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第9章 変わりゆく世界
4 桜への想い
しおりを挟む「皆、車に、気をつけてよ!」
「はぁい」
「子供達、からかわれなくて、よかったですね……」
「そうね……あの時、どうなる事かと思ったけどね……」
新学期が始まり、蒼空と桜が心配したのは 祭りで目立ってしまった事。
からかわれるんじゃないか?
それが、気がかりだった。
「先生、おはよう」
「おはよう」
学校に行く子供達と入れ替わりで、涼子が、出勤してくる。
「おはよう、桜、蒼空」
「涼子、おはよう」
「施設長、おはようございます」
「子供って、元気よね……うらやましいわ!」
施設長、あなたも元気ですよ!
施設長の涼子は、桜と蒼空の心配をよそに、清々しい顔で、入ってくる。
「おはようございます」
「田崎さん、おはようございます」
田崎の声を聞きつけた美桜が 、食堂から、飛び出てくると、田崎の前に立つと、身体の前で、手を合わせお辞儀する。
「あら、おはよう美桜ちゃん」
「桜さん……美桜、どうしたんですか?」
「さぁ……」
「フフフ……」
初めて、保育園に行った時、同じ組の男の子と喧嘩して、相手の子を泣かせてしまった。
原因は、声を出せない美桜をバカにした事が、きっかけらしい。
大事にならなかったが、先生の一言が、聞いたらしい。
「何て言われたんですか?」
「フフフ……『おしとやかな方が、男の子にもてるよ』って言われて、こうなったんですよ」
「あら、美桜、そうとも言えないわよ!?」
「そうそう、強い女の子を好きな男の子もいるわ!」
「……ハハハ」
桜と涼子は、美桜の耳元でそうささやく。
美桜は、キョトンとするが、玄関を出ていく時には、肩で風を斬りながら歩いて行く。
本当に、この人達は、美桜に、何を吹き込むのか……
蒼空は、あきれてしまう。
*
「蒼空、ちょっといい?」
お風呂を掃除していると涼子に、医務室へ呼ばれた。
「蒼空、大木先生に聞いたんだけど」
「はい」
「省吾とあなた人の色が、見えるんだって……」
「……はい」
「そう、どんな感じ?」
「う……ん、気持ち悪いです」
「気持ち悪い……?」
「私の色……見える?」
「見えないです。突然、見えるんですよ」
「省吾も?」
「はい、そうですね……最近は見えないみたいですね……」
「そう……」
蒼空は、涼子に聞かれた事を素直に、話した。
涼子は、蒼空よりも、省吾を心配しての事だった(当然だよな)。
「省吾にも、話しを聞きたいわね」
「……話さないと思いますよ」
「あら、どうして?」
「誰も信じてくれないって、言ってましたから」
「そう……まっ、いいわ! しばらく様子をみましょう」
「では、戻りますね」
「ちょっと、待って」
「まだ、何か?」
蒼空は、省吾の事を、涼子に話した事を 省吾を裏切るようで、これ以上話すのは、いけないと思ってしまう。
そう、友達を売ってしまう……そんな、罪悪感。
「桜の事、どう思ってるの?」
「素晴らしい先輩です! 恩人でもあるかなぁ……」
「桜の幼なじみとして、聞くけど、女性としてどうかしら?」
「……えぇっと……」
「……わかったわ!」
「何も、言ってないですけど!?」
体温が上昇する事を感じた……
改めて、聞かれると困る。記憶喪失の自分。素直に認めれない。
素直に、自分の気持ちを伝えられたらいいのに、そんな思いは、記憶を失う前から抱いていたような気がする。
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