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第二章
夏の祭りの屋台メニュー④
しおりを挟むはじめに、温めた鉄板に食べやすいサイズに切ったイカを乗せ、少し押し当てればれば、キューキューと音を立てながら、色が変わり始める。
何度見ても聞いても面白い。
ある程度焼き色がついたところで、千切りにしたキャベツと一緒に炒めて、水分がある程度飛んだところでロビンさんに混ぜてもらっていた種の中に投入して、混ざったところで油を敷いた鉄板に直径15センチくらいの大きさで種を流し焼いていく。
ほぼ火が通ったのを確認して、半分に折りたたみステンレスのドーム型の蓋を被せて大凡1分。
蓋を取れば、熱気が溢れ出てしっかりと蒸すことがわかる。
あとはヘラでお皿に乗せてお好みソースとマヨネーズ、青海苔をかけて“なんちゃって関西風イカ焼き”の完成である。
と言ってもこちらの人達に関西風と言っても通じないだろうし、
「これもイカ焼きって料理なんだけど…」
と品名を曖昧に伝えてみた。
なんて説明したらいいのか悩んでいたら
「これがイカ焼き!?」
「知っているものとだいぶ違うわ~~。」
「けど、これなら注目集めそう!」
と興味津々である。
とりあえず商品名はそのまま〈イカ焼き〉で決定。
焼きそばでソースの色になれたのか、皆んなが出来立てのイカ焼きを口に含んで行く。
熱々なので“あふあふっ”と口に空気を含んで冷ましている様子も見られる。
これは一期一会では見られない光景だと小さく笑った。
出来立ての総菜を店の前ですぐに食べる人は多いが、出来立てで暖かいといっても油物はしっかり油を切るし、熱々とは程遠い。
フェスタへの出店が決まったことで見ることのできる光景なのだ。
そう思うと暑さなんて気にならないくらいに楽しみになってきた。
私の気持ちの盛り上がりを他所に、綺麗にイカ焼きを完食した面々は、繁盛間違いなしと喜び、“1位は我らの手に!”と謎の言葉を叫んでいたが、私はというと、今回の料理の副産物として一時的に大量に、それも無料で手に入れられるであろうイカ下足で作る料理に想いを馳せていた。
フェスタまではあと2週間弱。
休みはフェスタの準備に追われそうだけど、楽しみが増えて益々やる気が出たことは言うまでもない。
バシーーンッ!
少しばかり他に意識が行っていた私の背中をトルーが思い切り叩いてきた。
「っーーーー」
「おい、お前だけが作れても意味ないんだからさっさと作り方教えろ!俺らが手伝う意味がないだろ!」
「そ、うだね。練習しよっか。」
言葉は乱暴だが言っていることは最もだ。
目元とに多少の涙を浮かべ、ヒリヒリする背中をさすりながら返事をすれば、心配したルヴァンがすぐに寄り添ってくれて“大丈夫か”と尋ねてくる。
“大丈夫、大丈夫”と笑顔を返すも顔から笑顔が抜け落ちてトルーを盛大に睨みつけている。
「ゔっ…な、なんだよ…。」
若干怯みつつも応戦しようとするトルーにリンランから容赦のない言葉が降りかかる。
「女の子を叩くなんて…今のはトルーが悪いわ、私の大切な友達に~。それに、サラの騎士の前でやってのけるんだから睨まれて当たり前よ~。」
「ゔっ……。」
大好きなリンランに言葉で責められ、ルヴァンからは視線で責められ、追いつめられたトルーが助けを求めるようにダダンに視線を送る。
ダダンは分が悪い事は分かってはいたが、
「ほら、えっと…そう!あのー、そうだよ!お店に貢献して挽回するしかないよ!頑張ろトルー!」
「…ぉ、ぉぅ。」
明らかに気落ちしたトルーではあったが、ダダンの必死のフォローと、挽回のチャンスはこれしかないと考えたのか気を取り直して作業に取り組んでいた。
ルヴァンもリンランも人が悪い。
確かに痛かったけど、あんなに責めなくても、ね?
とは思うが2人の様子を見る限り、トルーに発破をかける意味で仕組んだのではないかと考えてしまう。
それこそルヴァンなら私が叩かれるより前に止めることもできそうだからな。
なんて考えたが、その後の騒動でそんな事を考える余裕は一気になくなった。
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