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第二章
夏祭りの夜に②
しおりを挟む祭りが終わる時刻の僅か数分前に、なんとか長い長い行列は終わりが見えてきた。
それと同じ頃にお祭りを満喫した様子のルヴァン達が戻ってき、手元にはたくさんの戦利品が伺えた。
過去の転生者により伝承された物なのだろうか?
所々日本で見た事のあるものがある。
お面に、けん玉に風車、それに水笛?かな。
なんだか懐かしいものが多い。
それにブーメランとぬいぐるみに、あれは飛行機の模型?
なんだか和洋折衷な感じもするけど見ていてワクワクする。
そして、来年こそは参加者として回ろう。
そう誓う。
未来に向けての期待で心を満たせば活力が湧き、すぐに作業に戻る。
「よーし、残りもトラブルがないように頑張ろう!」
「「「「「おーーー!!」」」」」
今思えばこの発言がいけなかった。
フラグをたててしまったのだ。
まるでフラグ回収とばかりに順調に進んでいたはずの最後の最後でトラブルが起きた。
「おい!これ少なくねーか?長い時間並んでやってんだ、普通多めに入れたりサービスがあるのが普通だろ?」
「そーでぇ、そーでぇ!」
「こんなサービスが悪りぃ店になんで行列なんてできてんのかね?サクラで客引きでもしたんじゃねーのか?」
「間違いねぇ、間違いねぇ!」
ぴょんと尖った耳にもっふりとした尻尾を持つ人物と、その人にゴマをするかのように付き添う小さな耳と目元を黒く縁取った特徴的な人物が大声で騒ぎ立てる。
「こんな店より俺の店の方が上手くてボリュームがあるよなぁ?」
「間違いねぇ、間違いねぇ!」
「おい、店主を出せ!」
「そーでぇ、そーでぇ!!」
何だろう、このコントのような掛け合い。
明らかな営業妨害(といってもこの二人で最後なのだが)にうんざりしながらも、お店を開いた時点でクレーム処理が付いてくるのはわかっていたのだ。
誠心誠意対応させていただこう。
これも店主の仕事である。
そう思って前に出た。
「お客様、本日は大変お待たせ致しました。総菜屋、一期一会の店主のサラです。この度は貴重なご意見あり……。」
「おい!!お主ら、この店がどのような店かわかった上でのその発言か?」
私の言葉を遮るように目の前に…目の前?
いや、視線よりも少し下の部分に立ち塞がり声をあげたのは、丸っとして、シルバーの髪を某音楽家のように巻いた人物だった。
「…え?」
あれ?コレって、頭にアレ乗せてるし、もしかして…
「「こ、こ、こ、こ、こ、国王様!!!?」」
驚いている2人の前に、やっぱり立派な(お腹を持った)国王様かと納得をしていれば、注目を一身に集めるその人が話し始める。
「この店は王家より命を受け急遽出店したにもかかわらず、ここまで完璧に仕上げたのだ。そして並ぶも並ばぬも自由である。なのに何故サービスが必要か?」
「「・・・。」」
なんだか王様っぽい。
いや、王様なんだけどさ。
2人が耳を倒して焦ったように震えている。
「異論は余に申せ。そもそもこの店の料理は販売額の10倍の値が付くような代物なのだぞ!」
けど、そんな威圧的な態度じゃ何も言えるはずないよ…。
そもそも10倍って地球なら諭吉さんが飛んで行っちゃうよ。
「あのー、別にアドバイスを貰うのは私の勉強にもなるのでそんなに大袈裟なことじゃないですよ?」
そう。
地球のクレーマーなんて凄いものだ。
チラシの印刷をあれこれ指摘して永遠と怒り続けたり、やれ、写真と盛りや彩りが違う、やれ、あっちよりこっちの方が少ない、味が薄い、不味い返金しろ…なんてよくあるくらいだ。
「しかし!」
「いえいえ、今日は楽しい祭り。多少のいざこざでこの雰囲気を台無しにするのは勿体ないです。ですよね?」
と視線を2人に向ければ助かったとばかりにこちらを向き、激しく頭を上下に振っている。
そして時計を見ればもう祭りも終わる時間だ。
「ほら、国王様!そろそろ閉会の挨拶じゃないですか?急いでください。」
軽く背中を押して急かせば大きなお腹を抱えて此方を振り返る。
ニッコリと微笑めば面白くはなさそうだけど納得したのか小さく頷き、
「何かあったら頼るのだぞ。」
と小さく聞こえた。
きっと心配してくれたのだな。と思い
「ありがとうございます。」
と頭を下げればその後に聞こえたのは
「余の娘になるのだから。」
といつぞやの婚約話が振り返されていた。
「いや、なりませんけど…。」
と返すも、少し後ろでは物凄いブリザードのような冷気を放ったルヴァンが小さく何かを呟いている。
その直後、髭ちょびんは慌てたように前を向きお連れの従者を引き連れて来賓席に戻っていった。
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