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第二章
騒がしいお客様①
しおりを挟むお店を開店させてからと言うものの、元々付き合いのあった人達や、珍しい料理を扱う店だと噂を聞きつけた人々が新しいもの見たさで来店してくれて、ルヴァンと2人嬉しい悲鳴をあげていた。
そして、開店から1週間。
連日通ってくれる人も、ちらほら見えてきた中で悩みのタネを作ってくれる人がいる。
「おい、新しい料理はまだか!」
「今検討中です。」
「俺が考えてやろうか。」
「いえいえ、お気持ちだけで結構です。」
「赤い色の料理なんかいいんじゃないか?」
「本当に結構なので、お引き取りください。」
銀の髪を一つにまとめ緑の瞳をした青年は、ショウケースに肘をつき、店頭にかれこれ数十分居座っている。
全く、この国の王子は暇人なんだろうか。
こちらは、アイザックさんが宣伝して回ってくれたおかげと、メニューの中でも一番リーズナブルなものということで、早い段階で品薄になってきたコロッケを新しく揚げなくては、と忙しいと言うのに。
夏場の揚げ物は本当に辛い。
空調が効いているといってもやはり揚げ続ければ、いくら拭っても汗は止まることを知らない。
王子のお相手をルヴァンに丸投げして、調理場に集中する。
ジュワージュワー、パチパチ
うぅ、汗が止まらない。
暑い。
「おい!お前!俺が来てやってるのに放っておくとは何事だ!!」
暑さに加えて鬱陶しいさが加わると更に暑い。
一番の常連様だとは思うが正直ありがたさよりも迷惑感が優ってしまう。
思い返せは初日からだ。
◇◇◇
「一期一会、本日オープンです!!」
と表を歩いていた人たちに声をかけ、こちらに興味を持ってくれた人たちが近くで料理を見て質問をしてくれ、試食していくつかの惣菜を買ってくれたところまでは良かった。
そこまでは本当に良かった。
それなのに開店して30分を迎える前に事件は起こった。
「おい、来てやったぞ。」
偉そうな態度で現れたのは、この国のフィリップ王子である。
元々メイン通りに面しているので馬車が通ることもあるのだが、在ろう事か、お店の前に王家の紋章の入った大きな馬車と、兵士、そして従者を引き連れて物々しい雰囲気でやってきた。
それは、あのヒゲ…王様が来た時を思い出させるような様子で、往来をゆく人々は何事かとこちらを見据えている。
「ドウモ、アリガトウゴザイマス。」
片言ではあるがお礼を言えた自分を褒めてあげたいくらいだ。
ただ、お礼など必要なかったと感じたのは、その数十秒後のことだった。
「ここにあるもの全て包め!」
「「……」」
今なんと?ルヴァンと2人呆然としてしまった。
ショウケースの中を指差し全て包めと言っているその人は、間違いなく全てを買い占めようとしている。
初日ということで、出ている料理数は少ない。
なので一つ一つの量は多い。
「えっと、全種類を一パックずつと言うことですか?」
「誰がそんなセコイ買い方をするか!出ているもの全て買うと言っている。」
あ、分かってはいたけどこう言うやつだったよ。
この王子は。
「畏まりました。」
返事をしてからは早い。
ルヴァンに会計をお願いして、容器に惣菜を詰めていく。
今日販売しているのは、定番メニューと決めた。
金平牛蒡、コロッケ、手羽の唐揚げ、コールスローサラダの三段目シャケマヨおにぎり、大根の葉の混ぜ込みおにぎり、卵焼き、大学芋の二段目に加え日替わりメニューのたまごサンド、フライドポテト、照り焼きハンバーグ、ベーコンのアスパラ巻きである。
店頭に出しているものの他に調理場にもう一回並べ直す分は作ってあるけど、まさかこんなに早い段階で出すことになるとは。
料理を詰めようとして“はた”と気付いた。
「王子、この量全て食べられるんですか?」
「食べられるはずがないだろう。」
「そうしたら残った料理はどうするんですか?」
「知らん。」
「へ?」
「だから、知らん。」
ちょっと待って、知らんってどうゆうことよ?
そりゃ、買ってくてたものだから、買った人がどうしようと私に関係はないのかもしれない。
だけど、食べ物を粗末にするなんてどうしても許せない。
「王子、知ってますか?」
「何をだ。」
「食べ物を粗末にする人の元には“もったいないお化け”というお化けが出るんですよ。」
「残念だな。俺は会ったことがない。」
「そうですか。残念だね、ルヴァン。」
同意を求めるように会計をしていたルヴァンを見れば、私の意図を汲み取ったのか
「サラの作った料理だから、粗末にしたら確実に出るね。」
と悪ノリしてくる。
私の作った料理だから確実とか、私がお化けを派遣しているみたいではないか。
少し引っかかることはあるけど、笑顔で
「と言うことですので、王子、お気をつけください。」
と伝えれば、先程までの余裕な無くなり少し顔が引きつっていた。
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