50 / 57
第二章
失敗料理と小さな教師
しおりを挟むなんでこうなった。
目の前に繰り広げられた地獄絵図に思わず頭を抑える。
下準備は問題なく終わったのだ。
ロビンさんが手伝ってくれたお陰でそれはそれはスムーズに。
イカ焼きは良しとしよう。
そう。
イカ焼きは許せる。
形を作るの初めてなら難しいもん。
けど問題は焼きそばだ!ただ炒めるだけなのに。
総菜屋のメニューも味が同じになる様にレシピを作ってはいるが、屋台メニューのレシピは早急に作るべだと脳が警報を鳴らす。
ルヴァンが作る料理は消炭になるので火を使わせる事はしないにしても、ソースの味を気に入ったのか、有ろう事か中華麺4袋に対して業務用の焼きそばソースを半分以上使い切ったのだ。
窓を開けて換気をするも調理場はソースの匂いで溢れかえり、多すぎるソースは鉄板の上の麺をびちゃびちゃに浸らせていた。ソースが麺や野菜だけにシミ切らず、さらに蒸発しきっていないソースに浸っている状態だ。
下準備係はルヴァンとダダン。
カキ氷はピーターくんとメイプルちゃん。
イカ焼きの調理はロビンさんと私。
そして焼きそばの調理はトルーとリンラン。
(これはトルーが必死に作った組み合わせだ。)
勿論、このソースに浸った焼きそばを作ったのはこの2人である。
ロビンさんに焼き加減や成形に慣れてもらう為に練習して貰って、ピーターくんとメイプルちゃんにカキ氷機の使い方を説明しているチョットした時間にこの事件は起きたのだ。
「で、何か弁明は?」
頭を抑えるながら聞けば2人して顔を合わせた後、
「だって。」
「ねぇ~。」
と肩をすぼめている。
「罰として2人はこの焼きそばちゃんと食べる事。流石にこの量は多いだろうから私が半分は貰うね。」
「え~~~。サラ酷い~~~。」
「そうだぞ、リンランに失敗したものを食べさせるっていうのか?!」
「ん?私が言った量を無視して勝手に作ったんだからちゃんと食べてもらうよ?食材が勿体無いでしょう?」
少しイラッとして少し声のトーンを落として言えば2人がビクッとしたのが分かった。
そんなに圧をかけた覚えは無かったんだけどな。
それでも尚、“でも”“だって”と言う2人に呆れていればエプロンをクイっと引っ張られた。
「サラちゃん、できたの!食べて?」
「上手にできただろ?!」
どこか誇らしげなピーターくんとメイプルちゃんの指差す方にはさっきまで作りかたを教えた(と言っても削ってシロップをかけるだけ)カキ氷があった。
「凄い、上手に作れたね!これ私が食べてもいいの?」
と聞けば大きく首を縦に揺らす。
大きな瞳をキラキラとさせてカキ氷を差し出してくれる。
な、なんて可愛い…。
正直怒りなんてどこかへ行くくらい癒される。
「ありがとう」
と受け取り口にすればキーンと頭が冷えた。
なんだか懐かしい感覚に嬉しくなりつつ2人にお礼を言う。
そっか、シロップだけだと甘すぎるけど、ココに氷が入る事で程よい甘さになるんだよね。
もちろん氷だけでは味もないし楽しくもないのだ。
びちゃびちゃにソースに浸った焼きそばを見て、これを美味しく食べるにはあれしかないと手を加えることにした。
業務用の炊飯器の中を確認して、蓋を開けて粗熱を取っている間に下処理をすることにした。
本来は今日来てもらった人にせめてものお礼に食事を振る舞おうと炊いていたご飯だったがまさかの所で役に立った。
鉄板の上から救出した焼きそばの麺をまな板の上で2センチくらいに細かく刻み、具材も同じように細かく刻んでいく、あとは簡単。
余分なソースを拭き取った鉄板の上にごま油を引いて、粗熱を取ったご飯を炒めていく。
塩、胡椒を軽く振り、全体にほんのり醤油をかけ少しご飯がパリッとしてきたところで先ほどの刻んだ焼きそばを投入した。
「えっ!何やって…」
と慌てた声も聞こえたが気にしない。
さらに炒めて行って少しだけソースを足し、また炒め、味を確認してみれば適度な味付けになった。
ちょいちょいとピーターくんとメイプルちゃんを呼び熱々のそば飯を試食してもらう。
「暑いから気をつけてね?」
と言えばフー、フーと口を突き出して息を吹きかける姿が可愛らしい。
そして口に含んだ2人が声を揃えて
「「美味しい!!」」
と高らかに宣言すれば、失敗した筈の料理が劇的な進化を遂げたことに驚いている様子だった。
「さ、みんなで食べよう。リンランとトルーは食べないみたいだから6人で!」
と強調して言えば2人は何処か焦った様子だ。
「ロビンさん、よかったらケインさんの分持って帰りませんか?」
「いいんですか?」
「もちろんです。多分皆さんここでお腹いっぱいになるでしょうし、家に帰って食事を作る手間が省けるじゃないですか!よかったらイカ焼きもロビンさんが作ったものですし一緒に持って帰って下さい。」
と伝え、お店で使う容器にそれらを詰めてロビンさんに渡せば“助かります”と喜んでくれた。
6人分のそば飯を盛り付けて、6人で食べ始めればしゅんとした様子のリンランとトルーが視界に入った。
だけど、大人気ないかもしれないがどうしても許す気にはなれずツーンとしていれば、ピーターくんが
「なんで、“ごめんなさい”ってしないんだ?大人なのに?」
と2人に聞いていた。
そこで2人ははじめて言い訳ばかりをして反省をしていなかったことに気づいたのだろう。
それはもう。大袈裟なくらい盛大に謝罪の言葉をツラツラと並べてきた。
メイプルちゃんがくいっと私の袖を引っ張り
「ごめんなさいしたら“いいよ”って言わないと。」
と教えてくれる。
小さな2人に大人が諭されてしまったのだ。
けど先ほどまでの意固地になっていた気持ちはなくなり、残っていたそば飯を器によそい2人の前に差し出した。
「今度はレシピ通りに作ってね?」
と念を押すことは忘れない。
その後はいつも通りに楽しい時間が過ぎて行った。
2人にはお礼として後日お菓子をプレゼントしよう。
そう胸に誓った。
0
お気に入りに追加
2,238
あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる