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第一章
長雨と女神様と内緒話①
しおりを挟むしたしたと雨が降り続き、空の色も少し暗い。
ハウフロートもついに梅雨に入ったのだ。
数日前までは日が照りつけて食欲も無くなるほどの気候だったのに、雨のせいか少し肌寒い。
もちろん、こんな季節は体調を崩しやすい人が続出するのだけど、それは異世界も共通のようで…
「サラ、ごめん。」
「いいから寝てて。」
ベッドから起き上がろうとしては私に押さえつけられ、瞳を潤ませているルヴァンも例外ではない。
「食欲は?何か食べられそう?」
「ん、今はいいや。」
私に劣らず食いしん坊のルヴァンがこうなのだから、相当具合が悪いのだと思う。
きっとアン様に振り回されて、あの王族に手を焼いて疲弊していたから体調を崩したのね。
ルヴァンの額に手を当てれば熱く、熱もあるようだ。
体温計で計ればそこそこ高めだ。しっかり冷やしたタオルを額に乗せてあげると気持ち良さそうに目を細める。
「ゆっくり休んでてね。」
と告げて部屋を出て暫くしたら、扉の向こうから微かに寝息が聞こえてくる。
私以上に色々なことに気を張っていたって言うのもあるんだろうな…
もうちょっと早く、ルヴァンの体調に気づいてあげる事も出来たのに、私は何も変わっていない。
必死に隠している自分の黒い部分がドンドン溢れ出て、全身を覆い尽くしていくようなそんな錯覚に陥る。
マタ、ワタシハ、ナニモデキナイ。
ドロドロと溢れ出る弱い私。
『ーーーーー』
「え?」
『本当にそうか?』
この声は…
『妾が祝福を授けてやってるのに何だその顔は!』
「アン様?」
『お前はもっと面白いヤツじゃ。妾をガッカリさせるな。』
「ちょっと、何処ですか!見えない、怖い!」
『神が姿をホイホイ見せては有り難みが減ると言うものじゃろ。』
「いや、もう見たことあるし、今更だし。」
側から見たら独り言を呟くヤバいやつだ。
家の中で良かったと心から思う。
『ふむ。それも一理あるのう。それなら…』
ボム!と音がして霧のようなもので視界が覆われ、少しして視界が晴れるとそこにアン様が居た。
「久しぶりだのう。」
綺麗な扇で口元を隠し視線はキッチンを見ていて、存分に"もてなせ"と催促されているように感じる。
「そうですね。」
と答えれば扇で隠せないくらいケラケラ笑いながら
「やはり肝が座っておる。」
と嬉しそうにしていた。
と思った瞬間、表情は一変し扇を閉じて刺すような視線を向けられる。
「ただ、それ故に危うい。祖父への償いのための自己犠牲か?」
「……。」
「サラの祖父はそのような事を望む小さいヤツだったのか。」
「おじいちゃんは…!!」
「なら、何故何時迄もウジウジとしておる。あーー嫌になる。人間とはくだらない事を何時迄も何時迄もウジウジうじうじと。」
「それは…。」
「あいつは天寿を全うしたのだとしてもか?」
「そんなはずは!」
"ふぅ"と大袈裟なくらいに大きくため息をつかれる。
「コレはカンジとの約束故、本来なら私がお前に教える義理もない事だが、コレからもお前には美味い供物を用意してもらわねば困る。だから少しくらいなら話してやらない事もない。」
そうして語られるのは私の知らない大切な人とアン様の話だった。
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