異世界で総菜屋始めます

むむ

文字の大きさ
上 下
36 / 57
第一章

一期一会オープンです!

しおりを挟む

そして迎えた開店の日。
外はカラッとした空気で明け方なのに少し暖かい。

予定よりも早く目が覚めてしまい、念入りに調理器具や材料を確認してしまう。

開店は少し遅めの12時から。
ルヴァンと二人で営業するの準備時間も含めて少し遅めである。

一応キッチンで一度に作れる量も限られてるのだから、早めに準備にかかる予定ではあったが、いくらなんでも早く起きすぎた感がぬぐえない。
それでもはやる気持ちは止められず、一階に降りて、味がしみたほうが美味しい物から下処理を始める。

じゃがいもを蒸して、卵は茹でる。
みじん切りした玉ねぎに、千切りにした牛蒡と人参。

いつもと同じように作っているのに、手が思うように動かずに時間がかかるのは緊張しているから、それとも人が来てくれるか不安だから?

「早く起きちゃったと思ったけど、結果としてはよかったかも。」

誰もいない空間で思わず声が出てしまったが、シュッシュ、コポコポ、と言う音の中に溶けていった。

その後も黙々と下処理を進めていると、ルヴァンが降りてきて、

「サラ、もう準備してたの?」

と驚いていた。

「早く目が覚めちゃって。」

「それならいいけど、ちゃんと寝ないとダメだからね。」

「はーい。」

やっぱりルヴァンは心配性だ。
だけどそれも少し嬉しい。

なんでだろう?

ちらっと横目で彼の様子を窺うと真剣な表情で私の用意していた炒めた玉ねぎと挽肉、調味料などを氷水で冷やした手で一生懸命捏ねていた。
形成するときにはクッキングスケールの上に乗せて一つ一つの重さを真剣な様子で眺めている。
ふわっふわの前髪をピンで留めているからか、真剣な眼差しと眉間によった皺がよく見えて、だんだん感覚が掴めてきたのか大きさが安定すると表情が明るくなってくるのもよく分かる。

「ふふ…」

思わず笑ってしまうと、それに気づいたルヴァンが意味がわからないといった様子でこちらを見ている。

「ルヴァンが百面相してるから。」

と言えば

「そんな事…あるかも。」

と思い当たる節があったようだ。

………

……



コロッケパン用以外のコロッケと手羽の唐揚げ、イワシの唐揚げと言った揚げ物以外は開店後に揚げ始めるとして、全ての料理が仕上がり、粗熱を取ってガラスケースに移す。
まだシャッターを揚げていないので外からは見えないけど、内側から見ただけで嬉しくなる。

あとは、とルヴァンを見れば別に取り分けた総菜に目を奪われていた。

朝食は下準備の合間に軽く食べたけど、これだけの料理作ってたらお腹空くよね。
元々、大食感なのだから尚更。

「今日は別のメニュー作れなかったから、お店のメニューと一緒だけど、お昼にしようか。」

と言えば、それはいい返事と笑顔が返ってくる。
いつもと同じ光景になんだか心が温かくなった。

食事をしながら、作った料理が多くの人に食べられる想像をする。

どんな反応をしてくれるかな?
今のところ出会った人たちには受け入れてもらえたけど他の人にも受け入れてもらえるかな?

少し心配になってしまう。

朝にもおんなじ事で心配してたのに、また同じようなこと考えてる。
ここまできて怖気ついてもどうしようもないのに。

顔には出していなかったつもりなのに、箸が止まっていたからか

「サラ、緊張してる?」

と聞かれてしまった。

「少しね。」

と努めて明るく言ったのに、本当の気持ちが伝わってしまったようで大きな漆黒の瞳が“本当に”と語りかけるように覗き込んでくる。

「~~~っん、降参。」

言葉通りに”参りました“と言わんばかりに両手を上にあげれば、お見通しと言わんばかりに

「大丈夫だよ。」

と言われた。

「困ったな、ルヴァンに言われると大丈夫な気がしちゃうじゃん。」

自然と笑えてきてしまう。

「ふふ、そしたら気持ちで負けないようにいっぱい食べて、お店を開けなきゃね。」

「そうだね。」

ルヴァンに張り合うように口一杯にご飯をかきこむ。

「おん、むぐむぐ…美味しい。」

皆んなに受け入れられなくても、美味しいと言ってくれる人がいる。
それでいいじゃないか。

万人ウケするものなんてない事は分かっているはずなのに。
もしダメなら受け入れてもらえるものを作れるまで何度だってチャレンジすれば良いだけなんだから。

だから一歩ずつ、一歩ずつしっかり噛み締めながら進んでいこう。

時計の針はもう間も無く12時を指す。

「ルヴァン準備はいい?」

「もちろん。」

シャッターを開ければ、店内に光が差込み、ショウケースの料理が輝いているように見える。

息を吸って

「一期一会、本日オープンです!!」

と声をかければ、表通りを通っていた人達がこちらに振り返る。


さあ、今日から異世界で総菜屋始めます。




しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから

咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。 そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。 しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...