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第一章
招かれざる来訪者⑤
しおりを挟む「くっ、く、く、くち…」
「ん?」
「な、な、な、な、な、舐め、舐めた!指、舐めた!」
間違いない、今大学芋だけじゃなく、指ごと口に運んだ上で更に舐め、舐めた!
指先に"ぬ"って、"ぬ"って生暖かい舌が…
指先に感じた熱がどんどんと広がり、顔が熱を帯びる。
そんな私の事など御構い無しに
「甘い蜜が付いてたからね。」
と、何でもないことのようにルヴァンが笑う。
「だからって、だからって、舐めなくても!」
「だってもったいないでしょ?」
「だとしても…!!」
口をパクパクさせながらも応戦するが、ルヴァンはどこ吹く風。
またからかわれてる?
冷静になろう、冷静に。と少しずつ平静を取り戻しつつある中で、怒鳴るような声が聞こえた。
「いつまで待たせるんだ!!」
「!?」
勿論、怒鳴り声の主は暴君王子で、ようやく本来の目的を思い出した。
すっかり忘れてた。と言うか衝撃がでかすぎて存在が飛んで行ったと言うか、なんというか。
「今行きまーす。」
と返事をして、ルヴァンから手を離そうとすると中々離れない。
「ルヴァン、待ってるから離して。」
と言えば、首を傾けながら"どうしても?"と訴えてくる。
「早く終わらないと、アン様の事とか色々聞けないでしょ?」
と訴えれば、何やら少し考えた顔をして
「いいよ。」
と手を離してくれた。
その様子が少し気になったがそのまま大学芋の用意をして一階に降りた。
………
……
…
で、現在。
「この、ねっとりした蜜と、パリパリの蜜が絡まったさつま芋?がいい味を出している!そして、甘いのに腹に溜まるし、何なんだコレは!美味い!」
大絶賛の王子とその仲間達は、試食分で用意した分では足りず、私がこの後ケインさん宅に届けようと用意していた分を目ざとく見つけドンドン貪っていく。
「よかったですね。」
棒読みなのは許して頂きたい。
「この芋は異界の物か?此方では手に入らないのか?」
「秋になったら手に入ると思いますよ。ただ少量だとは思いますが。」
「何!何処で手に入ると。」
「今はまだ言えません。」
「何故だ。」
「栽培してもらってますが、必ず育つという保証がないからです。」
「栽培?さつま芋をか?」
「そうです。」
「野菜は野生の物を取るのだろう。」
「そんなこと、王族でも知ってるぞ。」
そんなことも知らんのか。と言う声が聞こえそうなほど気持ちのいいドヤ顔をしている王子と王様。
自分の世界が全ての人の常識だと思っているんだな。この王族は。
「私の国では野菜は栽培していて、家畜…食用の豚や牛は飼育していたんですよ。」
「「何!?」」
「私はその筋のプロではないので、詳しい栽培や飼育については何も言えませんが。」
と伝えれば、"役に立たんな"と言う声が聞こえてきそうな顔で見られる。
それでもこの王族はの為に調べる気にはなれない。
「それはそうと、フィルがここまで食に興味を持つとは。アンジェリカ様に次の刻人は料理ができてフィルの役に立つ女が良いと願って良かった。」
「流石、国王はお子息思いでございますね。」
え?サラッと告げられたけど、まさか私が刻人としてこの世界に来たのは、この王子の為?
そんなくだらないことの為?
別に彼方に未練があるわけでもないし、こっちの生活に満足しているけど、そんな事で刻人は選ばれるの?
と言うかその条件を満たした人がくじ引きにかけられたって事?
アン様聞いてないよー
加護とか関係ないくらい、最悪な理由だよ、もう。
そっとルヴァンを見るも何も言わない。
一先ず、金額を決めて早々にお帰り頂いて、ルヴァンと話し合おう。
その後は王と王子、宰相とあれこれ意見をぶつけ、満足とは言い難いがそれなりの金額を設定することができた。
そして足早に帰ろうとする王様と宰相をルヴァンが引き止め、何やら話している間に王子が声をかけてきた。
「唐揚げと大学芋を毎日城に届けろ。」
「デリバリーはやってないので。」
「デ、デリバ…」
「お届けはしないので、自分で買いに来てください。」
「何を!俺は王子だぞ!」
「ええ、ですが私には関係ありません。」
「生意気な…」
「だから"ボク"なんですよ、王子様は。」
「なっ!」
「悔しかったら自分で買いに来てください。」
飾った笑い方ではなく、思い切り歯を見せて笑いかければ、王子の顔はほんの少しだけ赤かった気がするが、きっと"ボク"と言われて悔しかったのだろう。
ルヴァンの元から帰ってきた王と宰相が疲れ切った顔をしていたのは言うまでもない。
ーーーおまけーーー
「何をサラッと帰ろうとしてるんですか?陛下、宰相様。」
ギクッって効果音が付きそうなくらいの反応を見せて、ゆっくりと振り返る。
「お渡しするものがあるとお伝えしましたよね?」
「そ、そうだったな、忘れていた。あははは…」
「そうでしたね、うっかりしておりました。」
ニッコリと微笑めば、冷や汗をかいた顔から血の気が引いていく。
「アンジェリカ様より預かっておりますギフトお渡ししますね。」
と其々に小さな箱を渡せば、恐る恐るといった様子で箱に手を伸ばす。
「さあ、開けてください。」
"ごく"っと二人の喉がなる。
その箱の中には
【刻人の自由を奪う時、末代までギフトが失われる】
と書かれた紙が入っていて、二人が読み終わったのと同時に消えた。
それがアンジェリカの言葉だと言うように。
「どうですか?素敵な天罰でしょう?」
既に涙目になっている二人に
「因みに、今日の事を報告しますが、ギフトをお渡しする前でしたのでそこは寛大な処置をして頂けるよう、私からもお願いしておきますね。」
と伝えれば額が床につく勢いで頭を下げてくる。
こんなに必死になるくらいなら、最初から聖約を守ればいいのにと思いながら横目でサラを見る。
あの王子と話しているようだけど少し面白くなくて、二人に
「帰って頂いて大丈夫ですよ。」
と伝えれば招かれざる客はそそくさと帰っていった。
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