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特別編 ~8年の歳月、淡路島再訪~

13話 しおさい旅館はどこ?

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【旅館を予約1】

<大学生(5年前)>

朝からレンタカーを借りて和歌山に移動し、予約していた旅館にチェックインをします。

その名は、-旅館しおさい-

「こんちは~。5名で予約していたタケダでーす」
宿泊係のぼくは、陽気にチェックインの連絡をしますが、おばあちゃんは困った顔で答えました。
「はい??5名で予約?そんなの受けていませんけど?」

「あっれ、おかしいな。
おばちゃん、ぼく、インターネットのじゃらんで予約してますよ」

「いや、受けてないよ?お兄ちゃん間違えてるんじゃない?」

「あれ?わかりました…」

ばつの悪い顔で一度旅館を出て、道路に立ち尽くすぼくら5人…


「おい、とっしー。どないなってるねん」
ボブは、眉間にしわを寄せて、少しいらつきながらぼくに問いかけます。

「おかしいなあ。ほんまにじゃらんで予約してん。
一度、旅館に電話するわ」

「いや、電話してもここが旅館やねんからさっきと同じおばあさんが出るだけやん」

「それはわからん。
電話越しなら、気付いてくれるかもしれんぞ」

「どんな理論やねん…」

そして、旅館しおさいに電話をかけると…

プルルルル… ガチャ…

「もしもし、旅館しおさいです」
声の主は、おじいさんでした。

「すみません。この電話、旅館しおさいですよね?

「はい、しおさいですよ~」

「今日ですね。タケダの名前で5名、予約してますよね」

「はい。予約されてますよ~」

「そうですよね。けど、今チェックインしたら予約していないって言われたんですよ?」

「いや、うちにはまだ、タケダさん方5名は来てませんけどねえ~」

「おかしいなあ、ちょうど2分前に、しおさい旅館のおばちゃんに話しかけたんですよ?」

「うちのフロントは私(おっちゃん)だけですが…」

「…」

「…」

ぼくとおじちゃんの間に3秒ほどの沈黙がありました。
判明したことは、ぼくが今、電話をしている相手は、目の前の旅館の主人ではないということです。

そんなとき、ぼくは、ふと、こんな質問が頭に浮かびます。
「ちなみにしおさい旅館さんってどこにあるんですか?」

「神奈川県です」

「へ?
いや、今、ぼくらは和歌山県にいますよ。
あっそうか!しおさい旅館って名前がかぶってるんですわ
あ~すみません。間違えてしまったようです…」

「知りませんよ、そんなことわ」

「いや、神戸に住んでるのに、神奈川は遠いでしょ!
同じしおさいでもせめて、三重県くらいなら、なんとか移動できたのに…神奈川は無理ですわ~」

「だから、知りませんよ。うちは予約があったので部屋を空けていただけです」

「あ~すみません。
とりあえず、神奈川県のしおさいさんは、宿泊キャンセルにしてもらえますかね?」

「いいですけど、キャンセル料がかかりますよ。
当日キャンセルなんで、全額ですね。
正規料金4000円が5人分で2万円です」

「え?!高すぎやしませんか?」

「いや、規則なんで」

「今日は平日やし、全部屋満席ってわけでもないでしょう。
全額はいくらなんでも…」

「いや、規則は規則です。
とにかく、今から言う口座番号に振り込んでください。番号は…」

当初、ぼくは支払う気はなかったのですが、口座番号を言われると、なぜか払わないといけない気分になってしまいました。

口座番号という、具体的な振り込み手段を伝えることで、相手をその気にさせる、まるで催眠のような番号の羅列…
これが、世に言う振り込め詐欺なのでしょう…

(間違えて予約して当日キャンセルなので詐欺でもなんでもない)


ぼくはその番号を聞くと、慌ててメモをとりましたしまいます。
そして、「あとで、払います…」と言って電話を切ったのです。


電話からあらかたの事情を把握したみんなはこう言いました。

「やらかしたな。宿泊係長...」

「でもよ。同じ名前の旅館があります。
しおさいは和歌山と神奈川両方にありますっていう案内がないとかおかしないか?」」

「普通ないよ。
間違えて予約するやつが悪い」

ぼくは少しうつむきながら、頼み込むようにみんなに訴えかけます。
「宿はあとで、考えるとして。
申し訳ないけどとりあえず、1人4000円払ってくれんか?」

「払わへんで。泊まってもないのに4000円も払えるかよ」

「そうやんな。わかった」

そう言うと、ぼくはもう一度電話をかけました。

「もしもし~。あ~、神奈川県のしおさいさんですか??」
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