こちら織田証券(株)清州営業所

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

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【番外編】新入社員ガモタンの珍道中

ドアギワに116

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腕を交差させた。

削られたフィルムから光線が示される。

侵略者は、塵になった。

あの時代のような目に見えるヒーローは、もういない。

消える年金、上がり続ける物価、そして、社内で火を噴くクッパ。

明日とは、どこにあるのか。

降りしきる雨、乗客たちは結露に気付くこともなく、四角い液晶画面を見つめ続けていた。




敬愛する尾崎豊はイヤホン越しに魂のお叫びをあげる。
「サラリーマンにはなりたかねぇ朝夕のラッシュアワー...」

乗りたくない思いを押し殺し、すし詰の電車に足を踏み入れた。

見たところ乗車率は約150%。

洗濯機からはみでる衣類のような肢体。

「ドアが-閉まります」

無機質な駅員の声をかき消すように、警報音が鳴り響いた。

そのとき、鈍い痛みが左腕に走った。

ムニュウ、ムグゥ、ギニュウ、トクセンタイ

閉まるドアに容赦はない。

まるでハンバーグを挟むかのようにぷにたんな上腕二頭筋をサンドイッチした。

軋むような痛みが、肉を噛みちぎる。


20年前に思いを馳せて、さつまいもを引っこ抜くように力を入れた。


ゼリー状のぷにたんは、解放されたが、まだ終わらない。

服が絡め取られたままだった。

カッターシャツを咥え込むドアが、食虫植物のように見えてくる。

「これが新手の緊縛プレイか。
もういい、このまま次の駅まで過ごそう、ドアとランデヴーも悪くない」

そう思ったそのとき、ドアがミシミシと音を立てた。



それは2つ隣の立っていた青年の指だった。
青年は全身全霊を指先に込めて、ドアを開けようとしてくれているのだ。

そこまでしなくていいのに…
もっと自分の指を大事にしてくれ…


青年のか細い指が紅潮すると同時に、ドアは数ミリ宙に浮いた。

首輪が解かれた犬のように飛び出してくる服。


しかし、青年に感謝の気持ちを伝えようにも、満員電車では言葉を伝えられない。
何かないものか。


そうだ。


自由を得た左手を伸ばして、結露した窓に魂を込めた。


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