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第6章 夏の始まり
4 省吾の秘密
しおりを挟む「省吾、僕は皆の所に戻るからね」
「……蒼空兄ちゃん」
「どうした?」
「僕……」
「ん?」
省吾はうつむいた。
「どうした?」
何か話したいんだな……蒼空は丸椅子をベッドの横に置いて座る。
モジョモジョと肩を動かす省吾の姿は、いつもおとなしく、どこか大人びる省吾ではなく、9歳の少年だった。
「僕、ここの人を見ていると、安心するんだ」
「うん」
「皆の色が、綺麗なんだ……」
「色?」
「僕を優しく包んでくれるんだ……」
「ちょっと待って!!?? 省吾 、色ってなんなの?」
省吾の話しは、信じれらない内容だった。
「僕、皆から出る色が見えるんだ」
「色って、出るの??」
「うん! ブワァッと……」
「ブワァッと……」
「うん……」
「春子さんが頭が痛いのも、桜さんが悲しんでいるって言ったのも見えたの?」
「うん……」
春子さんの頭痛の時は、頭からくすんだ色が、煙が立ち上るうに見えて、桜さんの時は、青色の薄いシーツに包まれて見えたらしい。
いつから見えたのか、どうして見えるのか、それは、省吾にはわからない。
「お母さんが、僕を怒る時、いつも赤くて……トゲトゲが出るんだ……」
「トゲって……?」
「そのトゲが、僕に刺さるんだ!」
「刺さるの?」
「叩かれると、痛いけど……ここも痛い……」
省吾は、右手で、胸をグッと押さえ身体を震わせる。
「省吾、辛い事は、思い出さなくていいよ」
「うん」
「でも、どうして僕にその話を……?」
きっと、今までも周りの大人達に 話をしたかも知れない。
う……ん
省吾は、頭がいい子だから、こんな話をしたところで、信じてもらえるはずがない、そう思ったかも……
「何故、僕にその話するんだい?」
「蒼空兄ちゃんは、僕といっしょなんだ……」
「省吾と一緒?」
鏡に自分を写すけど、色は見えない。
それは、普通の事で、色が見える事が特別な事。
「蒼空兄ちゃんの色が、見えないんだ……」
「……!?」
色が見えない……
色の意味や形の持つ意味は、わからない。省吾が見えているのは、おそらく感情なのかなぁ……!?
そう、直感が告げる。
省吾が、自分の事を見れない。それは、何となく、納得できる。
蒼空の色が、見えない。それは、感情を持たないとも、とれる。(僕だって、感情はある……)
「この事は、誰か知ってるの?」
「……」
省吾は、首を横にふる。
「いつか、省吾の話を信じてくれる僕以外の人が、現れるよ!!」
慰めではなく、そんな気がするんだ……
「……うん」
小さくうなずき、省吾の口元がゆるむ。
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