アリーシア嬢の勘違い

むむ

文字の大きさ
上 下
7 / 14

おまけ*サーシスの思い

しおりを挟む

王家主催の舞踏会。と言う名の婚約者探しが決まったときから、私の気分は最悪だった。

そもそも王家の結婚は、ほぼ政略結婚で、現国王で、私の父であるクラピット・サルマンも、母とは政略結婚だったと聞いて居る。
それでもお互いに好き会えたのだから、両親は幸せであるとも言える。

だけど、それは偶々、運が良かっただけのことである。

この日開かれる舞踏会はそれなりの身分で、齢が5つ程度しか差がないものを集めていて、その数36人、その中から選べと言われても心から好きになれる人が現れるはずがない。
故に、父が母と出会った舞踏会は157人の婚約者候補がいたと言う。
これも王家の務めだと言うならば、三大貴族のうちニ公爵家から、1人ずつ令嬢が来ると聞いているからそのどちらかに決めれば良い。より、国が豊かになるのは分かりきって居る。

そう言えば、ブラウン公爵が公務の時度々連れてくる娘が、今回の婚約者候補の中に居たな。名前は…確かミランダ?だったか。
舞踏会すら面倒だから、ソレに決めても良いな。確か、頭の中で思い浮かぶ容姿は、錆色の髪に、人懐っこい栗色の瞳、ぷくぷくとした頬と、まん丸の体…。嫌々、あれと世継ぎを作るのか?痩せれば其れなりだろうが、過去に顔を合わせた時、ひたすら食べの物の話しかしなかったあの令嬢が節制など出来るはずがない。抱ける気がしない…

ならば、もう1人の公爵令嬢はどうだろう?クロッカン公爵は娘を溺愛していて、文字通り目に入れても痛くないと公言しているらしいが、公の場に出ることのない令嬢は、美し過ぎて公爵が隠してる、とか、醜すぎて公の場に出すことができないと噂がある程だ。
それでも目にした物は、一度見かけると忘れられない。と言う。
どちらにしても引き篭もりの令嬢なんかに、妃の座が務まるはずがない。

なんて、強く思い、参加した舞踏会の挨拶で、自分の娘を売り込もうとする貴族等と、妃の座を狙う令嬢に胸焼けを起こしていた時に、凛とした姿勢で礼を取るアリーシア嬢を見つけた。
彼女の美しさに、先程までの美しい令嬢の姿が霞むくらいで"絶世の美女"と言うのは彼女のようなものをさすのだと思った。
噂通り、社交の場は苦手なようで言葉に詰まってしまった彼女に、

「緊張しているの?深呼吸して、ゆっくりで大丈夫。」

と告げれば、素直に一呼吸ついて、向上の言葉を発する彼女はより美しく、彼女の周りだけ輝いて見えた。

あれだけ悪態をついていたのに、まさかの一目惚れだ。

舞踏会を後にし、父に気になる令嬢を聞かれ、柄にもなく前のめりに彼女の名前を出した時は嬉しそうに微笑まれた。
直ぐに婚約申し込みの書簡を出し、返事が来るまで落ち着くこともできず、別の人間にでもなったかのように感じた。

返事が来てからは、どうやってアリーシアと会おうか、何をしたら喜ぶのか、どうやったら自分と同じだけの気持ちを持ってもらえるか、そんな事ばかりを考え、御茶会を開くことにした。


アリーシア嬢と婚約して、初めての御茶会、と言っても、2人とその付き人での少数での顔合わせの様なものを提案し、好きなものがわからないから、世間一般の女性が好みそうな王家の花咲き誇る庭園で開くことにした。

公務で少し遅れてしまったが、


花を愛でておりましたので、大丈夫です。と微笑み

「お忙しい中お時間を作って頂きありがとうございます。」

と気遣いまで見せてくれる。花が好きなのか?と尋ねれば

「力強く咲き誇る花々を見ていると、自身も強くあろうと思えるのです。」

と芯の強さが垣間見える。
ただ、そこからが問題だった。彼女と何を話せばいいのか、どうしたら笑顔を見せてくれるか、そんな事を考えていた時、もう1人の公爵令嬢を思い出した。

きっと面識もあるだろうから、話が広がるかもしれない。そして出たのはミランダ嬢の話、彼女は"話したことはない"と言っていたがこれ以上の会話が見つからず、何故か、よく知りもしないミランダ嬢の事ばかり話してしまった。

「彼女は(食い意地の)素晴らしい人だよ。笑顔は(食事の時は動物のように)可愛らしくて、大らかな性格、そして、彼女の体つきは(丸々としていて)見ていて和やかな気持ちになるよ。」

とかなんとか言った記憶がある。

一気に話し終えた後、アリーシアを見れば少し困ったように微笑んでいた。
それもそうだ。
あまりよく知らない人物の話をひたすらされたのだ、自身がそんな話をされても困るだけだ。

とは思うが、時すでに遅し。

狼狽えた様子を見せないように振舞いながら、執事のネイトを見れば、いつもと変わらない様子で"すん"とした表情のまま此方を見ている。
小さく息を吐いた彼は、懐中時計を確認してから耳元で

「予定がある事にして、一度、席を離れてましょう。その間に策を練ってください。」

と告げると、椅子を引き立ち上がるように促してきた。
流石はネイト!私のことをよくわかっている。

彼が出してくれた助け舟に乗り

「席を外す。」

と告げて離席し、自室に向かう。

その途中で乳母に捕まり、経過を相談した所、乙女心のわからない男児に育てたなんて、と泣かれ、アリーシアの元に戻るのが遅くなってしまったのは言うまでもない。

そのとき、アリーシアが大きな勘違いをしていたとも知らずに。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

婚姻届の罠に落ちたら

神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
年下の彼は有無を言わさず強引に追い詰めてきて―― 中途採用で就社した『杏子(きょうこ)』の前に突如現れた海外帰りの営業職。 そのうちの一人は、高校まで杏子をいじめていた年下の幼馴染だった。 幼馴染の『晴(はる)』は過去に書いた婚姻届をちらつかせ 彼氏ができたら破棄するが、そうじゃなきゃ俺のものになれと迫ってきて……。 恋愛下手な地味女子×ぐいぐいせまってくる幼馴染 オフィスで繰り広げられる 溺愛系じれじれこじらせラブコメ。 内容が無理な人はそっと閉じてネガティヴコメントは控えてください、お願いしますm(_ _)m ◆レーティングマークは念のためです。 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆アルファポリスさん/エブリスタさん/カクヨムさん/なろうさんで掲載してます。 〇構想執筆:2020年、改稿投稿:2024年

処理中です...