49 / 57
第二章
夏の祭りの屋台メニュー④
しおりを挟むはじめに、温めた鉄板に食べやすいサイズに切ったイカを乗せ、少し押し当てればれば、キューキューと音を立てながら、色が変わり始める。
何度見ても聞いても面白い。
ある程度焼き色がついたところで、千切りにしたキャベツと一緒に炒めて、水分がある程度飛んだところでロビンさんに混ぜてもらっていた種の中に投入して、混ざったところで油を敷いた鉄板に直径15センチくらいの大きさで種を流し焼いていく。
ほぼ火が通ったのを確認して、半分に折りたたみステンレスのドーム型の蓋を被せて大凡1分。
蓋を取れば、熱気が溢れ出てしっかりと蒸すことがわかる。
あとはヘラでお皿に乗せてお好みソースとマヨネーズ、青海苔をかけて“なんちゃって関西風イカ焼き”の完成である。
と言ってもこちらの人達に関西風と言っても通じないだろうし、
「これもイカ焼きって料理なんだけど…」
と品名を曖昧に伝えてみた。
なんて説明したらいいのか悩んでいたら
「これがイカ焼き!?」
「知っているものとだいぶ違うわ~~。」
「けど、これなら注目集めそう!」
と興味津々である。
とりあえず商品名はそのまま〈イカ焼き〉で決定。
焼きそばでソースの色になれたのか、皆んなが出来立てのイカ焼きを口に含んで行く。
熱々なので“あふあふっ”と口に空気を含んで冷ましている様子も見られる。
これは一期一会では見られない光景だと小さく笑った。
出来立ての総菜を店の前ですぐに食べる人は多いが、出来立てで暖かいといっても油物はしっかり油を切るし、熱々とは程遠い。
フェスタへの出店が決まったことで見ることのできる光景なのだ。
そう思うと暑さなんて気にならないくらいに楽しみになってきた。
私の気持ちの盛り上がりを他所に、綺麗にイカ焼きを完食した面々は、繁盛間違いなしと喜び、“1位は我らの手に!”と謎の言葉を叫んでいたが、私はというと、今回の料理の副産物として一時的に大量に、それも無料で手に入れられるであろうイカ下足で作る料理に想いを馳せていた。
フェスタまではあと2週間弱。
休みはフェスタの準備に追われそうだけど、楽しみが増えて益々やる気が出たことは言うまでもない。
バシーーンッ!
少しばかり他に意識が行っていた私の背中をトルーが思い切り叩いてきた。
「っーーーー」
「おい、お前だけが作れても意味ないんだからさっさと作り方教えろ!俺らが手伝う意味がないだろ!」
「そ、うだね。練習しよっか。」
言葉は乱暴だが言っていることは最もだ。
目元とに多少の涙を浮かべ、ヒリヒリする背中をさすりながら返事をすれば、心配したルヴァンがすぐに寄り添ってくれて“大丈夫か”と尋ねてくる。
“大丈夫、大丈夫”と笑顔を返すも顔から笑顔が抜け落ちてトルーを盛大に睨みつけている。
「ゔっ…な、なんだよ…。」
若干怯みつつも応戦しようとするトルーにリンランから容赦のない言葉が降りかかる。
「女の子を叩くなんて…今のはトルーが悪いわ、私の大切な友達に~。それに、サラの騎士の前でやってのけるんだから睨まれて当たり前よ~。」
「ゔっ……。」
大好きなリンランに言葉で責められ、ルヴァンからは視線で責められ、追いつめられたトルーが助けを求めるようにダダンに視線を送る。
ダダンは分が悪い事は分かってはいたが、
「ほら、えっと…そう!あのー、そうだよ!お店に貢献して挽回するしかないよ!頑張ろトルー!」
「…ぉ、ぉぅ。」
明らかに気落ちしたトルーではあったが、ダダンの必死のフォローと、挽回のチャンスはこれしかないと考えたのか気を取り直して作業に取り組んでいた。
ルヴァンもリンランも人が悪い。
確かに痛かったけど、あんなに責めなくても、ね?
とは思うが2人の様子を見る限り、トルーに発破をかける意味で仕組んだのではないかと考えてしまう。
それこそルヴァンなら私が叩かれるより前に止めることもできそうだからな。
なんて考えたが、その後の騒動でそんな事を考える余裕は一気になくなった。
0
お気に入りに追加
2,239
あなたにおすすめの小説

元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる