こちら織田証券(株)清州営業所

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

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【外伝】ねねと秀吉~暗号資産講座

【ねね秀】ビット&ライトのそのコインのせいだよ

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2020年11月中旬。年末には暗号資産市場がバブルを迎えると予想していた秀吉は、遅くまで会社に残ることが多かった。軍資金を増やすため、出世をするため、信長様の期待に応えるため。ただひたすら相場にはりついてトレードをしていたのだ。

そんな秀吉の帰りを、自宅でひたすら待つ人がいた。その人の名前はねね。秀吉の妻だ。彼女は当初こそ秀吉の帰宅を純粋に待ちわびていたが、最近は帰りが遅いことがストレスになっていた。

「え?私の旦那、帰宅するの遅くない?世の中はテレワークだの働き方改革だの言ってるのに、うちの秀吉は何時まで仕事してんのよ!?」という内容をTwitterで呟いていた。
アカウント名は、ねねたん@秀吉の鬼嫁 歯にきぬ着せぬ物言いが、SNS上で人気を博していた。



「ただいま」とドアを開けた秀吉に、「今日も遅かったわね、あなた」と、ねねは険しい剣幕で迫った。
「♪ビット&ライトのそのコインのせいだよ~♪」

「は?」ねねは、耳を疑った。自分の夫が、エイなんとかのヒットソングの替え歌を急に歌いだしたからだ。

「仕事が忙しいから帰宅が遅いんだよ」えなりかずきよろしく、唇を尖がらせる秀吉。

「本当に?また女の子と遊んでるんじゃないの?」とねねは秀吉を問い詰める。

「バレたか、ちょっとばかしキャバクラに…ってそんなわけないだろ?!」

「でも、おかしいじゃないの?あなたは証券会社勤務でしょ。株式は9時に相場が開いて、15時には閉まるはずよ。法人営業も兼任しているとはいえ、最近は帰宅が遅すぎるわ」

「違うんだ、ねね。最近、俺がメインで売買しているのは、株式とは全く違う性質の銘柄なんだ」

「え、どういうこと?」

「実は、実態がない、目には見えないモノを売買している」

「え?幽霊の人身売買??」

「そう、この幽霊は10万円から~~って、違う!!目に見えないっていうのは、デジタル通貨って意味だ!」

「デジタル通貨…?なにそれ?」

「俺たちが普段使っている日本円や、世界の基軸通貨の米ドル。これらは実体の紙幣や硬貨が存在する法定通貨だ。日本銀行やFRBが責任を持って発行している。
それとは違って、仮想通貨・暗号資産といったインターネット上に存在し、実物を持たない通貨を、デジタル通貨というんだ」

「なんか怪しいわね…」ねねは目を細める。

「怪しくなんかないさ。

「インターネット上でやりとりできる財産的価値で、実際に米国の上場企業もそれを利用している。日本でも、`資金決済に関する法律`において、次の性質をもつものと定義されている。
(1)不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨と相互に交換できる
(2)電子的に記録され、移転できる
(3)法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
ほら、怪しくないだろ?」

「怪しいか怪しくないかは、そんな瞬時に判断できないわよ。
私にとっては、日本円の紙のお金や硬貨しか、お金とは思えないし」

「まあ、そうなるか」秀吉は少しがっかりした。

「それで、そのデジタル通貨と、あなたの帰りが遅いこと、どういう因果関係があるのよ?」

「デジタル通貨には、時間制限がないのさ。
株式市場でも貴金属市場でも、だいたい9時ごろに相場が開いて、夕方には閉まる。しかし、デジタル通貨市場、いわゆる仮想通貨市場は、24時間365日、市場が開いているんだ」

「コンビニみたいな市場ね」

「そんなほっとする場所じゃないさ。
♪ビット&ライトのそのコインのせい♪で眠れなくなることだってあるんだ」

「それどういう意味よ?」ねねは秀吉に尋ねる。

「仮想通貨は価格変動が大きいんだ。寝てるうちに30%暴落した、なんてこともしょっちゅうある。気になって仕方がないんだよ」

「日常生活にまで支障をきたすってどうなのよ?」

「しかたないだろ、24時間開いているんだから…」

「まるで、血を吐きながら走り続けるマラソンのようね…」
ねねはぼそりと呟いた。
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