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第一章
寝坊とブランチと①
しおりを挟む「沙羅、今晩は何が食べたい?」
「えっとねー、さらはねー」
「ゆっくりで大丈夫だよ、まだ時間はあるから」
「うん!おじいちゃん大すき!」
繋がれた皺々な大きな手
タンスの匂いのするベスト
お店に向かういつもの道
良かった、アレは悪い夢だった。
まだ私は9歳になったばかりだもん。
幸せな世界ではとても輝いていて
過去の闇は全てが上書きされ影すら見えない
春が過ぎ、夏が過ぎそして迎えた5度目の秋
世界の音が消えた…
◇◇◇
「…ら、さ……きて!、サラ起きて!」
ルヴァンの声がすぐそこから聞こえて、徐々に意識が浮上し目を覚ませば、目の前に迫るイケメンの顔の破壊力に驚き息が止まるかと思った。
「いつもの時間を過ぎてもサラが降りてこないし、待ってみたけど起きる気配が全く無いから心配になって、様子を伺いにきたら扉の外からでも分かるくらいに魘されていたから起こしに来たんだ」
「魘されて…」
あの夢が原因だろう。久しぶりに見た。
こちらに来てからは一度も見たことが無かったのに。
今は地球に居ないのだから大丈夫。
これ以上失うものはない…
ってちょっと待て!
ルヴァンが心配して様子を見に来る時間って今何時?
心なしか窓から見える太陽の位置が高い気がする、時計を見れば
「◯×△※%~◇!!」
今ひとつ大切なものを失いかけた!
私の寝坊のせいで午前の部に間に合わなかった。
「ルヴァンごめんなさい!」
ガバッと頭を下げれば手で制され、何て事無いような笑顔で
「午後の部で申請しに行こう」
と言ってくれるが優しさが胸を締め付ける。
植え付けから数日経って平和な数日を過ごしていたら、昨日の夜ルヴァンから一期一会の開店にあたり役人に届けを出さないといけないことを聞き、連れて行って欲しいとお願いしていたのだ。
なのに寝坊とか、何年かぶりの寝坊がまさか今日なんて…
私のバカバカ!
壁にひたすら頭を叩きつけたい気分になってきた。
のに
ぐぅ~~ッ
何でこのタイミングでお腹が鳴るのーーー!
私よりもお腹が空いてるのはルヴァンだよーーー!
両手で押えつけた指を少しずらして隙間からルヴァンを見れば、クスクスと笑っている。
恥ずかしい。穴が必要だ!それも深い穴!今すぐ埋まりたい!泣きそう…
真っ赤になってるであろう顔を枕に沈ませて身悶えていたら
「サラ、さっきパンを買ってきたから食べよう」
と声を掛けてくれる。
身支度を整えてリビングに向かえば、出来立てと思われるパン特有の小麦の香りが広がっている。
あれ?美味しそうだ。
ただ匂いだけで判断すると痛い目に合うことは知っている。初日のイカ焼きがいい例だ。
失礼な話、こちらに来てからチャレンジした食べ物は、ことごとくハズレを引いていて自分から進んで食べようとはしないレベルではある。
ただ余所者が突然お店開きました!行きます!なんてうまい話があるとは思わないので毎日では無いけど(だって不味いし、高いし)時々マーケットや飲食店、それからこれからお世話になるであろう簡易食器を扱っているお店には顔を出していた。
おかげで少しは知り合いができ、ココのイケメンだったり玉の輿事情にも詳しくなってき…おほん。
話はそれたけど、私も大分馴染んできたということだ。
此方の業務スーパーの様なお店【ロッゾ】の看板娘、リンランとはかなり仲が良いと思う。
リンランは妖精の女の子で、桃色の髪を緩ーく編んだフワフワした女の子だ。きっと地球で言う所のわたあめ女子だっけ?そんな感じ。
妖精って言うと手乗りサイズのイメージだったけど、リンランは150センチくらいの大きさで初めは驚いた。
リンランを思い出しながらニヤニヤして席につけば、コーヒーとパンが出される。
「ありがとう。」
コーヒーに手を伸ばし口に含む。
おっ、今日のはなんだかフルーティな酸味のあるコーヒーだ!
美味しいコーヒーに舌鼓を打ちながらそっとルヴァンを見る。
自称料理が出来ない(苦手ともいう)ルヴァンは地球ではコーヒーショップで働いていたらしい。
ただ絶望的に料理が出来ず、コーヒーを淹れるか接客しか任せてもらえなかったとか。
お陰でコーヒーを淹れるのはこだわりがあるらしく、焙煎碾きたてのものを天候やら何やらに合わせてブレンドしてくれるのでそこまでコーヒーに詳しくない私でも美味しいと思う。
こんなに美味しいコーヒーを淹れれる人がここの食事に耐えてきたってほんと凄い。
秘密を打ち明けてくれた時に聞いたら
「それはここの文化だから受け入れるしか無いよね、海外に行って食事が口に合わないなんて良くあるでしょ」
なんて笑ってたっけ…
と言うことはだよ、きっとこのパンも…
目の前にあるのはクッペの様な見た目のパン
某赤い帽子のおじさんのボスだと思った人不正解!
太くて短くて、真ん中に切れ目の入ったバケットの事だよ!
なんて頭の中ですこーし。そう、すこーしだけ現実逃避
おじさんもきのこと戦ったり頑張ってるし、私も意を決してクッペ?に挑戦するとしよう。
まだ温もりの残るパンを切れ目に沿って割けばモチモな中身が姿を現わす。
ここまでは美味しそう。
「…ごくっ」
唾を飲み込み口に含めば、表面のカリッとした部分と中のモチっとした部分が小麦のほのかな甘みと香りを口いっぱいに広げでくれる。
あ、
「美味しい…」
「良かった」
ふっと目を細めて笑う姿も様になるイケメン。
心の中で舌打ちをする
世の中不公平だ。
私がいくら微笑もうとも、こんなに美しいと思ってもらえるはずがない。
これで料理まで出来ちゃったら嫌味になっちゃうから、あのままでもいいのかもしれない。
先日ルヴァンが作ってくれた食事を思い出し苦い気持ちになった。
◇◇◇
先日の爆弾発言から数日。突然
「いつも作ってもらってるし今日は僕がお昼ご飯作るね。」
と言われペペロンチーノを作った時の事を思い出していた。
大分ぎこちなかったけど包丁捌き以外特に問題はなかったはず。時間は掛かるけどきっと大丈夫だよね?それに元々地球の人間だと言っていたし、出身国とかは聞いてないからさっぱり知らないけど見た目からして日本人ではないと見る。けど割と海外の味付けも行ける方だと思っているのでそれとなくメニューを聞き出してみたら、バジルチキンだと言うのでそんなに難しい工程の料理ではないしお任せする事にした。
秘密を打ち明けてくれた時、何故日本語が話せるのか聞いたらアン様による言語適用化の効果で、障害なく話せてると教えてくれたのだ。
なので料理に関しても鳥の煮物=豚の煮物なんてあべこべな変換はされてないと信じてる。
因みに、言語適用化されていないと此方のヒト達の言葉はさっぱり理解できない上、何種かの言葉が入り混じりかなり大変との事だった。
コレはアレだね!青いロボットの便利な道具のほにゃらら蒟蒻、的な効果が自然と施されてるって事だね!
アン様凄い!ありがとう!
ルヴァンの調理する背中を眺めながらアレコレ考えていると、既に焼く工程に進んだのかジューっという音が聞こえてきた。付ける時間短い気はするけど…うん。バジルの良い香りがするしきっと問題はない。
これから出される料理を楽しみに総菜のレシピノートを書き込んでいく。
さすがに売り物を目分量やらお好みで、って毎日味を変えるわけに行かないからね。
………
……
…
なんて目を離しちゃいけなかった。
「少し焼き過ぎちゃいました」
と照れ臭そうに出された料理に軽く絶望を覚えた。
真っ黒な消炭はきっとそう。鶏肉だったであろうものだ。
確かに生焼けなんて食中毒とか衛生問題とか色々不安だけど、コレはコレで食べ物では無い。
バジルの香りなんて今は微塵もせず、焦げた炭の香りしかし無いのだ。
けどまだ大丈夫!焦げを取れば良いのだ!
「焦げちゃったところを取れば大丈夫だよー」
なんて言いながらナイフとフォークを使い綺麗に焦げを削げはそこには…
そこには…
そ、そこには…
なんで!?
炭しか見当たらない!
「あのールヴァン?」
「はい?」
うん。そんなにキラキラした目をしても駄目!
「何を作ったんだっけ?」
「バジルチキンです!」
「そう…それでコレは?」
「…バジルチキンだったものです。」
嗚呼そんなに一気にシュンとして、耳と尻尾(私の目にしか見えない)をそんなに垂らして、何だか食べない私が悪い気がしてきた。
息を止め小さく切った炭を食べれば、やっぱり見た目通りのもので慌てて水で流し込んだ。
良い子のみんなは真似しないでね!
ってテロップが入りそうな勢いだ。
目に涙を溜めながらに見つめれば地球では絶対に料理をさせてもらえる事は無かったそうだ。作る料理全てが何故か味覚破壊兵器になってしまうようで、本気で料理をしないでほしいとお願いされていたらしい。
ソレが先日私の監修の元とは言え、ペペロンチーノが作れた事で行けると思い挑戦したとの事。
うん。早く教えて欲しかった。
◇◇◇
あの時の事を思い出しながら食べたら此方の料理は美味しいかも、と思えるくらいマシな気はしてたけど本当にこのパンは美味しい。
寝坊はしたけど此方の世界の良いものと出会えて、何だか幸先がいいような気がした。
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