異世界で総菜屋始めます

むむ

文字の大きさ
上 下
40 / 57
第二章

友情のホットドッグ②

しおりを挟む

次の日、ダダンが持ってきてくれたパンは予想を上回る出来で、この世界でできたパンでメーニューが増やせる事を喜んだ。

と言うものの、トルーからいい返事をもらえることはなく、営業開始が遅いのもあり、下準備を済ませてはお願いに、また休みの日もお願いに、トルーの所へ通った。

だけど残念なことにいい返事はもらうことができなかった。
それどころか、どんどん邪険にされるようになった気さえする。
今では門前払いが当たり前だ。

目に見えて項垂れる私の肩を叩きながら

「向こうのソーセージをそのまま使う方向で考えよう。」

とルヴァンは言ってくれるが、どうせならこの世界の人達の作った美味しいもので一緒に何かを作り上げたい。
わがままなのかもしれないけど、自己満足かもしれないけど、何故かこのホットドッグは成功させたい。

ただ、お客様のニーズに合ったものを作るにしても、今、話題になっているうちに新しいものを作りたい。
何時迄もいい返事を貰えない、と言うか返してくれる様子が見えないトルーを待ち続けるのは得策ではないのかもしれない。

「ちょっと考えてみる。」

と返事をすれば、隣のパン屋からダダンが現れた。

「あれ?サラちゃん。」

「あ、ダダン。」

「暗い顔をしてるけど、どうしたの?」

「えーと、それが…」

事のあらましを説明すれば

「サラちゃん、ごめん。」

と突然頭を下げられて驚いた。

「え、え?なんでダダンが謝るの?」

「それは…」

何処か話すのをためらうように、視線を逸らし、あまりの長い沈黙にルヴァンと視線を重ねて首をかしげる。
すると思いもよらない言葉が返ってきた。

「トルーがリンランの事を好きだと知りながら、僕がリンランをデートに誘ったから、僕の作ったパンと一緒に自分が作ったものを使われるのが嫌なんだと思うんだ。」

「「え?」」

二人揃った驚きの声と間抜けな顔は、それはそれは綺麗な事だろう。
色恋が原因だとは思わなかったのだ。

「あ、でも、偶々同じ人を好きになっちゃうのは仕方ないよ、リンラン可愛いし…。」

「いや、リンランの事は可愛いと思うよ。けど恋愛とかって言う感情はないよ。」

「ならなんでデートなんて…。」

ハイセンスなオシャレボーイはプレイボーイって事かな?
そもそもリンランは弄ばれているの?

暴走しそうになる私の肩をルヴァンが支えてくれて、何とかその場でとどまることができた。

「リンランには悪いと思ってる。けど…トルーに近寄る女はみんなトルーと、そして僕と仲良くなって、後々トルーがその子のことを好きになって告白するとひどい事を言って傷付けるんだ。トルーはその内容を教えてくれないけどいつも傷ついた顔をしてる。」

苦虫を潰したような顔をしながら更に続ける。

「それなのに、そんな事があっても僕に馴れ馴れしく話しかけてくるし、トルーとは気まずいから二人で出かけようとか言ってくるんだ。」

えっとー、それは、ダダンに近付く為って事?

「そのせいで昔は仲よかったのに、トルーからは避けられるようになるし、どうせ避けられるならトルーが傷つく前に近く女の本性を暴いてやろうと思って…。」

悲しみに揺れる水色の瞳は静かに影を落とす。

「トルーは兄のような存在なんです。だから幸せになって欲しいのに上手くいかなくて…」

「なら、その気持ちトルーに話そう!」

「えっ?!けどトルーは怒ってるし…。」

「ダダンはトルーと仲直りしたくないの?今のままでいいの?」

「そんな事は!!」

「だったら全部、ぜーんぶ話してスッキリしようよ?」

「けど…。」

「明日!明日もトルーの所に行くから、どうしたいか考えて!もし行くなら例のパンも作ってね!」

ダダンの手を両手で握りしめてブンブン上下に振り回して手を離せば、あとは言い逃げよろしく

「そしたら、明日!トルーの所に行く前に寄るから!またねー。」

少し小走りしながら後ろを振り返り、手を振りその場を離れた。
後からついてきたルヴァンに

「サラ、少し強引すぎないかな?」

と言われたけど

「人の気持ちなんて伝えないとわからないんだから!いつまでもボタンを掛け違えたままだと直すのに時間がかかるし、気付いたならその時に修復しないと。」

ニッと振り向きざまに笑顔を向ければ、一瞬固まったルヴァンが

「参りました。」

と小さく両手を上げていた。




しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...