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第9章 変わりゆく世界
8 運動会に行くよ
しおりを挟む「そっか……運動会の季節かぁ……」
「桜さんが、よかったです!」
10月10日の日曜日に、小学校と保育園合同の運動会がある。
小さな町の小学校。きっと地域の人をまきこんで、盛り上がる。子供達も、毎日、徒競走や組体操の練習にと、運動場を走ってるだろう。
桜も、全員揃って応援に行く。子供達もそれを強く望んでいた。
「そうだねぇ、私も見ておきたいよ!」
「そうですね……」
何だか、もう見れない。蒼空にはそんな風に桜が、いってるようで気になる。
「蒼空、明日は大木先生に会うのよね?」
「はい、もう一度話しを聞きたいと……」
「声をかけといて欲しいんだけ……」
「いいですよ」
蒼空は、バスに乗ると後ろの席に座り。窓の外を何となく眺める。
「あれっ!?」
走るバスから見える景色が、歪んだ。
一瞬の事だった。
疲れてるのかな……?
目を閉じて瞼を押さえる。
バスが、街に入ると、何度も桜と来たはずの街並み。
初めて桜と来た時、行き交う車や、女性のファッションが、懐かしさを感じたが、色鮮やかで、新鮮であった。
今日は、違った……
車に建物、店先で、買い物をする女性のファッション。
全てが、蒼空が、知る流行からずれた、古さに嫌悪感さえ感じてしまう。
いつも、買い出しに行っていた『太平洋スーパー』の看板さえ、色褪せた写真のように見える。
「はい……どちら様?」
「大木先生、蒼空です!」
インターフォンを鳴らすと、そこに大木が、立っていた。
蒼空を見る大木の顔は、老紳士のような穏やかな笑みはなく、 感情や隙を見せない無表情。
「……どちら様?」
「いやだなぁ、僕ですよ!?」
「すみません、家を間違えていませんか?」
「先生……」
大木は、蒼空をちゃかしている表情はない。眉間にしわを寄せ、蒼空を見る大木からは、あきらかに警戒心を感じる。
「あぁ、すみません……僕の思い違いでした」
ドアが閉まり、鍵をかける音。
蒼空は、自分の態度に不手際があった。そう思うしかなかった。
帰りのバス。田舎の町に向けて走るバスの中、少ない乗客。斜め前の、顔見知りの男性。乗車の時に、頭を下げても不思議な顔をする。
「ただいまぁ」
「おかえり……どうしたの?」
施設に戻り、桜に、大木とのいきさつ、バスで知り合いとの事を話した。
「そんな歳でもないのにねぇ……わかった電話しとく……」
「すみません……」
蒼空は、そう言ったものの、ついこの前まで、自分の症状に、興味を持つ程だったのに、急に、あんな事を言うなんて不思議でしょうがない。
それよりも、笑顔で子供達の夕食の準備を手伝う桜の事が、気になる。
*
今日は、桜が当直の日。話しを聞きたい。
「桜さん……」
「蒼空、どうしたの?」
「えっと……ですね……『私も、見ておきたい』って….?」
「そんな事、言ったかしら……」
「えぇ……」
退院して、数日しか経ってない。体調が 、おもわしくないのか……
「桜さん、身体の調子が……良くないんですか……」
「何でぇ……?」
「なっ、何となくです……」
「大丈夫よぉ……」
上手く、はぐらかされた。
「ねぇ、蒼空兄ちゃん」
「どうしたの省吾?」
運動会で 、家族リレーがある。
省吾はじめ、子供達は、桜が走れるのか心配みたい。
省吾が、こっそり聞きに来た。
「あぁ……」
「大丈夫よぉ、走るよ!」
「本当!?」
「うん!!」
「皆に教えていい?」
「いいよ!!」
見回りに来た桜が、返事する。
「桜さんいいんですか?」
「あたりまえでしょ!!」
桜が、ガッツポーズをして省吾に約束する。
その夜、蒼空は夢を見た。
幼い頃の自分が、走る。同じ歳位の子供達に、追い抜かれていく。
カーブを曲がった先に、紺色のジャージに白いティシャツ姿の女性が、手を振りながら名前を呼ぶ。
「……頑張れ!!」
女性に、青色のバトンを渡した時に、目が覚めた。
今のは、僕の子供の頃の記憶……?
*
10月10日
「おはよう!」
「おはよう!」
子供達が、緊張している。
「皆で行くからね!!」
「絶対だよ!!」
「アウウウウ!!」
白い体操服に、運動靴。
子供達が、いつもの時間に、6人で出かけていく。
「美桜は、一緒に行かないんですか?」
「保育園は、遅く始まるから、私達と一緒でいいのよ!!」
「そうですか……」
美桜はすでに、やる気満々で先ほどから、何度も何度も、走っている(あぁ、始まる前から……疲れるよ)。
「ねぇ、桜このジャージ派手じゃないかしら……?」
「だっ、大丈夫……」
施設長の涼子は、先ほどから何度も着替えて、桜に見せている(ここにも、張り切る人いた……)。
昨晩から、鶏肉に下味をつけて 、今朝も4時に起きて、重箱に沢山のおにぎりと、子供達の好きな、おかずをつめる春子。
皆が、子供達の応援に力を入れる。
きっと、他の子は 、母親が愛情たっぷりの弁当を、父親は、席取りに朝も早く出かけるのだろう。
「あのう……席取りは誰が?」
「おじちゃんが、いってるわ!」
「浩三さんが?」
「おじちゃん気合いが入ってたから、大丈夫! ねぇ、おばさん!!」
「そうだねぇ……」
桜と春子が笑う。
皆、待っててね! 今から行くからね!!
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