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第一章
寝坊とブランチと②
しおりを挟む美味しいパンと出会い苦い思い出も蘇ったが、やはり嬉しい発見があった事に浮き足立っていた。
やっぱり美味しいの力は偉大なのだ!
ブランチを終えて、少し早いが支度を整えれば何だか背中がシャンとしたように感じる。
役人がいるって事は所謂役場って事だろう、地球でも何度かお世話になったが無駄に待たされるイメージと、お堅い感じがどうにも苦手だった記憶しかない。
私しっかりしてますから!
と言わんばかりのキッチリした役人さんで色々突っ込んで聞かれたり、駄目出しされたりしたらどうしよう。
なんて一人ドキドキと早まる胸を押さえて、いざ行かん!
大通りを抜けて、中央広場の噴水も突っ切って、あれ?このまま進んだらお城じゃない?なんて思ってたら橋を渡る前に大きく逸れて
「着きましたよ」
と案内された場所を見上げ目を瞬かせる。
あれ?
もしかして私疲れてる?それとも見間違い?
目の前にあるのは木造二階建てで明らかに隙間風が入っちゃってて、蜘蛛の巣なんて張っちゃって、挙句
「傾いてない?」
え?なんで?何度見ても傾いている。
今にも崩れそうで中に入りたくない。
某有名な建築物程ではないが結構きている気がする…
私の様子を見て心情を察知したルヴァンが
「大丈夫、大丈夫」
なんて言っちゃってるけど、全然大丈夫じゃないから!
入り口の扉だって一枚外れかけてるじゃんか!
なんて駄々を捏ねても問題が解決されるわけもなく、時間だけが過ぎていく。
そして気づいた。少し早くは来たがとうに午後の受付時間は始まっている、のに、誰も来ない!
え?なんで?役場なんだよね?そんなことある?
いつまで経っても覚悟ができない私を見かねたルヴァンが、ヒョイと事もな気に私を担ぎ?抱えて前進を始め文字通りジタバタと暴れたのだが
「そんなに暴れて何かの拍子に崩れても知らないよ?」
とまるでお菓子売り場の前で駄々をこねる子供を嗜めるような、どこか揶揄ったような口調で言われてピタっと暴れるのをやめ、無意識に両手で口を覆ってしまった。
うん。だって暴れててその空気抵抗で壊れちゃうような建物、絶対声の反響で壊れるもん。これは正当な反応だと思う。
と言うかこの状況!
居た堪れない…
だって見てください!所謂抱っこのような事をこの歳でされてるんですよ!ってなんか解説を入れて恥ずかしさを誤魔化したくなるくらいに密着…
そして此方にきてから圧倒的な運度不足できっとぷよんぷよんに筋肉の落ちたボディ、そうぽちゃ子になっている筈!泣きそう…(本日2回目)
「ル…ルヴァン、自分で歩く!入るから下ろして!」
必死にお願いすれば
「ちゃんと行ってくれる?」
「いきゅ!行きます!いかせて頂きましゅ!沙羅は出陣しましっ!」
とか何とか、脳内で言葉が纏まらずよくわからない事を言ってしまった。
そもそもかみかみだし顔は真っ赤で暴走するし、私ってこんなに子供っぽかったっけ?
もっと落ち着いてたような気がするのに…
羞恥心による自己分析で何だか少し冷静さを取り戻した気がしなくも無い、ような気がするような?そんな気持ちでいざ役場!外れてない方の扉を開いて進めば(壊れてる方が外れて弁償させられるのは嫌なので)中は…
うん。やっぱりボロボロ!
そもそも受付が1つしかない!
普通は市民課とか、福祉課とか、なんたら課みたいな感じで分かれてるんじゃないの?
漠然とした疑問を抱きつつ、それは地球の考えであって此方は違うのだろう。と無理やり結論付けた。
だって無いのに作れなんて言えないし、そもそもお堅いのは苦手だからこれくらいの方が楽かもしれない。
早速窓口に向かい見た目はまんま山羊のおば…お姉さんに話しかける。
性別がわかったのは、首から下が人間の女性の姿だったから。
「すみません、お店を開きたいんですが申請は此方でよろしいですか?」
と声をかければ何だかくぐもった声が返ってきた。
「はーい、ちょっとまってねー」
「あ、はい。」
何だろう。そんなに手続きが多いのだろうか?てか軽っ!
不安な気持ちが大きくなったところで目の前で後ろを向いたお姉さんが頭を抱え、勢いよく首を引っ張ったと思ったらそのまま首が外れた。
「ひっ…!!」
そう首か外れたのだ!
恐怖で視線を逸らし小さく震える私の肩を支えながら、よく見てとルヴァンが指を指す。
そんなグロいものは見たく無いが、何か意味がなければそんな事は言わないと信じている。
信じて前を向けば…
「…へっ?」
さっきとは違う頭が付いてる…?
と言うか被り物!?
そう。リアルな山羊の被り物を外しただけらしい。
なんで被り物…
驚きを隠せずじっと見つめれば、何事もなかったのようにメガネをかけた三つ編みのお姉さんがそこにはいた…
「お待たせしましたー」
「あ、はい。いえ、そんなには…」
凄く支離滅裂な事を言ってるのは分かるけど、今度こそ本物の顔かと疑ってしまう。
ジーーーーッと見つめるが怪しいところはない。
これ以上驚く事はないと本気で信じたい。
疑うように見つめる私の視線は物ともせず、お姉さんは
「此方にお名前お願いしまーす」
と手を差し出しいい笑顔だ。
えっと…どこに書くの?なんて悩んでたらルヴァンからのフォローが入る。
「サラ、手の上に右手を重ねて」
「え?うん。」
握手でもするの?なんて考えながら重ねればソコから青い光広がったと驚いた瞬間には光は消失していた。
なんなの今の…
「はい、手続き完了です!申請は受理しましたー」
「え?」
「営業は許可します!刻人は税が免除されていますので何も気にする事なく、異界の調味料や食材をバンバン使って繁盛させてくださいね!」
と2枚の紙をペラっと渡された、そもそも何故か何も言ってないのに私の事情を知りお店の情報も細部まで知られている。
ハワハワしながら書類を受け取りルヴァンを見れば、後で説明しますねと言われその場を離れる事となった。
あ、今更だけど建物が潰れる事はなく、少しは安心しているのも事実だった。
色々と聞きたい事はあるのに潰れなかったのはきっとアン様のお陰って事で感謝した。
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