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第一章
長雨と女神様と内緒話⑤
しおりを挟むとは言え何を作るか…悩ましい。
アン様の食べたいものとルヴァンが食べられるもの全然違うだろうし。
別々のものを作る?
それとも2人が食べられるものか。
うーん、聞いてみようかな、その方が早い気がする。
「因みにアン様、何が食べたいですか?」
聞けば嬉しそうに満面の笑みを向けながら顔を上げ
「妾か!!妾の食べたいものを言ってもいいのか!?」
と本当に嬉しそうだ。
アレもいいな、コレもいいな。と真剣に悩んでいる様子には神々しさなど微塵もなく、レストランやカフェでどれを食べようかと真剣に悩んでいる子供のようだ。
「勿論、作れるものでお願いしますね。私そんなに凝った横文字の料理なんて作れませんからね?それと一つだけですよ?」
「わ、わかっておる。妾はそんなに食いしん坊ではないわ!」
食いしん坊でないなら、人が作った料理を勝手につまみ食いしたりしないと思いますけどね。
言葉にはしないけどジトーッとした目で見つめてしまう。
そんな私の視線を感じてか、言いたいことがわかったのか態とらしく大げさな咳払いをしている。
「ん、んん。ゴッホん。」
本当にこの女神は…
「それで、食べたいものは決まりましたか?」
「あ、ああ。あやつめが来ておったせいで食べられなかったからな、氷菓子を希望するぞ。」
「氷菓子…ピピラニのシャーベットですか?」
「そうじゃ!」
ルヴァンが来ていたから見張られていて、つまみ食いができなかったと言っているわけですね。
反省する気配も全くないですね。
シャーベットか…それなら体調悪くても食べやすいかも。だけど…
「シャーベットとかの氷菓子は冷凍時間がかかるから直ぐに食べられないですよ?」
安易に待ってられますか?と伺えば、怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。
「え、何ですか…」
「お主にはがっかりじゃ。」
「そんな、無茶言わないでくださいよ。」
がっかりと言われてもそればかりは仕方がない。
「お主が、妾が与えたものを使いこなせないからこのように言われるのじゃ。」
「与えられたものって…ギフトとかですか?」
はぁ、と盛大なため息をつき大きな身振りで冷蔵庫を指差す。
「冷蔵庫?」
「そうじゃ、冷蔵庫じゃ。」
「どういう仕組みかわからないですが、大きな冷蔵庫を用意していただいたことは感謝してますよ。」
「違う!!妾が言いたいのはそんなことではない!!」
それじゃあ何が言いたいというのだ。次に怪訝な顔をしているのは私に違いない。
「言っても仕方ない、とにかく作れ。今すぐ作れ!!」
早く食べたいということだろうか。
アン様の興奮した様子がおさまりそうもないので、仕方がないのでひとまず料理を始めることにした。
と言ってもピピラニのジェラートはジュースを凍らせるだけなんだけど。
製氷機の器にピピラニのジュースを入れてパタンと冷凍庫の扉を閉め、せっかくだからもう一品作ろうとしたところで
「早く用意せい。」
とアン様に言われそんなすぐにできませんよ、と見て納得してもらおうと冷凍庫を開き器を出せば不思議なことが…
「できてる…?」
え、何で?!
今入れたばかりなのに?
「…アン様、直ぐに食べたいからって神力とか使ってズルしましたね?」
と言えば、心から心外と言いたげな顔をこちらに向けていた。
「それは初めからそのような仕様じゃ。その冷蔵庫に入れれば保温こそされないが、入れて扉を閉じれば、直ぐにお前の望む状態になる。」
そんなことも気付かずに過ごしておったのか、と頭を抑え嘆いている。
そんな説明もされず、突然異世界に来たから全てが特別仕様とか、知ってるものに知らない機能がついてるなんて思うはずがない。
文句の一つでも言ってやりたいが、アン様のような人(神)にいくら言っても無駄だとわかってもいるので諦めて、便利な機能のついた冷蔵庫に出会えたことを喜ぶことにした。
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