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第8章 夏祭りと桜のペンダント
3 七色の浴衣
しおりを挟むあれから、春子さんに怒られた……。
「蒼空、虹の子達じゃないでしょ」
「春子さん、すみません……」
びしょびしょに、濡れた服と笑顔の子供達。
蒼空は桜と涼子が、お腹を押さえて込み上げる笑いをこらえる2人を見て、いったい誰のせいなんだよ……!
8月15日の日曜日。子供達が、通う小学校で開催される。
「ねぇ、子供達は、浴衣……持ってるかしら?」
「ないわよ! 涼子だって知ってるでしょ? この子達の事情!!」
「桜、聞いただけじゃない」
「だいたい、誰が発端なの?」
「私……だけど……でも、よかったでしょ!? 皆の気持ちが、聞けたんだから……」
「すぐ、ごまかす」
(そうです、施設長のせいで、僕は夜に洗濯してるんです……)
不安が消えたわけじゃない。子供達は、回りの目を気にするのは、変わらない……。
そして、桜さんならやりかねない……。
「わかった!! 私が、プレゼントするわ!!」
「えっ?」
「浴衣、プレゼントするわ!!」
「いいよ、普段着で……」
「せっかくだし、大事な親友の子供達よ! それに 私の子供達でもあるわ!!」
なんだ、施設長は初めから、そのつもりだったんだ。
食堂から聞こえてくる2人の会話に、風呂場で、洗濯機に、子供達の洋服を入れる蒼空。自分でも自然と笑みがでるのが、わかる。
*
「蒼空、おはよう」
「桜さん、おはようございます」
「おはよう、桜」
「ラジオ体操は、どうしたの?」
「桜さん、今日は日曜日ですよ」
「あっ、そうか……」
「桜、さっき、涼子ちゃんから電話が
あったよ」
「えっ、何かしら?」
「今日、10時に太平洋スーパーに集合だって……」
「えぇ……」
「桜さん、あれじゃないですか?」
「あれっ? あぁ……!?」
やっぱり、桜さん、忘れてる。
一昨日、『今度の日曜日に』そんな約束をして、子供達に伝えてたのに……
「蒼空……あれって?」
「浴衣ですよ……」
「あぁ!!?? そうだ!! 子供達起こさないと!!」
「もう、皆、準備できてますよ……」
「えっ!? 何時間!!??」
「……9時です」
「起こしてよ!!」
桜さんあなたですよ! 昨夜、皆に早く起きるように言ったのは……
桜は、急いで2階に上がっていく。
「ねぇ、蒼空兄ちゃん……まだ、出かけないの?」
「ハハハ………もう、ちょっと待ってようか……」
「はぁい」
子供達は、昨日から久しぶりの買い物に行ける事を楽しみにしていた。聞き分けがいい。
「皆、車に乗って!!」
「あのう……僕は……」
「蒼空は、おじちゃんに乗せてもらって!」
「もう、来てるよぉ……」
「だっ、そうです!」
蒼空は、春子の夫である浩三と買い出しがてら、着いていく。これも、昨夜、桜が段取りをした。
桜は、子供達を車に乗せて急発進させ、施設を出ていく。
「あいつ、大丈夫かな」
「浩三さん、大丈夫ですよ!」
桜の車の後を浩三と着いていく。後ろから、見ていても、なんとなく子供達が楽しそうに、しているのが、わかる。
「元気になってよかったよ……」
「桜さんですか……?」
「そう……」
「春子から聞いてるだろ、先生との事……?」
「はい」
「ずっと、悩んでたからなぁ……」
「そうですか……」
「よかったよ……子供達と蒼空君が、いてくれて……」
「いゃぁ、僕は、記憶ないから……お世話になってるのは、僕だから……」
「……そうか」
浩三は、ニコリと笑う。
「ごめん、涼子ぉ……」
「遅いよ」
10時10分。涼子は、入口の前で、腕組みをして待っていた。
「おはようございます。おじさん 」
「おはよう、涼子ちゃん」
「蒼空、おはよう……桜、寝坊?」
「……はい」
「しょうがないなぁ……」
*
昨夜の事だった、春子と浩三のはからいで、町に一件だけある居酒屋に、3人で食事に行った。
はじめは、仕事の事なんかを話していたけど、そのうち会話は、桜と西野の事になった。
「あいつ、私を大事にするっていったのに……」
「ちょっと、桜……蒼空がいるのよ……」
「もう、蒼空も家族のようなもんだからいいのよ!」
「ハハハ……桜さんうれしいですけど……」
「私が、子供できにくい身体になったと
言ったら、違う女性と……」
「違うでしょ……」
春子に、聞いて知っていたから、驚きはしなかったけど……
やっぱりショックだよな……
その後も、酔いつぶれるまで、西野先生への愚痴は、止まらなかった。
「施設長……桜さんは……」
「そうね……なかなか忘れられないでしょうね……」
「そうですよね……」
「あの時、施設に来たのは、桜に踏ん切りをつけるように、言いに来たのよ」
「そうですか……でも……あの時は……」
「そうね……1人で決めたのね!」
相手を思う悲しい決断。蒼空は、切なく苦しくなった(愛していたんだ……)。
「でも、施設長……僕を見て……」
「そうね、知ってたわ! 記憶喪失の男性がいるって……なんか
ほっとけないって……」
*
蒼空は、涼子に平謝る桜を見て、昨夜事を思い出していた。
「ほっとけないかぁ……」
自分の事より 他人の心配する桜だから、施設長も春子さんも浩三さんも桜を心配するんだなぁ……
だから、子供達は桜さんの優しさがわかるんだ。
僕は……
「ほらっ、蒼空も着いてきて!」
「買い出しは……?」
「おじさんなら、大丈夫だから!」
「浩三さん……」
「あぁ、任せて! 桜を頼むよ……」
「……はい」
蒼空は、皆の後を着いていく。流行りのアイドルのポスターに、店内に流れる流行りの歌(懐かしい)。
美桜と手をつなぐ桜(美桜、階段でこけないようにね)。
「……」
「美桜大丈夫?」
「ウェェン」
「みっ……」
「美桜大丈夫?」
美桜に声をかけようとした時、省吾が、蒼空の横を走り抜ける。
(美桜が、転ぶような気がしてた……)
「大丈夫、痛くないよ……大丈夫!」
省吾が、美桜の頭を撫でながら、優しく微笑む。
省吾……あんなに優しい顔……できるんだ……
「さぁ、行こっ!」
省吾が美桜の手を握ると、売り場へと走り出す。
「走らない! また、転ぶよ」
「ハハハ……お母さんみたいですね」
「うるさい!!」
売り場に着くと、浴衣のコーナーに涼子が、案内する。浴衣を着た親子のマネキンに、子供達は、視線を奪われてしまう。
「皆、こっちよ!」
「これなんか、どうかしら?」
「いいねぇ……」
黄色、青色、緑色、橙色、紫色、藍色、6色の生地に、トンボの柄がついた浴衣が並べられている。
「美桜はこれなんかどう?」
「かわいいねぇ」
赤色の生地に、花柄があしらっている。
「あのう、施設長……」
「どうしたの?」
「ひょっとしたらなんですけど……」
「なぁに?」
「名前ですか?」
「おっ、鋭いねぇ!!」
「……??」
「桜さん、わかりませんか!!??名前ですよ!! 名前の1文字!!」
「あぁ、なるほど!!」
「それだけじゃないのよ!!」
涼子は、子供達を横に並べて、得意気な顔をする。
「虹の子!!」
「あぁ……!!」
これには、蒼空も驚いた。
「なんだ……涼子……気づいたの?」
「あなたが、ずっとこの子達の話しをする時、『虹の子』って言ってたからね!」
「だから、私も虹色にしたわ!!」
蒼空は、気付かなかった(そうか……!!)。
でも、子供達は気に入るだろうか、涼子はそこまで、考えてるのかな?
「皆、これでいい?」
「……う……ん、よくわからないから、これでいいよ……」
「……」
ただ、美桜は首を横にふる。
「えぇ、美桜これがいいでしょ?」
美桜は首をふり、桜の手を引っ張る。
残念そうな、涼子。
美桜が指ださしたのは、猫のキャラクターの柄がついた赤色の浴衣だった。
「赤色には、違いがないよね……よかった……」
涼子の小さな声が聞こえる。
本当、この人は、イベント事が好きなんだから……
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