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V章 世界を変える気持ち「漠然」

2話 辞める辞める詐欺-1年2組-

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織田。

彼はぼくと中学校の同級生でした。
容姿端麗、野球部のエース、頭脳明晰、まさしくスーパーマンでした。

そんな織田が所属する1年4組は、進学校で地味なわが高校には珍しく、男女ともにヤンチャ系が揃っていました。

「クローズ」の世界のような無骨さが漂い、
わが生涯に一生の悔いなしと叫ぶ輩も2,3人はいたようです。


男子のメンツは、長田や駒ヶ林といった神戸市有数のヤンキー地区からやってきた、校内一学ランが似合う、福岡や佐久田たちでした。

女子には、小野寺、吉田といった美形のギャルたちが揃います。
彼女たちの、「え?パンツ見せたいのですか?」と聞きたくなるほどのスカートの短さは、ぼくらの冴えない高校生活の活力になっていたことは間違いありません。

そんな4組のイケイケ集団に、サッカー部所属でイケイケの代名詞の「マタキチ」も加わり、さらにイケイケに弾みがつくのです。

2×2=4
3×3=9

同様に、イケてるメンバーが集まれば、クラスはさらに華やかになっていきます。
まさに、イケの乗数効果です。


しかし「マタキチ」は、中林と同じくサッカー部でイケメンですが、中林ほどのユーモアセンスは持ち合わせていませんでした。

それにも関わらず、彼は女子に大人気でした。
彼の発言ひとつで女子は、騒ぎ喜びます。

同じく4組には、無骨で明るい坊主の野球部、Uスピーがいました。
彼のほうがマタキチより面白い発言をしますが、
Uスピーの周りにはいつもゴリゴリの野郎共しかいませんでした。

なぜだ?なぜなんでしょうか?

あぁ、武骨なマスクが原因なのかもしれません…

女子からの人気を得るためには、発言内容より端正なマスクが必要だったのが高校生時代だったのです。


根は陰の部分を持つぼくが、そんなイケイケ集団の4組に入っていたら、
やんちぃ集団にビビッて、クラスの端っこで、しょんべんを漏らしていたでしょう…


しかし、織田は違いました。
彼は4組のイケイケヤンチャ集団にしっかりと溶け込んでいたのです。

いえ、溶け込むどころか、4組でもエース級のヤンキーになっていたのです。

中学のころは、短髪で、ぼくといっしょに野球に励んでいた織田が、
4組では、鶏のトサカのような頭に、ピアスをつけているのです。

そしてクラスでは、織田の隣に、ミニスカートの美形ギャルがきゃぴきゃぴしていたのです。


そんな人生の春を謳歌していた織田ですが、彼にも弱点がありました。

それは、自分がテニス部に所属していることです。

中学時代、野球部のエースだった彼は、「テニス部=ひ弱」というイメージを持っていました。

実際、クラスのヤンキーたちの大半は帰宅部で、マタキチもサッカー部であり、クラスのイケてるメンツにテニス部はいなかったのです。

お世辞にもイケてるとは言えないテニス部に所属していることこそが、織田にとっては隠すべき点だったのです。

周りからかっこよく見られたいという思春期特有の思いは、織田にこのような発言を促しました。

「テニス部ほんま嫌やわ。早く辞めたい」

「明日には辞める」

「たぶん、来週には辞める」

彼はクラスメートに対しても、部活が一緒の僕らに対しても、何度も何度もこのように発言していました。

その発言は、4月の中旬から続いていましたが、2学期が始まった現在でも彼はまだテニス部を辞めていませんでした。

いつものテニス部の練習が終わったある日、
ぼく、織田、きゃぷてん、ボブの4人の部員は、いつものように帰路についていました。

そして織田はいつものように、「俺、テニス部そろそろやめるわ」と言いました。

その発言を聞いて、ボブは織田を煽ります。

「おまえさ、辞める気ないやろ?
明日辞める、来週辞めるって、言って、ずっとテニス部におるやん?」

「は?辞めるし!」
織田は少しムキになって言い返しました。

しかしそのあとも、織田がテニス部を辞めることはありませんでした。


それどころか、彼は毎朝欠かさず、自主的に早朝練習に参加していたのです。
そして、放課後になると真っ先にテニスコートに降りて、練習に参加するのです。

風貌は、学校一のヤンキーでしたが、
彼は、学校一真面目なテニス少年。

現代の名探偵コナン。
それが、織田という男なのです。
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