56 / 57
第二章
少しの変化
しおりを挟む夏の太陽がジリジリと肌を焦がすフェスタの後、あの時の冷たいデザートを食べたいと言うお客様が一期一会には殺到していた。
もちろんこの暑さなのだから、冷たいカキ氷は需要が高いのはわかっている。
実際問題、手間も時間もかからないけど人手が足りないのだ。
なるべく出来立てを並べたいという理由と、やっぱり衛生面で不安という理由から、大量に作り置きではなく、下準備をして少しずつ作るという方法を取っていることから、よほどのことがない限り私自身は窓口に立つことはない。
商品の取り分けや会計は基本的にルヴァンが行ってくれているのだ。
カキ氷ならルヴァンでも作れるけど、カキ氷なのに手元が、その、何というか、危ないのだ。
「どうしようかな…。」
今までのやり方は辞めて一気に大量に作ることにして、カキ氷作りは私がやるべきなのか。
どうするか、今後の事を考えていればルヴァンから声がかかった。
「サラ、お客様だよ。」
誰だろう?と頭の中にクエッションを残したままルヴァンの元に向かえば、目の前にはロビンさんとメープルちゃんが居た。
「サラちゃん、こんにちは。」
「こんにちは…」
「ロビンさん、メープルちゃん!こんにちは!」
一緒にフェスタを乗り越えた同士の登場になんだか嬉しくなります、少しばかり声が大きくなってしまった。
ちょっと恥ずかしくなりつつ誤魔化すように笑えば、ロビンさんから思いがけない提案が降ってきた。
「サラちゃん、もしよかったら私達にお店の手伝いをさせてもらえないかしら?」
ロビンさんの横にいるメープルちゃんもめいいっぱい首を上下に動かしている。
願っても無い提案に、喜んで!と即答しそうになるも、負担をかけてしまうのでは…という気持ちと、気を遣わせちゃって申し訳ない気持ちが湧いてくる。
少し考えて、お礼を伝えて様子を見て。と伝えようとすればルヴァンが
「ありがたいです。ね?サラ。」
とこちらに満面の笑みを向けてくる。
それを聞いてロビンさんとメープルちゃんも“よかった”と嬉しそうにしている。
そうかーーー頼ってもいいんだ。
「サラちゃんの役にたてるなら嬉しい。ねっ?メイプル?」
「うん。」
その笑顔に嘘や建前なんて感じなかった。
迷惑になるんじゃないか、負担になったら離れていってしまうのでは、と少し他と線を置いてきたが、頼ることで喜ばれることもあるんだ。
そうなんだ。
胸のあたりがポカポカしているような不思議な気持ちに戸惑いながらも、嬉しさが勝り始める。
一人納得しながら視線を上げればルヴァンと視線が合えばトクンと胸が跳ねた。
彼と出会ってから、知らなかった感情や考え方を感じることができるようになっていることに喜びを感じる。
「ありがとう、頼りにしてます。」
自然に口から漏れた言葉、それを見ていたルヴァンはもちろん、ロビンさんとメープルちゃんがいつもよりも嬉しそうに微笑んでいたのは私の気のせいではないだろう。
0
お気に入りに追加
2,238
あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる