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第8章 夏祭りと桜のペンダント
2 子供の気持ち
しおりを挟む青い夏の空、遠くに黒い雲。きっと、もうすぐ雨になる。
蒼空は、玄関前を箒ではきながら、子供達の事を考えていた。
皆も、同じ気持ちなんだろうな……
「美桜、そろそろ中に、入ろうか? 雨が降りそうだよ」
美桜が、サラサラの地面に、小枝で絵を描いている。子供達の姿と、大人の女性の姿。
「上手だね……皆と桜さんかな?」
美桜には、いつも 驚かされる。蒼空は、胸が熱くなった。
「そうだよ! 美桜! そうだよね!!」
絵の横にひらがなで、書かれた『かぞく』
大人の女性の横に、同じくひらがなで書かれた『さくらすき』。
蒼空は、雨が、降りだす前に、皆に見てもらいたい! 急いで、施設の中に戻る。
「あぁ、私としたことが……」
「しょうがないよ……」
食堂にいくと、子供達の気持ちを考えずに、先走った事を後悔する涼子をなだめる桜。
「桜さん、施設長! 見てもらいたいものが、あるんですけど!」
「なぁに、慌てて……」
「桜さん、こっち!」
蒼空は、桜の手をとると急いで、外に出ると、まだ、座りこんで絵を描く美桜がいる。
「あら、美桜画伯は、何を描いてるの?」
美桜は、桜を見上げると、ニカッと笑う。
「見て桜さん!」
「どれどれ……えっ!?」
桜の瞳が、涙で潤むと、両手で顔を隠す。
「もう、先に行くなんて……ちょっと、桜どうしたの?」
「施設長も、見てくださいよ!」
「あら、そう言うことか……」
「他の子達も、呼んできます!」
蒼空は、6人の子供達を呼びにいくと、何だろう? 不思議な顔をする。
「ほら、皆も見て!」
子供達は、しばらく美桜の絵と泣いている桜を黙って、見ている。
「僕も!」
突然、省吾が、美桜の隣にしゃがむと、指で『かぞく』『みんな大好き』と書く。
他の子達も、省吾につられるように、思い思いに自分の気持ちを地面に、書いていく。
『すき』
『かぞく』
そんな言葉が、書かれていく。
「僕も……」
紫苑は、最後に座り、地面に思いを書く。
『ぼくも、みんなが、すき』
『さくらねえちゃん、いつもありがとう』
『おばちゃん、ごはんありがとう』
コルク色の地面に、感謝の言葉がつづられる。
「じゃ、僕も……」
蒼空は、地面へこう書く。
『みんな大好きだよ』
涼子も春子も他の職員も書いていく。
最後に、桜が書く。
『みんなだいすき』
『みんな虹色にかがやく、わたしの虹の子達』
色とりどりの言葉が、空へと上っていくように、見えた。皆は、ニコリと笑う。
「虹の子……かぁ……いいですねぇ……」
「そうね……あなたの言うとおりね……」
「あっ、いやっ……恥ずかしいぃ……」
「桜……今さらかい!?」
「つい……蒼空が見せるからでしょ……」
「ぼっ、僕のせいですか!?」
「あっ、雨だ……」
夏の天候が、変わるのは早い。遠くにいた雨雲が、上にいる。
大粒の雨粒が、地面に書かれた皆のメッセージを消していく。
「あぁ……」
子供達が、声をそろえてため息を、ついている。
そんな子供達を桜は、愛おしそうに、見つめている(桜さん、綺麗だな……)。
「わぁ……」
蒼空は、声を上げて雨の中に飛び出して行く。
「……」
「皆! おいでよ!!」
「わぁ……」
「ちょっと……!!??」
子供達が、いっせいに雨の中へ飛び出す。
蒼空は、桜の姿を見て恥ずかしくなった。熱くなった身体を冷やす為に雨の中で、子供達と走り回る。
「ちょっと蒼空!!」
「大丈夫だよ、桜さんこの雨は、すぐにやむよ!!」
「子供達が、風邪ひくよ!?」
「ほら、桜さん見てよ」
蒼空は、晴れてきた空を指さす。
そこには、虹の橋が山の間にかかっている。
「わぁ、虹!!」
「虹だ!!」
7人の子供達は、いつの間にか横に並び、手をつなぐ。
「ほらっ、虹の子達だよ!! あなたが、大好きな、虹の子達だよ!!」
「蒼空……」
「桜姉ちゃん、一緒に、僕たちと祭りに行こうよ!!」
「わかったぁ……バカにする奴が、いたら姉ちゃんが、ぶっ飛ばしてやる!!」
「いやっ、桜さん……そう言う事じゃ……ないと……」
(まぁ、いいか……)
雨は上がり、青い空に虹がかかる。
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