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特別編Ⅱ リターンズ・2000kmの大冒険

16話 ジョロジョロ論争

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ジョロジョロジョロ

用を足す充足感にひったっていると、後ろからドアを叩く音が聞こえました。

ドドンドンドドン!

ドドンドンドドン!

「なんや?」と後ろを振り返ると、コントロールを失った尿がゆらゆらと宙を舞います。

「おい!立ちションだけはすんな!!」
ドアを叩いていた主はどうやらまさはるのようでした。

「もう無理や。今更座れるか」
と言いながら、ぼくは必死に中央付近に狙いを定めます。

まさはるは、ドンドンと扉をたたきながら「やめろ!座れ!!」と叫ぶのですが、皮肉なことにまさはるがドアを叩けば叩くほどぼくのコントロールは乱れるのです。


ほどなく用を足して居間に戻ったぼくを待ちかねていたのは、家主のまさはるでした。

彼はきかんしゃトーマスのように、頭から蒸気を出し、烈火の如く怒っていました。

「お前やってくれたな。
汚れるから座れって、あんなに言うたやろ」

ぼくはまさはるの言葉に全く耳を貸す気はありません。

「嫌や。俺は立つ」

「ふざけんなよ。座れ」

「座るくらいなら、ここで漏らすわ。それでええんか?」
なぜか強気なぼく。

「漏らせよ。漏らせ。
漏らしたらお前のあだ名は、しょんべん漏らすマンやで?」
まさはるも譲りません。

「俺は漏らすマンになってもいいけど、この居間がしょんべん臭くなってもええねんな?」

「お、お前なあ。
とにかく、座れ。便器に座って小便をしろ」

「わかった。
じゃあ、限りなく低い位置から立ちションするわ。
それならええやろ」

「あかん。そこまでするなら座れよ」

「座るのは、絶対に嫌なんや。
だいたいお前は何をそんなにこだわってるねん!?

「それは絶対言えん。
ええから座れ!!」

「アンモニアが飛び散るからか??
あ、わかった。
トイレの床に置いてある漫画に飛び散るのが嫌なんか?」

「違う。漫画には別に飛び散ってもいいけど、とにかく座れ」

ぼくとまさはるは互いに一歩も譲りませんでした。
便座に座って小便するかどうかでこんなに本気で言い争う25歳の姿は滑稽です。


ちなみにぼくが頑なに座りたくない理由は、ただのアマノジャクです。

混ぜるな危険。と書いてある、漂白剤を見たら混ぜたくなるのです。
たとえ、塩素ガスが発生しようとも。

さらに、スピードを重視していることも一因です。

トイレに求めているのは速さ。

ドアを開ける前から、チャックを下ろし、すぐに用を足したいのです。

しかし座ってションベンをするとなると、大幅なタイムロスをしてしまいます。

ボブなんかは、大便を5秒で済ませた伝説を持っているほどのトイレスピード主義者ですが、ぼくも彼に倣って速さを意識していたのです。

ちなみに、ボブが大便を5秒で終わらせる理由は至って簡単です。
彼は、先に尻を拭いているのです。

尻を拭いてから用を足すことにより、5秒というタイムをたたき出すことができます。

ちなみに、足した後の便を拭くのは、次回の大便の時に拭くとのことです。


平行線をたどっていたぼくとまさはるの口論はまだ続いていました。
こんなくだらないことを、一歩も譲らないのは、お互いのプライドでしょうか。

まさはるが言い出してきたのは、
「シャワー浴びるな」ということです。

彼の言い分は、「座りションをできない奴にシャワーを浴びる資格はない」というものでした。

しかしぼくは、彼の言い分には納得できません。

「1分で入るからシャワーは使わせてくれ」と懇願します。

「無理や。シャワーは使うな。この家の主は俺や」断固として譲らないまさはる。

「1分やで?1分?
1分で体をほんの少し濡らすだけや??」

「無理なものは無理や」

「お前なあ!!
シャワーくらい浴びさせろよ!!」ぼくは、懇願する立場にも関わらず声を荒げます。

「じゃあ座ってしょんべんせえよ!!」まさはるも声を荒げます。


「この話をしてる暇があるくらいならもう入れるんや!」
ぼくはそう言った直後に、浴槽に走り。2秒で服を脱いで、30秒でシャワーを終わらせたのです。


シャワーから上がったぼくに、まさはるは毒を吐きかけます。

「シャワーは浴びる。
立ちションはする。
お前はヤクザか!?}

「どこがやねん。」

ぼくは全く納得ができませんでした。

むしろ、鳥取から車でここまでやってきて、大変な運転を乗り越えたのに、この仕打ちは酷いと思っていたほどです。

ぼくは怒りに任せて、まさはるを罵倒します。
「立ちションとシャワーくらいさせてくれてもええやろが!?」

「それがあかんねん!」

「じゃあお前もう、俺の車に乗るな!!」

「お前な?
俺が車の中でションベンしたらどう思うもう?」

「うれしいよ」

「変態か」


終わる当てのないくだらない口論を聞き飽きたのか、後輩のあくまは立ち上がります。
そして、うんざりとした様子で、ぼくとまさはるの間に体を挟みました。。

「もうやめてください。
大学の先輩が立ちションについてそんなマジ喧嘩してるぼくの気持ちになってください。情けなくて…」

「たしかにな」ぼくとまさはるは声を揃えます。
あくまからすれば、先輩のこんな醜い争いはきっとみたくないでしょう。

そんなとき、ずっと発言を控えていたきゃぷてんがおもむろに立ち上がりました。

何も言わずにゆっくりと歩みを進め、トイレに向かいました。

ぼくらは声を発することはありませんが、もしや、の事態に怯えていました。

いや、そんなはずはありません。
ぼくらのグループの精神的支柱であり、常識人のきゃぷてんなのですから。

バタン。

扉の音が閉まった数秒後、静まった室内に擬音語が鳴り響きました。

ジョロジョロジョロジョロ…
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