虹のした君と手をつないで

megi

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第7章 変化

1 新しい施設長

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「それでは、お世話になりました」
「大木先生もお元気で……」
「桜さん、蒼空君、春子さんも、元気で」
「ほらっ、皆も、さようならして……」
「先生……あり、ありがとう……」
「うん……皆も元気でね……」

 7月31日

 子供達の手紙を手に、施設長の大木が、去っていく。

「明後日には、新しい施設長が、赴任しますから……」
「そうですかぁ……」
「私達、どんな人か、聞いてないんですけど……」
「そうでしたね……大丈夫ですよ! 元気な人ですから……」

 大木は、ニコリと笑い、施設を出ていく。

「ねぇ……おばさん、どんな人か、聞いてないの?」
「私は、ここの調理担当よ……あんたが、聞いてないのに、私が知るわけないでしょ……」
「そうだけど……」

 事前に挨拶に来るのだろうけど……まだ見ぬ施設長に少し不安が、残る。

「桜姉ちゃん! 」
「紫苑、どうしたの?」
「外に、大きなトラックが、きてるよ」
「えっ!?」

 外で、遊んでいた紫苑が教えてくれた。

「蒼空、何か聞いてる?」
「いえ……何も」
「こんにちは!!」
「はぁい」
「ちょっと、蒼空出てよ!!」
「はい」

 玄関に、緑色のつなぎを着た2人の男性が、立っていた。彼達の胸に『カッパ引っ越しセンター』と書かれたロゴ。

「あのう……何か、間違いでは?」
「いえっ、こちら西野児童養護施設ですよね?」
「はい、そうですけど……ちょっと、待ってください、確認してきます」
「はい」

 いったい誰の荷物だろうか、宅配便ではなく引っ越しセンターだなんて、額に汗をかく、体格のいい男性を残して、伝票を手に確認する。

「誰?」
「引っ越しセンターの人?」
「誰の!?」
「はい。これ伝票です……」

 蒼空は桜に 、伝票を手渡すと春子と覗き込む。

『吉沢 涼子』

 依頼人の欄に書かれた名前を見ると、桜は、目を丸くする。
 慌てるように、2階へ上がり、部屋に飛び込む(桜さん……どうしたの?)。

「ハハハ……そう言うことか……!!」
「春子さん??」
「ハハハ……西野先生らしい……」
「……????」

 伝票を見た2人の反応に、蒼空は戸惑う。

「蒼空、お通しして……」
「いいんですか?」
「いいんだよ……!! ハハハ……」

 蒼空も子供達も春子が、呆れ顔で笑う姿に、あっけにとられる。

「ねぇねぇ、おばさん!!」
「涼子ちゃんだね!!」
「そう!! そうみたい!!?? 今、電話で、本人に聞いたわ! 『よろしく』だって!!??」
「ハハハ……桜、良かったじゃない!!」
「イヤイヤ、涼子は、大学病院で……!?」

『吉沢 涼子』彼女と桜は知り合いらしい。
 彼女は、大学病院の小児科の医師。
 そんな人が、何故、こんな田舎の施設長に?

「あのう……春子さん……吉沢先生……とは?」
「桜の幼なじみだよ」
「へぇ……奇遇ですね?」
「奇遇!? 西野先生が、お願いしたんだろうね……」
「あっ!!?? だから……」

 西野は、つくづくサプライズが、好きらしい。

 どんな経緯で、桜さんの幼なじみに、施設長をお願いしたんだろう……

 桜さんと別れる事に、後ろめたさを感じているのだろうか?

 桜さんは、それを受け入れるのだろうか?

「あのう……すみません……荷物どうします?」
「あらっ、ごめんなさい……」
「ここで、間違いないです!! 奥にお願いします!!」
「はい、わかりました。おいっ!」

 引っ越しセンターの男性は、荷物をおろす為、トラックに戻って行く。

「桜さん……いいんですか……?」
「何が……? いいに決まってるじゃない!!」
「いえ! 桜さんが、いいなら、いいんです」

 蒼空は、不思議だった。西野が、選んだ人材。たとえ、幼なじみといっても、桜が断ると思った。
 それを、あっさりと受け入れる
 (まだ……心のどこかで、西野先生を信じているのかな……?)。
 2人の関係が、特別だったのかと改めて感じた。

 少し、嫉妬した……
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