上 下
76 / 196

75話 莉子の入院

しおりを挟む
入院当日の朝、莉子と一緒に大学病院に行った。今日は手術の前々日になる。この日から7分粥などの消化の良い食事になり、下剤や整腸剤を飲むことになる。これは明日も続く。あさってが手術の日だ。

莉子はなんだかしょんぼりしていた。心ここにあらずで、ため息をつきながら遠くを見ているような感じだった。
俺は莉子の手をずっと繋いでいた。産婦人科の病棟に着くと個室に入れてもらった。
今は何を言っても耳に入らないという感じだった。とりあえず、莉子を着替えさせてからベッドに寝かせた。

ちょうど荷物を片付けて一息ついた頃に、川瀬が様子を見に来てくれた。
「莉子ちゃん、よく決心してくれましたね。具合はどうですか?あさってが手術だけど、明日まで術前準備もあるからリラックスして受けてね。手術の説明と診察を後でしますから、それまでベッドで休んでいてね」そういうと、俺に合図をして部屋の外のラウンジに行った。

「莉子ちゃんは生理が来たか?遅らせる薬は出していたけど、もうとっくに飲んでいないだろう?今頃激痛が来ているんじゃないかとちょっとそれが気がかりだったんだけど、そんな様子もないしなあ。どうなっているんだ?」

そうなんだよ、とっくに来るはずなんだけど、なぜかまだ来ていないんだよ。どういうことだろう?
俺も生理の激痛が術後に重なるとかわいそうだなあと気になっていたんだよね。

「だから、当然全身麻酔でやる予定にはしているんだけど、まあ、あとで診察するからあれだけど、もしかしたらストレスで遅れているのかもしれないな。どちらにせよ、痛みが出始めたら、こちらで十分対応するから心配するなよ。それより妊娠の可能性はないか?悪いけど、念のために検査しとくよ。」

ふふふ、悪いけどそれは絶対ないから。もしあれば奇跡だから大喜びするよ。

まあ、とにかくよろしく頼むよ。前回の生理では、激痛で喘息の発作も出て呼吸困難になったばかりだから、心配しているんだ。
発作が出たら対応を頼むよ。で、腹腔鏡手術の退院予定は6日後だろう? ただ、もし莉子の具合が悪ければ、少し延ばしてほしいんだ。

「ああ、大丈夫だよ。心配するな。いや~莉子愛が強いな~負けるよ。それよりいつまで結婚したことを黙っているつもりなんだ?俺が知っている限りでは、お前は病院中の女子の憧れの的なんだぞ。知っているのか?今はみんな妹だと思っているから静かだけどな。この前、莉子ちゃんと手を繋いで病院内を歩いていただろう?もう俺の耳に入っているんだぞ。ふふふ。いや~実にうらやましい限りだよ」

おい、からかうなよ。あははは。二人で笑ってしまった。

それから莉子の病室に戻った。
莉子は目をつぶっていた。なんだか妙に身体を固くしていたような感じだな。
莉子、大丈夫か?緊張しているのか?
「うう~ん、分かんない」ふっ。緊張しているなあ。俺は莉子の手を握った。

手術の日には、お父さんやお母さんも来てくれるよ。一緒にみんなで莉子のことを見守っているからね。
「うん」と莉子が言うと、もう泣き始めた。しまった......励まし厳禁だな。泣くのはまだ早いぞ。
でも泣いていいと言っておいたからしょうがない。
俺は莉子の上半身を起こして抱きしめた。まあ、個室だから勘弁だ。

そこへ看護師さんがやってきた。
「あら~ごめんなさい。お邪魔かなあ?どうしたの?不安なのかな」

俺はちょっと笑って、そうなんですよ。すごく不安みたいで緊張しているようです。まだ18歳だから、しょうがないですよね。
「大丈夫ですよ。安心してね。ちょっと体温を測って血圧を測りますね。あと質問がいろいろあるので教えてくださいね」俺はそっと席を外した。

ラウンジに行って外の景色をなんとなく眺めていた。なんだかこんなことなら自分が手術を受けた方がよほどましだなと思った。俺がいない時間を莉子はどうやって過ごすんだろう。たった一晩でも莉子のいない夜はなんだか俺の方が耐えられそうにない気がした。

莉子が遊びでいないならいいんだけど、つらい思いを一人で抱えて病院で過ごしているというのが、どうにも耐え難い。
この前イレウスで入院した時もつらい痛みに耐え続けたことで、トラウマになって夜中によくうなされていたんだ。
今回の手術は比較的楽で、一晩だけがちょっと痛みをコントロールする感じだった。とはいえ、おなかに4か所穴を開けるんだから。痛くないわけがないんだ。
それにしても生理が遅れ過ぎだ。あるべき時に来ないっていうのもなんだか不穏だなあ。
この日は面会時間以外に付き添いで同行していただけなので、もう帰らなければならなかった。

莉子には、川瀬が生理の遅れを心配しているから、生理が始まったら必ず看護師さんに伝えるように言った。
それから生理の痛みも我慢しないように言った。
最後は抱きしめて、ゆっくり休むんだよ。また明日来るからねと病院を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

処理中です...