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5章 決戦と別れ

0、作戦会議

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長元組の事務所では、父と組員たちが頭を抱えていた。
 
擁立した候補が大敗し、条例の改正ができなくなっただけでなく、選挙に資金をかけすぎたため、組員の生活維持も困難になってきていたのだ。
 
さらに、SNSのプロフェッショナル集団と探偵事務所に依頼を続ける資金も尽き、情報を握れなくなったため、政治家たちも離反していった。
金がなくなれば、人も情報もなくなってしまうのだ。
 
 
組員たちは現状を嘆き合った。
「もうだめだ。市の職員まで買収して選挙に挑んだのに負けちまった」
 
「みかじめ料もねえ。企業とのやりとりもできねえ。政府や国民は俺たち暴力団に死ねといっているのかよ!?くそったれた世界だぜ…」
 
「ならもう、特殊犯罪をするしかねえんじゃねえか?オレオレ詐欺とかで、金を持っているお年寄りから搾取しようぜ?」
 
「俺は弱者を相手にした犯罪行為には手を染めたくねえ。あくまでも、金が余っているところから奪いたいんだ。そこだけは、俺たちの誇りだっただろ?」
 
「そんなきれいごとを言っている場合じゃないだろ…?」
 
事務所内には険悪な雰囲気が漂う。組員たちは苛立っていた。
 
実際、警察の取締りの強化によって用心棒代などの従来型の資金源を断たれ、生活費にも困窮した暴力団員が“荒手”の犯罪に手を染めている実態があった。暴力団員による「食料品の集団万引き」、「はらこを狙ったサケ泥棒」、「拳銃を担保に借金」など、今までは考えられなかった事件が起こっているのだ。
 
「お頭、どうするんですか!?だいたいこんなことになったのも、お頭が選挙に賭けようと言ったからで…」
 
「お頭のせいにするのはやめろ!全員で賛成して、選挙に挑んだんだろうが…」別の男が口をはさむ。
 
「そうだな…でも今のままではもう俺たちは生活できませんよ?
リストラでもしないと…」
 
ここで今まで黙っていたお頭は重い口を開いた。
「俺たちの組織はリストラはしねえ。組員は個人事業主だとはいえ、運命共同体だ。俺にとって、組員のやつらは家族みたいなもんなんだよ…」
 
「じゃあどうするですか?金はもう殆ど残ってないんですよ。ならもう解散ですか?暴力団なんて、今の時代にそぐわないですもんね…」
 
「バカ!解散したって、俺たち元暴力団員には、仕事に就くことさえ簡単じゃないんだ。銀行口座もねえんだぞ?
どうやって…」
 
討論はまるで小田原評定のようだった。追い込まれた状態でいくら議論すれど、起死回生の一手は見つからない。
 
 
そのとき、父に憑依していた長宗我部元親が、「俺に変われ」と呟いた。
 
そして、彼に憑依をして意識を奪い、組員たちに秘策を打ち明けたのだ。
その秘策は今までのように狡猾な作戦ではなく、一線を越えるものだ。
 
「今から作戦を伝える。この成否で、俺たちの生死が決まる。野垂れ自ぬか、大金を奪って逃げるか。お前ら覚悟はいいか?」
 
組員たちは唾を飲み込んだ。部屋の隅では、ジイがニヤりと笑っていた。
 
 
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