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5章 決戦と別れ
9、凶刃が迫る
しおりを挟む父の目の前には、黒いトゲトゲの絨毯のようなものが敷かれていた。
「なんだあれ!?お頭、避けましょう!」
「避けろっつっても、左右は川だ。しかもこの大雨で濁流になってやがる…このままつっこむしかねえだろ!」
バンはそのまま黒い絨毯に突っ込んだ。
ドバァーーン、という大きな破裂音が響き渡り、車は秘孔を突かれたかのごとく一瞬で動けなくなった。
―――――――――――――――――
動かなくなったバンから、ぞろぞろと木刀を持ったスーツ姿の男たちが出てきた。
長元組の組員たちだ。
「早くこいつらを始末して、タイヤを交換するぞ。早く逃げないと、上海便に間に合わねえ」
ぼくは、父さんをじっと睨みつけた。その視線を感じた父さんは、組員たちに言った。
「あの小僧は俺が始末する。お前たちは、あのでかい奴をどうにかしろ」
宗輝さんはぼくに問いかけた。
「勇、お前は親父と対峙するんだな」
「うん…」
―――――――――――――――――
弱まらない雨脚の中、ぼくは父と向き合った。
「勇、俺を見逃せよ?」
父さんは、その二重瞼を細めてそう言った。
「そんなことできるわけないじゃないか」
「俺が盗んだ金は、銀行のあぶく銭だ。この金は盗まれても、保険会社が支払った保険金により補填される。保険会社も再保険をかけているから、日本以外の保険会社が補填してくれるんだ」
「そういう問題じゃないよ。現金輸送車を奪う行為は、れっきとした犯罪行為だ!」
「まだ綺麗ごとを言うのか…勇。お前にとって、犯罪とはなんだ?」
「罪を犯す、ことだ」
「罪というのはなんだ?」
「法律を破ることが、罪だ」
「ならお前にとっては、法律が全てなんだな?法の抜け穴を熟知して悪事を犯す政治家や警察は罪を犯してねえのか?」
「全てではないかもしれないけれど、少なくとも日本の法律がこの国の秩序を守っているんだ…」
「やはり、俺とお前はわかりあえないな。仕方ない、京都の時みたいにもう一度気絶してもらうおうか」
父はそう言って、木刀を手に持った。
父の隣にいた長宗我部元親は、ニヤッと笑い父の体に入り込んだ。そう、父に憑依したのだ。
そして元親は、ぼくに向けて言い放った。
「よく聞け。土居宗珊。お主が死んでからの一条家侵略は容易かったぞ!お主に贈り物を送りつけて、始末した甲斐があったわ!」
「なんだと…!」侍さんが叫んだ瞬間、大きな`ナニカ`が、ぼくの口の中に入ってきた。それは、食道を通って体の奥底に入ってくる。しかしそれは決して、禍々しいものではなく体に活力を与えるものであった。
そして、薄まっていく意識の中で、ぼくは侍さんに勝利を託した。特訓によって自分自身の剣のレベルも上がっている。その状態で侍さんが憑依してくれたら、父さんに勝てるかもしれない…
―――――――――――――――――
強風を交えた土砂降りの中、長元組の男たちは宗輝を取り囲んだ。その数は4人、得物は木刀。
正面に四人、背後に同じく二人、距離は前後とも二メートルほどだ。
すぅっと息を吸い込んだ宗輝は大きく踏み込んで、右前方の相手の右肩から左脇に刀を振り下ろした。腰の回転と足の力を使った流れるような袈裟斬りだ。
木刀とは思えないほど鋭い空気を裂く音と共に、男は倒れこむ。
その状態からすぐ左足を踏み込み、二ノ太刀で二人目の男の胴を横一文字に払った。これも深く入り、男は倒れた。
そのとき、宗輝の背後から凶刃が迫った。
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