虹のした君と手をつないで

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第5章 短くなった美桜の髪

3 桜の髪

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 いつもの時間、子供達が、学校から次々と、帰ってくる。最後に、省吾が静かに、帰ってくる。

「ただいま、帰りました」
「オォ、省吾お帰り、手を洗っておやつを食べなよ!」
「はい」

 坊主頭になった省吾。幾分、頬がフックラとしてきた。少しずつだが、他の子供達と会話をしたり、ゲームをしたりするようになったが、相変わらず人の顔を見ようとしないし、笑顔を見せることもない。

 省吾の声に、目を覚ました美桜が、目を擦りながら起きてくる。省吾を見るなりニカッと笑う。

 どうも、省吾は美桜の事が、少し苦手らしく口を尖らせると、そっぽを向く。

「いただきます」
「いただきます」

 夕食の時間になっても、桜は戻ってこない。昼間訪ねてきた女性と、出かけたきり帰ってこない。

 春子も、壁に掛けられた時計を、何度も見る。

「姉ちゃんは? お仕事?」
「そうだよ」

 桜に、懐いている8歳の洋介は、姿が、見えない事を不思議に思っている。

「姉ちゃん、お仕事だって!」

 顎に、ご飯粒を一粒付けた太一の言葉に、少し残念そうに「フゥ……ン」と納得する。

「蒼空兄ちゃんは、お仕事しないの?」
「えっ、皆を見るのが、お仕事だよ!」
「ヘェ……」

 洋介の質問に、蒼空は、ガックリと力が抜ける(君たちの着る物を洗濯してるのは、僕なんだけどなぁ……)。

「ただいま……」
「あっ、姉ちゃんだ!」

 洋介は、食堂から身体を半分だして、声が、した方を見たまま動かない。確かに声は、桜の声。いつもなら飛びついて行くのに、不思議と躊躇している。

「どうした、洋介?」
「ただいまぁ……」

 洋介の頭を、撫でる桜。
 その場にいた、誰もが、桜の頭に視線を向ける。

「桜、どっ、どうしたの? その髪は……?」
「えっ、切ったんだけど……へっ、変かなぁ……」
「いぃや! 変じゃないよ……うん、変じゃない!」

 春子は、桜の姿を見て優しく微笑む。

「美桜ちゃんと、同じ髪だねぇ……」

 洋介は、視線を上に向け、桜に纏わり付きながら、驚いている。

「桜さん、似合いますよ」
「ありがと……う」

 いつも後ろで結っていた桜の髪は、肩までのセミロングヘアになっている。皆から視線をそらすように、顔を背け、頬が、赤くなる。

 桜のイメチェンに、子供達が、湧き上がる。

 桜の新しい髪型に、蒼空は照れくさくなる(綺麗な人は、何しても綺麗だなぁ……)。

 ふと、離れて皆を、見ている省吾の表情が、気になった。桜をジッと見つめる瞳は、切なく寂しそうだ(何故、省吾はあんな顔をする?)。

「省吾ぉ……どうして、そんな顔をしている? 前の桜さんが、よかったかい?」
「蒼空兄ちゃん……桜姉ちゃん、泣いてるよ」
「えっ? 照れくさそうにして、笑ってるよ……」
「そう、見えるだけだよ……姉ちゃん、泣いてるよ」

 蒼空の眼から、皆に囲まれる桜の姿は、いつもの桜に見える。何度も省吾に、聞き直すが、省吾は、桜が泣いている、可哀想だと言って聞かない。

「僕には、見えるんだ……」

 省吾は、そう言って部屋に戻ってしまった。

「さあ、皆も、早く夕食すませて、宿題しなさい!」
「はぁ……い」

 夕食を終えた子供達は、それぞれ部屋に戻っていく。美桜は、目をこすり眠たそうだ。

「あらあら、美桜は眠そうだねぇ……」
「おばさん私が、連れていくよ」
「いいよ、桜も疲れたろう……私が寝かせてくるよ」
「うん……ありがとう……おばさん」

 春子は、美桜を抱えると食堂から出て行く。美桜は、軽く手をふるが、瞼は半分閉じている。

「蒼空、省吾は急にどうしたの?」
「いえっ、桜さんをジッと見て、変な顔してから、どうしたのか、聞いただけなんですけど……」
「省吾には、気に入ってもらえなかったか……」
「そんな事ないですよ!! ただ、省吾が桜さんが泣いてるって、聞かないんですよ!」
「あの子、そんな事、言ったの?」
「はい」
「そうなんだ……」
「とっても、似合ってますよ! 気分転換ですか?」
「蒼空は、省吾より女性に、もてないかもね……」
「えぇ……どうして、そんな事に……」
「ハハハ……今度、教えてあげるよ! おやすみ!」

 桜は、蒼空をあざ笑い、部屋へ戻っていった。1人残された部屋。
 蒼空は、頭をかきながら、桜の言った意味を考えるけど、わからない。

「おやっ、蒼空君が1人かい?」
「はぁ……あっ、送って行きますよ」
「そうかい、悪いねぇ……」

 蒼空は、春子に事の事情を話すと、春子は、「それは、桜の言うとおりだよ!」と、大きな声で笑う。

 春子を送った帰り道、蒼空は月を見ながら、考えるけどわからない。 9歳の少年にわかって、自分には、わからない事……

 やっぱり、何度、考えてもわからない。

 女性の考えていることは、忘れた記憶を思い出すよりも、難解な事だと、溜息をもらす。
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