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第二章
自信と戸惑い
しおりを挟むフェスタへの出店メニューも決まり、シミュレーションを行ったところでお休みは終わり、今日は今日とて変わらず一期一会開店です!
と言っても出店する店はフェスタまでは準備に時間を使い休む店が多い中の営業なので、時間短縮での営業予定である。
街の人達もフェスタで散財する為に節約中みたいだし丁度いい。
と言っても特別フェスタに向けての準備はないので空いた時間は専ら例のアレを使っての新作メニーに力を注いでいる。
「サラーこんな感じで如何かな?」
「んーー?もう少しすり潰してもいいかも。」
「……これくらい?」
「あ、いい感じ!残りもそんな感じでお願い。」
ルヴァンがすり鉢で一生懸命すり潰してくれているのは塩と酒とイカである。
フードプロセッサーですり潰す予定だったのだが、お祭りのメニューとして追加するからばこちらにないものを使うのは…となり手作業になった。
皮を剥ぎ、内臓を処理して軟骨を取り水気を取ってブツ切りにしていると言っても中々の力を使う。
文句も言わずに作業をしてくれるルヴァンには頭が上がらない。
ルヴァンがすり潰してくれたイカとは別に、大量に頂いたイカの下足を1センチ大に切ったものと、卵白、みりん、醤油、細かく切った紅生姜を加えて混ぜてそこに片栗粉を入れてさらに混ぜる。
結構もったりしてるから一人ですり潰してたら確実にメニューとしては出せなかったな…。
大変な作業なはずなのに、弱音を吐かないルヴァンのその姿に尊敬の気持ちが芽生えてくる。
そして混ざり切ったところでスプーンで形成して油で揚げていけばイカのすり身揚げの完成だ!
今回はシンプルに下足の食感を楽しんでもらいたくて紅生姜を入れたけど、下足や紅生姜の代わりに枝豆やコーン、チーズを入れてもいいからコレは使いまわせる!
新しいメニューに気持ちはホクホクである。
ジュワワワーパチパチ
ジュワー
油から浮かんできて、ほんのりきつね色になったすり身揚げをバッドに取り上げて、油をよく切れば時間はお昼を過ぎている。
総菜の残りもあと少し、客足も途絶えているし、閉めるしかない!
と言っても短縮営業でお昼までとうたっているので予定通りなんだけど。
急いでシャッターを閉めて閉店作業を進めれば、もう飲むしかない!
作ったタネは一度冷蔵庫で冷やして総菜の残りと出来立てのイカのすり身揚げ、そしてキーンと冷えたビール。
「ルヴァン!飲もう、食べよう!」
もう準備はバッチリである。
「「カンパーイ」」
くぅぅぅぅう!
夏のビール最高!
まだ温かいすり身揚げを口に運べば下足の弾力と紅生姜の食感。そして何よりもイカの甘み!
これならこの世界の人も美味しいと言ってくれるだろう。
自信を持って言える。
幸せを口いっぱいに噛みしめる。
目の前のルヴァンも美味しそうに頬張っている。
好きな人が自分の作ったものを美味しいって言ってくれる。
幸せだなーーー。
えっ?!好き、な、人?!
いや、違っ、え?!
えーーーーー?!
ひょっこりと顔をのぞかせた自分の心に、戸惑いを隠すことができない。
いつからだったのか?
何でそうなったのか?
だが、何度繰り返し自問自答しても答えにたどり着ける気がしなかった。
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