こちら織田証券(株)清州営業所

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

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【Ⅰ章】秀吉、暗号資産に全集中をする

6話 噂で買って、事実で売れ!

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翌日、各部署の長が集まる定期報告会議が行われた。
そのばで、秀吉は意気揚々と現状を報告する。

「私は300貫を元手に運用を行なっています。中心銘柄のXRP、現在の価格は43円。数日前の2倍の水準ですが、100円~400円をめどに利益確定していく予定です」

「2倍の水準で利益確定すべきだろう!?」貴金属を中心銘柄に据えている柴 勝家は意見をぶつける。

「いえ、仮想通貨は株式や貴金属といった伝統コミュニティとは動きが異なります。ビットコインの半減期を半年前に終えた今、目線は10倍、そして最高値の更新です。へたに利益確定はできません。

秀吉の話を聞いた信長は「好きなようにせい。年末の時点でどれだけ軍資金を増やせているか。結果が全てじゃ」と答えた。



会議が終わったあと、ある人物が秀吉の肩を叩いた。
「調子に乗っているようですね、秀吉さん」

「おおお、明地光秀さんじゃないですか」と、秀吉は答える。
光秀は、かつて足利内閣のもとで働いていた官僚だった。どういったわけか、今は織田証券で働いている。
信長から寵愛されており、支店長候補と噂されていた。

「秀吉さん、利益確定はこまめにしておいたほうがいいですよ?」


秀吉は出世のライバルである光秀のその言葉が気に食わない。

「今、利益を確定することは、これからの膨大な利益を消してしまうようなものです」

「秀吉さん。あなた、掲示板やSNSをみていますよね?このように相場が急上昇した場合、必ず煽り屋が現れるんです」

「もちろんいますよ。XRPに関して言えば、今の価格50円はまだまだ安い。
次は100円、200円を狙って上昇していく。そして、最高値の400円を超えて、1000円まで、なんてね。そして投資家たちは、その値段まで上がった時の利益を想像して銘柄を売らずにホールドし続けるのです」

「煽っている人の大半はもうすでに利益確定しているにも関わらず、ね」

「それはわからないでしょう?」

「だいたいそうですよ。煽り屋が現れるのは、相場を最後に上昇させて、暴落を起こすためです」

「その最後の上昇まで乗らないと、利益は最大化できないでしょう?」

「含み益は幻。その強欲が身を滅ぼすのですよ」

警告を投げかける光秀の言葉を、素直に受け取ることができない秀吉。
「光秀さんがメインにしている株式は動きが少ないようですね。私が絶好調なので、嫉妬しているのですか?」

「いえ、そういうわけではありませんよ。ですが、あなたのようなおサルさんが上手に利益確定をできるか心配でして」

その言葉は秀吉を激昂させて、声を荒げさせた。
「な、なんだとお!?」と、言って、光秀の胸倉を掴む。

「含み益は幻だとしても、今は含み益がグングン増えているんだ!俺はまだまだ利益を伸ばす!そしてお前よりも出世してやる!」

そう叫んで、光秀を強く押した。

光秀は、ニヤリと笑って、「そんな短期で投資が成功しますかね」と吐き捨てると、そそくさと逃げ去っていった。



翌日からリップルはとんでもない値動きを見せる。直近の倍の値段である50円を超えて、65円をつけたのだ。

「秀吉さん、今日は65円です!」部下の正則は嬉々としている。

「うっひょお!来た来た!」と秀吉も笑みを浮かべる。

そんな秀吉に懸念を抱いていたのは、社内でもキレ者と噂される石 三成だった。
 「秀吉さん、そろそろ売っておいたほうがいいですよ。大金を受け入れる心の準備がまだできていないようですし」

しかし、秀吉は三成の諫言に耳を傾けない。
「ここで売る?そんなことできねーよ!12月12日のスナップショット時にリップルを保有していれば、SPARKがもらえるんだぞ?」

「SPARKってなんでしたっけ?」

「仮想通貨特有のエアドロップってやつだよ!とある条件を満たせば、新規発行される新たな仮想通貨をもらうことができる。
今回の条件は12月12日までにリップルを保有していれば、SPARKという新規通貨がもらえるんだ!」

「秀吉さん、無料ほど怪しいものはないですよ」

「なんだと!?」

「そのエアドロップは、大口が高値で逃げるための口実上げです。
噂で買って事実で売れ。12月12日までにリップルの大半を売却すべきです!」

しかし秀吉は聞き入れなかった。リップルに心酔していたのだ。
「まだだ、まだ売らないよ!」


そうして、数日後、リップルはさらに値段帯を上昇させた。

「75円を超えて80円をつけました!」

「うううっひょう!!!」

まさに狂喜。原資の150貫がたった1週間でほぼ3倍になったのだ。

「もう売っておきましょう!1ヶ月も経たずに値段が4倍。加熱し過ぎです!」

周囲の静止もあり、秀吉も少し恐怖を思えた。あっという間に価格が上昇し、資産価値が莫大に増える。特に努力をしたわけでもなく。

しかし、その恐怖は、ライバル社員への闘争心でかき消された。
「憎き光秀を、追い越してやる!!」



問題が起こったのは、リップルが最高値を記録してから約3週間後。
12月23日のことだった。
 
「あかん…」と力なく呟く秀吉。

「どうしたんですか?」

「リップルが訴訟されて、暴落している...」 
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