎで歯磨きをさせてベッドに連れて行った。

俺も一緒に横になって腕枕をしたら、すっぽりと莉子がハマって、胸に顔をすりすりしてから、匂いを何回もいっぱい吸い込んでいた。莉子さん、なんか匂いましたか?? ふふふ。

「エへへへ、分かんないけど、春ちゃんの匂いがする。でもこれって男の匂いなの?」
へっ??困りますねえ。俺は他の男の匂いなんか知りません! あはははとまた二人で笑った。

そうこうするうちに、莉子をそっと抱きしめたまま眠ってしまった。
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