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第二章
夏祭りの夜に①
しおりを挟む夜も深まり、いつもなら静かな夜。
何処から集まったのか、不思議なくらい多くの人々と、それを盛り上げる人々。
通りには国より依頼を受けたお店が屋台を連ね、見たことのない料理もいくつか見られた。
そして、中央の広場では着飾った人々が楽しそうに踊っている。
地球で見た、と言ってもテレビの特集とかそんなものだが、スウェーデンの踊りに雰囲気が似ている気がする。
出店している屋台から見える光景にワクワクした気持ちが湧き上がる。
だけど、ワクワクした気持ちはいつのまにか消え去り、今は混沌とした戦場に佇む戦士になった気分だ。
全ての元凶は今、中央広場の来賓席に座っているあいつらのせいだ。
額、否、体全体が滝になったようにひたすら汗をかきながら鉄板の上でイカ焼きを作っていく。
ロビンさんと交互で作っては水分を補給し、また作る。
隣ではリンランとトルーも同じように交互で焼きそばを作っている。
いや、わずかにトルーの方が鉄板に張り付いている時間が長い気もする。
トルーのアピールなんだろうから別に止める気もないが。
うだる暑さに嫌気を感じつつも、気づけば先の見えない列がずらりと並んでいる。
材料は足りるだろうか?
少し多めに用意しているし、スマホで追加分を出せばいいのだけどこの暑さの中そこまではしたくない。
かと言って最後の品が目の前で終わったらと思うと自分なら耐えられない。
楽しみにしていた食事が自分の番になった時には品切れなんて悲しすぎる。
来賓席に居る銀髪を纏めたこの国の王子を睨みながらも、どんどんイカ焼きを焼き上げていく。
目まぐるしいとはこんな状況のことを言うのだろう。
これは手伝ってくれたみんなには臨時ボーナスが必要だな。はは。
なんて現実逃避をしながらも時は進み、祭りの時間も残りわずかとなり、店の行列は、列の整備をしていた運営の人によって間も無く最後尾の締が告げられ、ルヴァンにはピーターくんとメイプルちゃんをお祭りに連れて行ってもらうことにした。
カキ氷もまだ出ているからダダンにはカキ氷班になってもらって、子供だけでお祭りというのも不安が残るからね。
子供の頃なんて遊びたいき決まってるのに、ギリギリまでお手伝いをさせてしまい申し訳無い気持ちになる。
けど金銭を渡せばロビンさんが気にするに決まっている。
そこで閃いた。
「ピーターくん、メイプルちゃん。お願いがあるんだけど、ルヴァンと一緒にお祭りを回って、どんなものがあってどう楽しかったのか教えて欲しいの!それに、美味しいものがあったら食べて感想を聞かせてほしいな。お願いしてもいい?」
「「いいぜ(よ)!!」」
「お金は落とすといけないから、ルヴァンに預けておくね、3人で楽しんできて。」
とお願いすればとてもいい返事が返ってきた。
ルヴァンには“お祭りを満喫させてあげてほしい。”とそっと伝えると、メープルちゃんを真ん中に仲良く手を繋いで、3人の後ろ姿はあっと言う間に人の波に消えてしまった。
私もルヴァンとお祭り回りたかったな…
なんて考えたのも束の間で、これ以上伸びないはずなのに未だ終わりが見えない列を見て気合を入れ直した。
お祭りの終わる時間までにせめてさばき切りたい。
そう願いを込めて…。
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