異世界で総菜屋始めます

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第一章

寝坊とブランチと③

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家に着き、早速ルヴァンに詰め寄り壁に手をつく。

自分よりも大きなルヴァンに対して、壁ドンってやつをしているがそこに色恋なんて甘いものはなく、ただ殺伐としたものだ。と言っても見上げているのは私だしあんまり迫力は無いんだろうけど…

「で?説明してくれるんだよね?」

ニッコリと、安易にもうちょっと事前に教えられることがあったよね?と八つ当たりしてみる。
だって私が知らないのは私のせいであって、ルヴァンの悪いところなんて微塵もないんだから…

そんな私の八つ当たりは気にもせず

「おぉ!壁ドン初めてされました!」

なんて言ってるのが憎い…

これからはルヴァンに頼りすぎず、もっと色々な事を自分でやろう。と心に誓った。

少し遠い目をして諦めた私をどこか可笑しそうに見ながら椅子を進めてくれ、素直に座れば先程のことを説明してくれた。

「まず、話すのはあの役人さんの事から。彼女はこの国で数名の探索サーチと言うギフトを持っていて、触れた物から相手の希望や要望、不安な点、犯罪歴などを読み取るんだ。で、大体の人は犯罪歴や借金の有無で要望が通る通らないは有るんだけど、サラの場合は"刻跨ぎ人"此方で言う"刻人"だからこの国では一切の税が免除されるんだ」

なんと!!と言うか刻跨ぎ人って私以外にも居たのね!先ずそこからして知らなかった…

「さらに刻人はこの世界では知識や文化を発展させてくれる人、と言う事で異文化の持ち込みや研究、知識の教授は許可されている…って言うことまでは分かるんだけど」

「だけど?」

「うん。基本的にはこの世界の物を使ってって言う前提の話だったはずなんだよ…」

「え、そしたら…」

"何も気にする事なく異界の調味料や食材をバンバン使って繁盛させてくださいね!"と言うあの言葉は一体?

ルヴァンもそこが気になっているらしい。
ただ何故そんな事になっているのかわからないから何とも言えない、と言った顔をしている。

そしてふと先程渡された書類に目を落とす。

一枚は所謂、営業許可書で内容は至って普通。
もう一枚は何やら色々書いてあって読み進めていくと刻人の待遇について書かれているものであった。


刻人は税を納める義務を持たない、また月々の給金を国が保証する。また働きに見合い個人で手に入れた財の他、国より手当が出るものとする。
ただし刻人は許可なく他国に渡る事を禁じる。


はい?
ちょっと待って、何で自分で働いた以外の収入が手に入るの?
安易に働かなくても生活できる環境整ってるんですけど…
そして許可なく他国って一体?そもそもそんな余裕はないんだけど…

書類を見て固まった私に気づき、ルヴァンがそっとソレを取り上げれば何やら考えながら

「考える前にご飯にしましょうか」

と笑った。

窓の外を見れば大分日が沈んでいる。

悩んでも仕方がない。そう、美味しいもの食べれば何か閃くかもしれないし!

難しい事を考えるのを辞めて頭を切り替える。

台所に行けば考えるのは夜ご飯のこと。

ブランチはクッペとコーヒーって感じに軽く済ませてしまったから、夜はしっかり食べたい。
と考えつつも台の上に置かれた大量のクッペ。
元々このパンは口に合うだろうと分かっていたらしく大量にに買ってきたのだ。二人でこの量のパンは食べないだろ…とは思ったけど案の定だ。

「あっ!」

冷凍保存したアレがあるじゃない!

冷凍を見ればロールキャベツと一緒に作ったハンバーグ。普通に焼いてケチャップで食べるもよし、トマトソースで煮込んだり、照り焼きソースを絡めたり更にはチーズをトッピングしても良い。

出来上がった様子を考えるだけでお腹がすいてくる。

よし、照り焼きハンバーグにしよう!

初めにボウルに醤油、酒、味醂を同量混ぜて、ここに摩り下ろした生姜とニンニクを少し、それから蜂蜜!

砂糖でもいいけど蜂蜜の方が照りが綺麗に出るしほんのり甘みがマイルドになる感じがして何となく私は蜂蜜派。

混ざったのを確認して、少しだけ掬って舐めてみる。

うん。いい味。
これが煮詰まってきた時の匂いを想像してお腹が鳴りそうだ。

ハンバーグはもう少し解凍にかかるからその間に付け合わせのフライドポテト。
ルヴァンにしっかりと洗ってもらったじゃが芋を皮を剥かずに串切りにしたら水に浸けて、

うーん。あとは色味だよね。よし、グリンピースとコーンの大きさに合わせて人参を切って…

皮を剥いてザックザクと刻んでいけば人参が多めになったけど問題なし!

「よし、解凍も済んだし仕上げにいきますか!ルヴァン、お皿の準備お願いね。」

「これでいい?」

「うん、ありがとう。」

大きめの皿を用意してもらい仕上げにかかる。

深めのフライパンに3センチくらいの油を入れて十分温まったら、水気を取ったじゃが芋を揚げていく。

高温の油の中はパチパチ音を立てながら泡がどんどん浮かんでは消えてじゃが芋はどんどん色濃くなっていく。
皮付きフライドポテト…これだけでお酒がいける。
色々わからない事はあるけど許可は降りたんだし祝酒!

チラッとルヴァンを見る。

16歳で成人って言ってたよね?
お酒も問題ないはず!

口元をニヤリと歪ませてビールをお取り寄せし気付かれないように冷蔵庫に入れる。

竹串で硬さを確認すればスッと通り火加減も大丈夫そう。油を切りつつドライパセリと塩、胡椒をかければ冷蔵庫の中身が益々楽しみになる。

こうなったら時間短縮!

しっかり見てれば大丈夫な訳だし早く飲みたい!

ルヴァンにお願いをして熱したフライパンにバターを溶かし人参とグリンピース、コーンを火が通るまで炒めて貰う。

私は隣でハンバーグ!

熱したフライパンに油を引いてハンバーグを並べて焼いていく。ジュージューっと良い音がしてるけどチラリと見える側面のお肉はまだ色が変わらない。
お肉の焼ける匂いとこの音だけでも飲めるよ私!
チラッとポテトを見てからルヴァンの手元を見てギョッとした。
時間はそんなに立ってないはずなのに何故かこんがりし過ぎたところが所々に…

「ル…ルヴァンもうそれくらいで大丈夫だからお皿のこの辺りに盛ってくれる?」

危ない危ない。
また味覚破壊兵器の犠牲になるところだった。

そんなこんなをしていたらら側面がいい具合に色が変わり、頃合いを知らせてくれたのでひっくり返してさらに焼いていく、どんどん出てくる肉汁…最高!

両面が目で見て焼けた事を確認して余分な油をクッキングペーパーで拭き取る。竹串を刺してジュワッと溢れる肉汁、うん。赤くないし大丈夫。
肉汁の残るフライパンの中で混ぜておいた照り焼きのタレと一緒にグッツグッツと煮込んでいけば水分の少なくなったタレとハンバーグが絡まり合ってこれはご飯が進むやつ!今日はご飯ないけど…

熱々の湯気をたてるハンバーグをお皿に乗せて、フライパンに残るタレを更に上からかけて、油のしっかり切れたポテトも空いてる位置に乗せたら

ハンバーグプレートの完成!

今日の主食はクッペだもんね。
完成した料理はルヴァンが運んでくれる。こちらを振り返らない事を確認して、冷蔵庫から冷えたグラスと冷えたビールを取り出しテーブルに向かい

「じゃ~ん!取り敢えず営業許可も出たし乾杯しよう!」

とビールを出せば初めは驚いた顔を見せたルヴァンも笑顔を深くして、互いのグラスにビールを注ぎ"乾杯"とグラスを掲げる。
グラスの中で泡の弾ける黄金の液体が今日の夜が長くなる事を告げていた。


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