異世界で総菜屋始めます

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第一章

寝坊とブランチと④

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黄金色の液体が注がれたグラスを傾けて口に含めば、ほのかな苦味と炭酸の刺激が喉を通りすぎる。

久しぶりの感覚に喉がキューっとなる。

「っっぷは」

思わず漏れた息はコレまた久しぶりの感覚。

ーーーたまらない。

そもそもお酒は強くない。けれども嫌いではない。
何よりもお酒の作る楽し雰囲気が好きだ。たまに例外もあるけど…

グラスの液体がを眺めながら前を向けば、それはそれはいい笑顔でビールを片手にポテトに手を伸ばすルヴァン

わかってる!

私の意図を読み取った様にポテトに手を伸ばすルヴァンに私もニンマリと笑みを浮かべる。
ただ、この出来立てのハンバーグの肉汁を逃す手はない。

グラスを置いてまだ湯気を立てるハンバーグにナイフを入れる。
照り焼きソースでコーティングされているハンバーグが割れ、ジュワーっと溢れる肉汁。

一口大に切りソースを絡めて口に運ぶとまだ熱く

「はっふ、はっ…ふ、んぐんぐ」

口内に空気を入れて冷ましながら食べ、ビールで流しこむ。
嗚呼、幸せ。

次はポテト!この塩梅もまたビールが進む。
そして邪道と言われてもいい、この肉汁とソースを絡めて食べればコレもまた…

「はぁーーーーっ」

蕩けてしまうのでは?と心配になる程緩んだ頬と、止まらなくなる手が更にビールのペースをあげて一気に酔いを誘う。

強くないのだからゆっくりと飲めばいいのに、ついつい進んでしまうのは久しぶりのアルコールだからなのか?
それともちょっとした開放感からなのか?

はて?とグラスを除けば明らかにペースの速さを物語っている。

何時もならビールは一杯程度で足りるのにまだまだ足りる気がしない。こちらにきて体質でも変わったのかな?と考えていれば

「サラ、コレはビール止まらなくなる」

と嬉しそうな顔でビール片手にプレートの料理をどんどん食べ進めているルヴァン。

そんな様子を見て

お酒はこうじゃなくちゃ!

と何だか知ったかをしたい気分になる。


もう少ししたら梅雨に入る。


此方でも雨が降り続けるのかはわからないけどドンドン暖かい季節になる。
そしたらもっとビールが美味しくなる。

「おつまみメニューもいいかも…」

と呟けば

「それは早く食べたい。」

と少し前のめりなルヴァン。

きっと私以上にお酒が好きなんだろうな、とは気づきつつも

「ルヴァンは何のお酒が好き?」

なんて聞けば

「大体なんでも飲むけどウイスキーとかワインはよく飲んでたかな?」

となんとも雰囲気のあるお酒をあげられた。
うん。似合う。

目の前の彼が少し成長してワイングラスを片手に微笑む姿を想像すれば、何だか下手なアイドルよりアイドルのような姿が眼に浮かぶ。

同僚だった山ちゃん辺りは奇声をあげながら喜びそうだな。
なんてあちらの知人を思い出して笑えてきた。

それにしても、ワインか…

ルヴァンに付き合ってワインを飲むことは、ほぼほぼない気がする。
正直サングリアとかの少し飲みやすくされたワインは私もたまーに、そう、本当に偶に飲んだりはするが、どうにも苦手意識が拭えない部分がある。
それもこれも社会人一年目の歓迎会で出されたアップルワインでやらかした大失敗が原因だ。

軽い飲み口と楽しい雰囲気も手伝って進められるがままに飲み続けたワインで、それはそれは頭を抱えて消えたいと思うくらいの醜態を晒したのだ…

あの頃は若かったのだ。

ただ今となってはお酒の飲み方は弁えているので、流石にあの頃のような失敗はしないだろう。


このままではせっかくの楽しいお酒が台無しになってしまう…
と過去を吹き飛ばすように気持ちを切り替え、グラスに残った残りのビールを煽る。

うん。

これ以上はやめとこう。

またあの大惨事を起こさぬように…


自分のグラスには冷えた水を入れルヴァンにはお代わりを注いであげる。
顔色ひとつ変えずに飲んでいる姿を見る限り、かなり強いように見える。

私もここまで強くなれたらもっと楽しいだろうに…

とは思わなくもないが全く飲めない人に比べたら少しは飲めるしそれなりに楽しい。
その分つまみも多く食べれるし、両方楽しんでると思えば今の現状に満足しているのも事実なんだけどね。

それにしても…

ルヴァンの飲むペース早過ぎじゃない?既に空になった空き缶が4、5…7本転がってる。


楽しく飲んでるのを止めるつもりはないけどこれからは飲む回数は減らそう。
そうしよう。

そうじゃないとルヴァンの酒代と健康が心配になる勢いだ。

とは言いつつも、収入は安定してるわけだからそんなに切り詰めなきゃって訳でもないし、本人が不調を訴えないのなら健康もそこまでは問題はないと思うんだけどね…


その後もルヴァンの暴飲は続き、つまみの切れた後は有り余っていたクッペを照り焼きのタレに付けて食べていた。

つまみが足りないのはわかってはいたがこれ以上作ると更にお酒が止まらないのでは…と心配になり、クッペをスライスしてバターを塗ってから、半分に切ったニンニクを擦り付けて軽く胡椒を振ったものをオーブンで焼いて、ガーリックトーストを少しだけ作ってあげた。

お腹がいっぱいになってお酒の勢いが止まることを願って…


ただ、私の願いとは裏腹にルヴァンは全てのクッペがなくなるまで飲み続けたのだった…





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