虹のした君と手をつないで

megi

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第9章 変わりゆく世界

7 桜さんが、帰って来た

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「いってきます」
「車に、気をつけてろよ」
「わかってるぅ……」

 子供達が、学校へ出かけていく。

 蒼空は、もうすぐ運動会だって 、焼き肉を食べながら聞いた。

「おはよう美桜」
「ウウウウ」

 黄色の帽子に水色の制服。今日は保育園に行く! 美桜は張り切っている。玄関先に座り迎えにくる、田崎さんを待っている。

 桜が、帰ってくる。子供達は、どこかウキウキして、元気がいい。

 蒼空も、嬉しい。いつもの生活に戻れる事と、美桜の厳しい指導から解放される喜び。

 そして、桜の姿と声…… 

 どんな顔で迎えたらいいのか、悩んでしまう。

「おはようございます」
「施設長……?」
(いつもなら、『おはよう!』なのに?)

「だって、まだいるじゃない……小さな桜」
「アウウウウ」

 美桜は、深々と施設長に、お辞儀する。

「おはようございます」
「アウウウウ」

 次々と出勤して来る職員も、美桜にきちんと挨拶する。
 
 当然、美桜も皆に深々とお辞儀する。

「施設長、不思議ですね」
「何が?」
「だって、美桜声出せないんですよ」

 声を出せない美桜が、積極的に挨拶をする姿に 、成長を感じる。

 人の成長って、何がきっかけになるか、わからない。

 *

「ただいまぁ」
「桜さん、お帰り」
「桜さんお帰りなさい」
「桜、疲れただろう……」
「皆、ただいまぁ……」

 朝の10時頃、桜が帰って来た。顔色がよくて、蒼空を除いて、皆が、ホッとした顔をする。

「お腹すいたぁ」
「何が、食べるかい?」
「うん、おばさんのご飯が1番だよ!」
「さっ、桜さん……」
「蒼空、ごめんね! 助かったわ!」

 皆に囲まれた、桜が食堂へ消えて行く。

「桜さんの色……消えてない……」

 検査で、結果に異常がなければ、桜をおおった、青色のシーツが消えているはずなのに……

 皆から、あふれでる緑色の波……

 桜さんが、まとう色は、深い……悲しくなるほど、深い青色…… 

「蒼空ぁ、あなたも付き合って……」
「は、はい……今、行きます……」

 どうして、あなたは、笑う事ができるんですか…… ?

 僕は、わからないよ……

 *

 午後2時を回った。

 蒼空は、掃除をしながら、窓を見てる。

 子供達が、走って帰って来るのが見える。

 桜の帰りを待っていたのは、子供達も同じ。

「姉ちゃん!」
「桜姉ちゃん!」
「しっ、静かに……疲れて寝てるからね!」
「えぇ……」

 桜は、疲れてたみたいで、昼食を終えると部屋で 、身体を休めている。

「アウウウウ」
「ただいまぁ、帰りました……」
「今日は、少し早いですね」
「美桜ちゃんが、帰るって、きかないんですよ」

 小学校の運動会の後は、美桜の保育園の運動会。

 10月は 、子供達も保護者も忙しい月だ。
 今日、美桜は、運動会の練習で、少し帰りが遅くなるって、聞いてたのに、美桜も桜に会いたくて、帰って来てしまった。

「美桜! ただいまぁ….」
「アウウウウア」

 蒼空と田崎が目を離したすきに、2階の桜の部屋に、侵入した。

「あぁ、美桜ちゃんだけずるいよ!」

 男の子達も、部屋から出てきて、美桜を抱いて降りてくる桜の周りに集まる。

「わかった、わかった……」

 3日間の出来事を話したがる子供達。

「ウウウウウ」
「あらぁ、私の事、気づかってくれるの?」

 桜に抱かれた美桜が、『あっちに行け!』と手を振る。

 美桜……君が、1番桜さんに負担かけてるよ……
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