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【外伝】ねねと秀吉~暗号資産講座
【ねね秀】既存金融へのアンチテーゼ
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「なにそれ?意味がわからないわ!」
「これは、ビットコインのソフトウェアに埋め込まれた当日のロンドンタイムズ紙の見出しだ。それを書き込んだ意図は、既存の金融システム崩壊への皮肉、だとされている」
「皮肉?」
「ビットコインが誕生した2009年は、リーマンブラザーズの破綻を皮切りに世界金融危機が起こっていた頃だ。開発者は、世界の惨状を肌で感じながら、銀行を筆頭とした既存の金融システムが人々に十分なサービス提供をできていないと感じたんだろうな」
「世界の格差拡大とも関連するわけね?」
「そう。21世紀の資本でピケティ氏が語っていたように、世界では格差が広がっている。
開発者は、その一因は銀行だ、と思っていたみたいなんだ。銀行は武器商人や資金洗浄を行う者や世界的な麻薬カルテルや多国籍企業にサービスは提供する一方で、移民、適切な証明書類を保有しない人といった貧しい人々、不利な人々にはサービスを提供しない、そう認識していたみたいだな」
「でも銀行って、今の資本主義経済の根幹となるビジネスよね?人々は自らの富を銀行に預けているじゃない?」
「いや、銀行に預けることさえできない人も多い。世界銀行よれば、銀行口座を持てない成人の数はいまだ、世界全体で見ればおよそ17億人に上っているそうだ」
「本当に?!じゃあ、`口座を持たない`人たちはどこにお金を残しているの?」
「それはわからない。ただ、銀行が提供するサービスに、最貧困の人々は含まれない、っていうことだ。銀行口座は保有する人を金融システムと結びつけ、日常生活における煩雑さを減らし、資産を築くことを可能にする。だが、その段階にさえ到達していない人には、門徒を開かない」
「銀行口座があることって、あたりまえのことだと思っていた…」
「あたりまえのことは、あたりまえじゃない。そう考えるところから世界を見直すことにつながるんじゃないかな。ビットコインの開発者は、世界の現状をみて、銀行を主体とした現在の資本主義が採用している金融システムでは、世界は良くならないと考えたんだろう」
「だからビットコインを開発し、それを世に解き放った…」
ねねは前のめりに返答する。彼女も何かに気付いてきたようだ。
「そう。ビットコインの誕生はこれまでの世界にブロックチェーンという新たな技術をもたらした。始まりはひとつの論文」
「その論文が、世界を変えた?」
「そうさ!そして、自らの意志を`財政担当大臣 二度目の銀行救済策目前`という文章に込めて、ビットコインの初めのブロックに埋め込んだ。それは、`ジェネシスブロック`と呼ばれているんだ!」
「ジェネシス…話が壮大すぎてついていけない」
ねねはごくりと唾を飲み込んだ。
*
「ビットコインのシステムについては、さっきの説明でなんとなくわかったわ。それで、そのシステムの開発者、論文の発表者は誰なの?」
ねねの質問に対して、秀吉は少し言葉を失った。誰か、と聞かれても、明確な答えがなかったのだ。
「一応、サトシ・ナカモト…だ」
「え、一応ってどういうこと?」
「サトシ・ナカモトは、匿名の人物なんだ…本名はわからない」
「なるほど、仮の名前、ってことね。
けど、論文って、大学教授とかが書くものよね?どうして、サトシ・ナカモトが書いたの?」
「それは…わからない…」
「その論文は、なぜインターネットの世界に発表したの?」
「それも、わからない…」
「なにもわからないじゃない!」ねねは声を荒げる。ここまで得意げに仮想通貨について解説してきた秀吉も、サトシ・ナカモトについてはほとんど何も知らないようなのだ。
「これは、ビットコインのソフトウェアに埋め込まれた当日のロンドンタイムズ紙の見出しだ。それを書き込んだ意図は、既存の金融システム崩壊への皮肉、だとされている」
「皮肉?」
「ビットコインが誕生した2009年は、リーマンブラザーズの破綻を皮切りに世界金融危機が起こっていた頃だ。開発者は、世界の惨状を肌で感じながら、銀行を筆頭とした既存の金融システムが人々に十分なサービス提供をできていないと感じたんだろうな」
「世界の格差拡大とも関連するわけね?」
「そう。21世紀の資本でピケティ氏が語っていたように、世界では格差が広がっている。
開発者は、その一因は銀行だ、と思っていたみたいなんだ。銀行は武器商人や資金洗浄を行う者や世界的な麻薬カルテルや多国籍企業にサービスは提供する一方で、移民、適切な証明書類を保有しない人といった貧しい人々、不利な人々にはサービスを提供しない、そう認識していたみたいだな」
「でも銀行って、今の資本主義経済の根幹となるビジネスよね?人々は自らの富を銀行に預けているじゃない?」
「いや、銀行に預けることさえできない人も多い。世界銀行よれば、銀行口座を持てない成人の数はいまだ、世界全体で見ればおよそ17億人に上っているそうだ」
「本当に?!じゃあ、`口座を持たない`人たちはどこにお金を残しているの?」
「それはわからない。ただ、銀行が提供するサービスに、最貧困の人々は含まれない、っていうことだ。銀行口座は保有する人を金融システムと結びつけ、日常生活における煩雑さを減らし、資産を築くことを可能にする。だが、その段階にさえ到達していない人には、門徒を開かない」
「銀行口座があることって、あたりまえのことだと思っていた…」
「あたりまえのことは、あたりまえじゃない。そう考えるところから世界を見直すことにつながるんじゃないかな。ビットコインの開発者は、世界の現状をみて、銀行を主体とした現在の資本主義が採用している金融システムでは、世界は良くならないと考えたんだろう」
「だからビットコインを開発し、それを世に解き放った…」
ねねは前のめりに返答する。彼女も何かに気付いてきたようだ。
「そう。ビットコインの誕生はこれまでの世界にブロックチェーンという新たな技術をもたらした。始まりはひとつの論文」
「その論文が、世界を変えた?」
「そうさ!そして、自らの意志を`財政担当大臣 二度目の銀行救済策目前`という文章に込めて、ビットコインの初めのブロックに埋め込んだ。それは、`ジェネシスブロック`と呼ばれているんだ!」
「ジェネシス…話が壮大すぎてついていけない」
ねねはごくりと唾を飲み込んだ。
*
「ビットコインのシステムについては、さっきの説明でなんとなくわかったわ。それで、そのシステムの開発者、論文の発表者は誰なの?」
ねねの質問に対して、秀吉は少し言葉を失った。誰か、と聞かれても、明確な答えがなかったのだ。
「一応、サトシ・ナカモト…だ」
「え、一応ってどういうこと?」
「サトシ・ナカモトは、匿名の人物なんだ…本名はわからない」
「なるほど、仮の名前、ってことね。
けど、論文って、大学教授とかが書くものよね?どうして、サトシ・ナカモトが書いたの?」
「それは…わからない…」
「その論文は、なぜインターネットの世界に発表したの?」
「それも、わからない…」
「なにもわからないじゃない!」ねねは声を荒げる。ここまで得意げに仮想通貨について解説してきた秀吉も、サトシ・ナカモトについてはほとんど何も知らないようなのだ。
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