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3章 京都動乱

21、侍と宗輝(2)

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宗輝は眉間に皺を寄せて、不愉快そうな顔を浮かべて叫んだ。
「じゃあ、なんであんなことをしたんだよ!!」
 
「…」侍は何も言い返さなかった。
 
「剣道部だった俺は、高校最後の県総体で決勝戦に駒を進めていた。
そして決勝戦当日。あの日は台風の影響で試合開始が遅れて、あたりが暗くなっていた19時過ぎに試合が始まった。
しかし、あんたは試合開始直後に、勝手に俺に憑依した。そして、相手選手を失神させるほどの激しい打ち込みを繰り返したんだ。
意識が戻ったときには、自分でも何が起こったのかわからなかった。対戦相手は倒れこみ、審判員や大会関係者が俺の体を抑え込んでいた。結果は、俺の反則負け…あの一件以降、俺の人生は狂ってしまった…」
 
「あの件は本当にすまなかった。対戦相手の吉良は、長宗我部元親の弟・吉良親貞の子孫だったのじゃ…
儂は復讐心で、我を忘れてしまい…」
 
「そういう言い訳もあの頃と同じじゃないか。俺が聞きたかったのは言い訳のような謝罪じゃない…

前代未聞の大事件の結果、大学への推薦は取り消され、クラスでもひそひそと嫌味を言われるようになった。

そして、あんたのことが心底嫌になった俺は、寺の住職に頼んで中村城の石碑に、再びあんたを封印した。
だからあんたも俺のことを恨んでいるんだろう。一度ならず、二度までも封印されることになったんだから。
 
大学への推薦を取り消された俺は、高卒で働きにでた。
しかし、高知県四万十市は世間が狭かった。どこへ行っても、どこで働いても、俺が起こした事件のことを噂される。`あいつはキレると怖い``何を考えているかわからない`
どいつもこいつも、まるで腫物を扱うように俺に接した。
 
もともと気が短かった俺は、すぐに喧嘩をおっぱじめた。
そんな様子では、どこへ行っても仕事は続かない。結局、職を転々とし続け、住み慣れた高知県から逃げるように京都に移住し、今は人力車の運転手で生計を立てている。
 
今の37歳にして、非正規で独身だぞ?
ロスジェネ世代だとか、そういう時代背景は関係ない…
 
そうやって世代でひとくくりにするなよ。
なぜみんなは、過去の事件のことで俺を判断するんだろうか。誰も、そのときの俺をみてはくれなかった。
人生というのは、一度大きな`バツ`がつけば、それを一生背負って生きなければならないのかよ…」
 
自分の過去を語り終えた宗輝は、少し憔悴していた。彼にとっての過去は、直視したくない苦しいものだったのかもしれない。
 
宗輝はさらに言葉を続ける。
「土居宗珊。あんたが全て悪いわけじゃねえ。
俺の人生の責任は、俺にあるんだ。わかってる、わかってるんだけどよ…
あんたが俺に憑依しておこしたあの行動は、俺の人生に影を落としたんだ!」
 
 
「…本当にすまんかった…」
侍は申し訳なさそうに謝った。20年前と同じ謝り方だ。しかし、宗輝が求めていた言葉は謝罪ではなかった。宗輝の怒りのボルテージは上がる。
 
「それを今更、`儂を助けてくれだと?`それはいくらなんでも都合よすぎるだろ」
 
「いや、儂を助けてほしいわけじゃない。
昼間にお主が出会った、あの少年を助けてほしいのじゃ」
 
「昼間の少年?ああ、無銭乗車の男を捕まえてくれた少年か」
 
「そうじゃ。儂はあの少年に憑依して数か月が経つが、あの子は純粋で優しい心を持った少年じゃ
お主も昼間、あの少年に救われたじゃろう?あの少年の隣にいた少女が、いま大変な目になっておるのじゃ…
少年は倒れてしまい、少女を救えるのはお主しかいない…頼む…」
 
「たしかにあの少年には世話になったが…」宗輝はすぐに助けにいくとは言わなかった。
 
侍は言葉を続ける。
「あの少年は今、罪の意識に苛まれておる。せめて、あの少女を救わなければ、彼は立ち直れないかもしれん。
まさに昔のお前と同じじゃ。ある出来事が後々の人生に暗い影響を与えるということは、知っておるじゃろう…
だから、少女を助けてくれないか…?」
 
宗輝は、ふぅっと息を吐き出し、胸ポケットから取り出したウィンストンに火をつけた。
 
「場所はどこだ?」
 
「法垂窟じゃ」
 
「ああ、そういえば、そこに荷物を置き忘れていたんだった。
忘れもの…取りにいかねえとな」
 
「素直じゃないのお…」侍さんはそう思った。
 
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