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第4章 桜
2 出かける桜
しおりを挟む「おばさん部屋に戻るね」
「あぁ……蒼空君がいるから、大丈夫だよ……」
「うん……」
子供達の姿を見ていた桜が、突然、立ち上がると、自分の部屋に戻る。春子は、その理由を知っているのか、視線を向けずに返事する。
「さぁ、皆も食べ終わったら、部屋で宿題をしておいで」
「はぁい」
蒼空は、後片付けをする春子を手伝いながらも、突然、部屋に戻った桜の事が、気になる。
「どうしたんせすか?」春子に聞きたいが、口に出せない(桜さん、どうしたんだろう……どこか、悪いのかな?)。
美桜が、蒼空のズボンを引っ張る。
「美桜はえらいなぁ」
「……」
美桜は、マグカップを持っていつもの様に、ニカッと笑う。
「あのぉ……蒼空兄ちゃん」
「省吾も、ありがとう。どうした?」
「桜姉ちゃん、悲しんでるよ……」
「へぇ……何でわかるの?」
「きっと、悲しんでるよ」
「……わかった、ありがとう、後で話してみるよ」
「……うん」
お盆にマグカップを載せた省吾が、立っている。
桜が「悲しんでいる」と言う。省吾の言葉に、妙に、真実味があり、気になる。
省吾は、不思議な少年だ。いつも、俯き、人と顔を合わせることを拒むように、いつも距離を置いている。
他人のことを話す時、まるで、その人の感情が見えているように、表現する。
昼食の準備をしていると、桜が、部屋から出てくる。長い髪を下ろし薄化粧に薔薇色のリップ。白いシャツに藍色のタイトスカート姿の桜が、部屋から出てくる(いつもは、ジーパンかジャージなのに珍しいなぁ)。
「おばさん、ちょっと出てきていいかなぁ……」
「……いいよ」
「蒼空、子供達の事お願いしていいかなぁ……」
「いいですよ」
「じゃぁ、行ってくるね」
「雨降ってるから、気をつけてな」
「うん、行ってきます」
「桜さん、デート?」
「……うん」
蒼空は、おどけた口調で、桜に言った。
「そんなわけないじゃない!」そうおどける反応を、どこか期待していた(本当に、デートなんだ……)。
桜は、フッと笑みを浮かべると、頷く。あっさりと認められた事に、変な納得と切なさが、混ざり合う感覚。こんな感情を持っていた自分に戸惑う。
窓の向こう、灰色の空と鮮やかな赤い傘が、印象的だった。
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