こちら織田証券(株)清州営業所

喜多ばぐじ・逆境を笑いに変える道楽作家

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【Ⅰ章】秀吉、暗号資産に全集中をする

1話 TA・WA・KEEEE!!!!

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「信長様ァ…!も、申し訳ございません!ポンド/円部隊が、壊滅寸前です…」

「トゥアァ…TA・WA・KEEEE!!!」

パワハラ、アルハラ、モラハラ。数十種類にも増えたハラスメント戦国時代をものともせず、織田証券株式会社清州営業所では、今日も信長の怒鳴り声が響き渡る。

「ロスカットの逆指値売却設定を忘れるな!と、毎朝朝礼で唱和しておるじゃろうが!?」

「はぁい、ただちに売却を進めます…」
FX課に配属されてまだ9か月程度の新入社員・我毛氏郷は、力なく返答する。

「もう遅いわ!その通貨ペアは塩に漬けておけ。100貫ほど追加の軍資金を支給してやるから、それで挽回せい」

令和の大魔王と呼ばれる信長社長の前では、有名大学卒のエリートも心なしか小さく見える。さきほど叱責された我毛こと通称ガモたんは、生まれたての小鹿のように体をプルプルとさせていた。

「どうしよう…こうなったら、海外FXでフルレバレッジを...」

「トゥアァ…TA・WA・KEEEE!!!」信長、再び咆哮。

「あっぁああああ!!」ガモたんは冷静な判断力を失い、頭を抱えながら席から立ったり座ったりを繰り返している。広島カープのスクワット応援みたいな。

「ガモたん!落ち着け、落ち着かんかあ!」自分の怒号でガモたんをパニック思考停止状態に至らしめた信長は、彼をなだめている。

「ガモたんよ。よいから深呼吸をせえ。お主はまだ入社して間もない。いきなり、最難関のFX課に配属させた儂も悪かった。
一度冷静になって、わが社の社訓を読みあげるのじゃ」

「は、はい」
ガモたんはそう言って、織田証券株式会社社訓をそらんじはじめた。

一、不換紙幣は信じるな
一、短気は、損気(信長社長は別枠)
一、寝る暇あるなら、チャート分析
一、歓喜で売って、悲観で買え
一、フルレバレッジはダメ、ゼッタイ…

「そこまででよい。どうじゃ、ガモたん。落ち着いてきたか?

「はい。次は、資金管理を徹底してから相場に挑みます」

「そうじゃ、その意気じゃ」信長はそう言って、ガモたんの背中を叩いた。

決してホワイト企業とはいえない軍隊方式の織田証券株式会社だが、不思議と入社志望者は絶えなかった。ノルマ達成の際の報酬が外資系企業に匹敵するほどのものだからか、それとも信長社長のカリスマ性か。

叱責されていた隣の部署のガモたんは、秀吉にとって他人事ではなかった。ガモたん以上の叱責を浴びる大失態を犯してしまっていた彼は、苦虫をすりつぶした顔をしている。

秀吉は、心の中で評定を開いていた。
「どうしよう。この報告をせぬまま、織田証券から消えてしまおうか…
でもだめだ。俺は巨大財閥・今川グループを飛び出して、不退転の決意で織田証券に転職したんだ。これくらいのおっぱい、じゃなかった、失敗で逃げるわけにはいかない…」

意を決した秀吉は、自らのデスクを立ち、信長の下にやってきた。
「信長様、実は、大事な報告があります」

「なんじゃ、サル?」

「私に与えられていた軍資金ですが…2/3が消失しました…!」

「ん?ど、どうしてじゃ?」

「TAWAKE!!!と怒鳴らないで聞いてほしいのですが…大丈夫ですか」

「わかった。TAWAKE!!!は封印し、冷静に、聞くとしよう…」

その言葉を聞いて安心した秀吉は、会社員にとって元も大事な報連相を行い始めた。
「信長様に報告していたように、暗号資産XRPは、11月に一時80円をつけ、わが軍の軍資金も4倍に達しました。そのときにさらに買い増ししていたのですが…
数日ほど前、XRPの発行元であるRipple社が提訴されました」

「提訴?それは、裁判のことか?」

「はい、裁判です」

「え、ガチ?裁判って、え?裁判?」普段は社員に対して威厳を保つため戦国武将のような言葉遣いをしている信長もこの時ばかりは若者言葉になっていた。

「はい、残念ながら、ガチなヤツです…」

「ガチかあ。で、当方の被害は?」

「一時、40%を超える大暴落。XRP部隊は壊滅寸前。そのほか、アルトコイン戦線も壊滅に近い状況です…」

信長様はわなわなと震え出した。これはヤバい、激おこだ、と秀吉が気付いたときにはもう手遅れだった。

「トゥ、トゥアァ…TA・WA・KEEEE!!!」
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