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0章 俺バグ Reboot
自販機大戦争(6)
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この事件の張本人のボブときゃぷてんは、真夏の甲子園で完投したかのように肩で息を吸いながら嗚咽を漏らすとっしーに声をかけた。
「お前は俺らには勝てん。キチ〇イみたいに、叫んでも結果は同じや」
とっしーは、怒り狂っていた。彼らの目的も、意図も、どうでもよかった。
ただただ、渇いた喉を潤したかったのにもかかわらず、彼は全くジュースが飲めず、財布からは小銭が消えていった。
「もうええ!ジュースなんていらんわ!」
とっしーは諦めた。彼らの罵声に関わらず、もうこんな不毛な争いはやめようと決意して、その場から立ち去ろうとした。
「あきらめるんか!?」
「次に戦ったら勝てるかもしれんのに、ここまでもうやめるん?」
「諦めるとかの問題ちゃうやろ!こんなわっけわからんイベントやってられっかっ!」
不倫現場を目撃した妻が不倫相手を罵っているかのような修羅場、真顔で叫ぶとっしーに、きゃぷてんは冷静に語りかけた。
「キチ◯イのように諦めるな。それは、まるで`諦めキチ◯イ。
略すと'あきち'や」
ボブは、口をすっととんがらせて驚いた。
「...オメェッ!あの有名な、'あきち'かっ!
どんな勝負にも諦める、天下無双の`あきち`や!!」
わけのわからない罵りは、とっしーの心にもう一度、火をつけた。
「'あきち'ってなんやねんっ!!」
その時、きゃぷてんの表情が少し曇った。そして、人差し指をしきりにゆすっていた。
「お前、もしかして」
「気付いたか。そうや、さっきのブラックコーヒーを勢いよく押したときに、ちょっとやっちまったようや…」
「そこまでして、こんな不毛な争いをせんでええやろ?何がお前をそこまで突き動かす?」
きゃぷてんは、ずっと遠くを眺めながら、問いかけに答えた。
「理由なんかはない。目の前にブラックコーヒーがあるなら、それを押すだけだ」
こいつらどうかしてるぜ。とっしーはそう思った。
しかし、暮れていく夕日に照らされたきゃぷてんの横顔はなぜか晴れやかで、人差し指の炎症は、名誉の負傷に見えた。
とっしーは、気持ちを改めた。もっと真摯にこの勝負に向き合ってみよう。と思った彼は、ボブときゃぷてんに正対して、1枚の500円玉を提示した。
「これが、これが、本当に最後や。俺も全力で押すから、お前らも全力でかかってこい」
「待ってたぜ」「おもしろくなってきやがった」
彼らも最後の決戦を承諾し、肩を回し、手首をプラプラさせ、入念なストレッチを行い始めた。
とっしーも負けじと、屈伸をし、アキレス腱を伸ばし、下半身の柔軟性を高めた。
精悍な顔つきのきゃぷてんは、まさしくケインコスギ。
細長く眼光が鋭いボブは、まさしく池谷直樹。
ひょろ長くて猿顔のとっしーは、まさしくおさる。
ここは、「筋肉番付」の戦場なのだろうか。
否。ここは、下校途中にある自動販売機の前だ。
戦場でもなんでもない平和な空間だ。
自動販売機前に集う3人の男子高校生が入念にストレッチをする姿は、ほかの通行人にはどう映っただろうか。
しかし3人は、この世界は自分たち3人と自動販売機しか存在しないような感覚に陥っていた。
飲み込んで吐き出すだけの単純作業繰り返す自動販売機は、この世界の全てを司る神のように思えたのだ。
「お前は俺らには勝てん。キチ〇イみたいに、叫んでも結果は同じや」
とっしーは、怒り狂っていた。彼らの目的も、意図も、どうでもよかった。
ただただ、渇いた喉を潤したかったのにもかかわらず、彼は全くジュースが飲めず、財布からは小銭が消えていった。
「もうええ!ジュースなんていらんわ!」
とっしーは諦めた。彼らの罵声に関わらず、もうこんな不毛な争いはやめようと決意して、その場から立ち去ろうとした。
「あきらめるんか!?」
「次に戦ったら勝てるかもしれんのに、ここまでもうやめるん?」
「諦めるとかの問題ちゃうやろ!こんなわっけわからんイベントやってられっかっ!」
不倫現場を目撃した妻が不倫相手を罵っているかのような修羅場、真顔で叫ぶとっしーに、きゃぷてんは冷静に語りかけた。
「キチ◯イのように諦めるな。それは、まるで`諦めキチ◯イ。
略すと'あきち'や」
ボブは、口をすっととんがらせて驚いた。
「...オメェッ!あの有名な、'あきち'かっ!
どんな勝負にも諦める、天下無双の`あきち`や!!」
わけのわからない罵りは、とっしーの心にもう一度、火をつけた。
「'あきち'ってなんやねんっ!!」
その時、きゃぷてんの表情が少し曇った。そして、人差し指をしきりにゆすっていた。
「お前、もしかして」
「気付いたか。そうや、さっきのブラックコーヒーを勢いよく押したときに、ちょっとやっちまったようや…」
「そこまでして、こんな不毛な争いをせんでええやろ?何がお前をそこまで突き動かす?」
きゃぷてんは、ずっと遠くを眺めながら、問いかけに答えた。
「理由なんかはない。目の前にブラックコーヒーがあるなら、それを押すだけだ」
こいつらどうかしてるぜ。とっしーはそう思った。
しかし、暮れていく夕日に照らされたきゃぷてんの横顔はなぜか晴れやかで、人差し指の炎症は、名誉の負傷に見えた。
とっしーは、気持ちを改めた。もっと真摯にこの勝負に向き合ってみよう。と思った彼は、ボブときゃぷてんに正対して、1枚の500円玉を提示した。
「これが、これが、本当に最後や。俺も全力で押すから、お前らも全力でかかってこい」
「待ってたぜ」「おもしろくなってきやがった」
彼らも最後の決戦を承諾し、肩を回し、手首をプラプラさせ、入念なストレッチを行い始めた。
とっしーも負けじと、屈伸をし、アキレス腱を伸ばし、下半身の柔軟性を高めた。
精悍な顔つきのきゃぷてんは、まさしくケインコスギ。
細長く眼光が鋭いボブは、まさしく池谷直樹。
ひょろ長くて猿顔のとっしーは、まさしくおさる。
ここは、「筋肉番付」の戦場なのだろうか。
否。ここは、下校途中にある自動販売機の前だ。
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しかし3人は、この世界は自分たち3人と自動販売機しか存在しないような感覚に陥っていた。
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