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第二章
少しの変化
しおりを挟む夏の太陽がジリジリと肌を焦がすフェスタの後、あの時の冷たいデザートを食べたいと言うお客様が一期一会には殺到していた。
もちろんこの暑さなのだから、冷たいカキ氷は需要が高いのはわかっている。
実際問題、手間も時間もかからないけど人手が足りないのだ。
なるべく出来立てを並べたいという理由と、やっぱり衛生面で不安という理由から、大量に作り置きではなく、下準備をして少しずつ作るという方法を取っていることから、よほどのことがない限り私自身は窓口に立つことはない。
商品の取り分けや会計は基本的にルヴァンが行ってくれているのだ。
カキ氷ならルヴァンでも作れるけど、カキ氷なのに手元が、その、何というか、危ないのだ。
「どうしようかな…。」
今までのやり方は辞めて一気に大量に作ることにして、カキ氷作りは私がやるべきなのか。
どうするか、今後の事を考えていればルヴァンから声がかかった。
「サラ、お客様だよ。」
誰だろう?と頭の中にクエッションを残したままルヴァンの元に向かえば、目の前にはロビンさんとメープルちゃんが居た。
「サラちゃん、こんにちは。」
「こんにちは…」
「ロビンさん、メープルちゃん!こんにちは!」
一緒にフェスタを乗り越えた同士の登場になんだか嬉しくなります、少しばかり声が大きくなってしまった。
ちょっと恥ずかしくなりつつ誤魔化すように笑えば、ロビンさんから思いがけない提案が降ってきた。
「サラちゃん、もしよかったら私達にお店の手伝いをさせてもらえないかしら?」
ロビンさんの横にいるメープルちゃんもめいいっぱい首を上下に動かしている。
願っても無い提案に、喜んで!と即答しそうになるも、負担をかけてしまうのでは…という気持ちと、気を遣わせちゃって申し訳ない気持ちが湧いてくる。
少し考えて、お礼を伝えて様子を見て。と伝えようとすればルヴァンが
「ありがたいです。ね?サラ。」
とこちらに満面の笑みを向けてくる。
それを聞いてロビンさんとメープルちゃんも“よかった”と嬉しそうにしている。
そうかーーー頼ってもいいんだ。
「サラちゃんの役にたてるなら嬉しい。ねっ?メイプル?」
「うん。」
その笑顔に嘘や建前なんて感じなかった。
迷惑になるんじゃないか、負担になったら離れていってしまうのでは、と少し他と線を置いてきたが、頼ることで喜ばれることもあるんだ。
そうなんだ。
胸のあたりがポカポカしているような不思議な気持ちに戸惑いながらも、嬉しさが勝り始める。
一人納得しながら視線を上げればルヴァンと視線が合えばトクンと胸が跳ねた。
彼と出会ってから、知らなかった感情や考え方を感じることができるようになっていることに喜びを感じる。
「ありがとう、頼りにしてます。」
自然に口から漏れた言葉、それを見ていたルヴァンはもちろん、ロビンさんとメープルちゃんがいつもよりも嬉しそうに微笑んでいたのは私の気のせいではないだろう。
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