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第2章 碧 蒼空
3 6人の子供
しおりを挟む「あのぉ……掃除、終わりました」
「みんなに、紹介するから、ついてきて!」
蒼空は、掃除を終えて施設に戻ると、桜が食堂へと連れて行く。テーブルで朝食を摂る5人の子供を、カウンター越しにお茶を啜りながら笑顔で、見守る春子。
「みんな、ちょっといいかな……」
「この、おじちゃんが、皆の面倒を見てくれる、碧 蒼空さんだよ」(おじちゃん……)
「みっ、皆、よろしく……ハハハハハ……興味ないか……」
子供達は、顔を上げて、桜の横に立つ蒼空に視線を向ける。子供達のよどみのない眼。濁りがなく綺麗な眼で、真っ直ぐ蒼空を見据える。
その真っ直ぐさが、かえって不可解で、蒼空は、思わず、たじろいでしまう。
子供達は、誰1人、挨拶をする事はなく、何事も、なかったように、朝食を、むさぼるように食べ続ける。
「ごめんねぇ……興味ないって!」
桜のしてやったりと、勝ち誇る顔に、こうなる事を知っていたのかと、ちょっと、呆れる。
「桜さん」
「名前で、呼ばないで! 知り合ったばかりよ!」
「……小川さん」
「何ですかぁ……碧君……」
「あの子は?」
「あぁ……1週間前に入所したばかりで、まだ、馴染めないのよ! 厨房でおばさんと、食べてるわ」
「そうなんだ」
テーブルにお下げ髪の少女の姿がなかった。カウンターを覗き込むと、春子の横で子供用のテーブルについて、少女は玉子焼きを美味しそうに頬張っている。
男の子ばかりの中に、女の子が、1人。馴染めないのは、当然かと思った。
「あなたは、そこに座って」
「はい、いただきます」
蒼空は、桜と向かい合わせにテーブルにつく。テーブルの上に並べられた、ご飯と味噌汁に焼き魚、鮮やかな黄色に、飴色の焦げ目がついた楕円形の玉子焼きが、二切れの質素な朝食。
お椀に入った、わかめの味噌。1口すする。乾いた大地に雨水が消えていくように、身体の隅々まで染み込む。細胞の1つ1つが眼を覚ましていく。そんな感じがする。
「うん?」
ご飯をかき込みながら蒼空は、子供達の食べ方の違う事に気付く。
ご飯をガツガツと食べる子、周りを気にしながら食べる子、隣の子供に、気を遣う子。
「この子等はね、いろんな事情を抱えているんだよ。それが、食べ方にも現れるんだねぇ……」
「そうなんですか……」
蒼空の湯飲みに、お茶を注ぎながら話しを続ける。
「ほらっ、ガツガツ食てる、眼鏡を掛けたポッチャリとした子は、橙木健次、7歳。あの子は母親に、ろくな物を食べさせてもらえなかったんだねぇ」
「……」
「キョロキョロしながら食べる坊主の子は、黄田太一、9歳。学校で、いじめれてたらしいよ」
「……虐め」
「2人並んで食べてる子達は、板見紫苑、10歳、青、7歳の兄弟。母親に見捨てられたのよ、いつも、紫苑が、青の面倒を見てたのね……」
「捨てられた……」
「端っこにいる背の小さい子は、緑川洋介、8歳。父親に暴力を振るわれてみたいだよ……逃げ出したんだよ」
「皆、大変だったんですねぇ……」
「そう言うあんたも、訳ありだろ! ろくに、食事を摂ってなかったみたいだよ!」
「はぁ……」
春子の説明を聞きながら、子供達と同じように、ご飯をかき込む蒼空。
春子は、呆れた顔で蒼空を見つめる。(確かに春子さんの言うとおりだなぁ……それにしても、この味噌汁、美味いな)
ここの子供達は、様々な事情を抱えている。親からの虐待に育児放棄に登校拒否。子供達には罪はなく、全てが大人の事情。
子供らしい……人間らしい生活を取り戻すために、この施設へとやってきた子供達(僕は、何が目的でここへ来たのかな……?)。
「いってきまぁす」
「はい、いっといでっ! 車に気をつけてね」
「はぁ……い」
朝食を終えると、子供達は、集団で隣町の学校へ片道30分歩いて通う。
この辺りも高齢化が進み、年々、子供達は減っている。
この施設が、まだ、学校だった頃。沢山の子供達が、多くを学び、大人になっていった。
子供達は、まともな食事と教育を受ける為に、ここへやって来た。
幼くして奪われた、人間らしい生活。蒼空は、子供達の事を不憫に思う。
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