異世界で総菜屋始めます

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第一章

ウサギの野菜売りと小さな嘘②

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ルヴァンが出かけてしまってから少しぼーっとしてしまった。

だってこっちに来てからルヴァンが居ない家にいるの初めてなんだもん。ちょっと心細い…

それにあの小さな扉、納得はしたけど気になりすぎる!
アン様ってそんなに簡単に会える物なの?
私も会えるの?一人ではわかるはずのない事をグルグルぐるぐる考えてたら目が回りそうだ。

こうなったら色々作ろう!
バンバン作ろう!

元々料理をしてる時はそっちに集中してしまって周りなんて気にならないんだし。

玉葱を取り出し微塵切りにしてフライパンで炒める。
透明になったら粗熱をとって、同じく微塵切りにした人参と合挽き肉をボウルに入れて塩胡椒で整えて素早く混ぜる。

そしたらできたタネを2つに分けて

1つは先程分けておいたキャベツの葉の芯の部分を薄く削ぎ取って、そこも微塵切りにして混ぜて溶き卵を加えてもう一度混ぜる。

そしたら芯を削いだキャベツにタネを乗せて包む!
全部詰めたら2つに分けて端の部分を鍋の下にして隙間のない様に綺麗に並べてしっかりと浸かるくらいに水を入れる。

1つはコンソメの素で煮込んで、もう1つは湯むきしたカットトマトとケチャップ、ローリエの葉と煮込む。

2つの味のロールキャベツだ、きっと総菜にするならトマト煮かな。
私的にはコンソメで煮たものにケチャップをかけて食べるのが好きなんだけど…

とか言ってもどちらも好きだし、食べたい方なんて気分で変わるし。
ただ、ケチャップが普及していないこの世界ではそのまま食べる事になるだろうし温めなければ少し油っぽくなりそうだもんね。

煮込まれてくるとコンソメとトマト煮の両方の匂いが立ち込める。
つまみ食いしたい…

おっと、ダメダメ、

煮込みすぎると中のお肉が硬くなるからこれくらいで火を切って置いておこう。

残りのタネに卵とパン粉を入れてしっかり混ぜて、楕円型にして真ん中を少し凹ませる。
形ができたらバットに乗せて冷蔵庫で保存。

ハンバーグは出来立てが美味しいからルヴァンが帰ってきたら焼こう。それか色々作りすぎたから明日…かな?

あとは…

目の前にある残った卵白を冷蔵庫から取り出す。

「これ、で、うーーーん」

折角だからオヤツでも作ろうかな?

ボウルでよく冷えた卵白はメレンゲにしやすい。綺麗に洗って水気をしっかり拭き取ったハンドミキサーで混ぜて、泡立ってきたら砂糖を数回に分けて投入!
更にハンドミキサーで角がたつくらいまでしっかり混ぜてきめ細かい泡になったら絞り袋に入れる。

鉄板にクッキングペーパーを敷いたらひとつまみ分くらいの大きさに絞っていって…

100度位に温めたオーブンで25~30分様子を見ながら加熱。
辺りにほんのりと芳ばしい香りと甘い香りが立ち込める。
オーブンから熱々の鉄板を取り出せば焼きメレンゲの完成だ。

ルヴァンが帰ってくるって言ってたのは夕方、今はちょうど3時をちょこっと過ぎたくらい。
ちょこっと、ちょこっとだけならオヤツで食べてもいいよね?

大量のマヨネーズを作った為にできた大量の焼きメレンゲを少し、うん。少しでしょ?
少しだよね?

言い訳しつつ小皿に盛って紅茶を入れてホッと一息。

程よい甘さとサクサクホロっとした食感の焼きメレンゲには無糖の紅茶がよく合う。

大量の料理を終えて洗い物など済ませればそれなりに重労働だ。
そうなればご褒美が欲しくなる。

このティータイムはまさにご褒美だ。

店頭に並べる料理の事を考えながら紅茶を啜れば、一人で作る事を失念していたことに気づいた。

誰か雇わないと無理じゃない?

勿論、冷めても美味しいのがお惣菜。
だけど売り切れた時は?追加で作りつつ店頭に立てる?

本当に失念していた。

売り切れたら閉店でも良いんだけどやっぱりある程度はお店を開いておきたい。

そもそも品切れになるくらい人気になる事前提なのがおこがましいかも知れないけど、そうなって欲しいって希望も込めてだ。

「何がラストスパートよ、振り出しに戻った気分。」

ポツリと呟けば気持ちがジェットコースターの様に急上昇急降下する。

ここにルヴァンがいれば確実に大丈夫かな?と心配され、まるで痛い子か残念な子になっていたことだろう。

一人でバタバタしていると時計が5時半をすぎた頃だった。

そろそろ帰ってくる頃かな?

ティータイムセット(と言っても小皿にティーカップだけなんだけど)を洗って証拠を隠滅すれば後はルヴァンの帰りを待つだけ。

帰ってきたらご飯を温めて夕食を取って、お風呂に入って寝る。何て流れをイメージしている。

勿論此方の世界にはテレビやら雑誌やらの娯楽はないので、もし見るならこのスマホを使うしかないのだ。
と言っても元よりテレビを見ない私は地球でも仕事して帰ってご飯、お風呂、睡眠と今と変わらない生活をしていたのでさして困らなかった。

だけど休日はそれこそグルメ散策、と称してあちこちのお店に食べ歩きに出歩いていたのでそれが出来ないことが悲しい。
してもいいけど満足できる気がしないし、あんな料金を支払おうと思わない。

そう言えば目星をつけたまま食べに行けてないお店もいくつかあったなぁ…
まだ数日前の事なのに何だかんだ遠い日のことの様に思える。

頬杖をつきながらあれこれ考えていたら来客を伝えるベルが鳴った。

まさか、ルヴァンあの扉からじゃなくて玄関から帰ってきたの?
チラッと冷蔵庫の横にある小さな扉に目を向けるも変わったところはない。

返事をしながら一階に降りて扉を開けばやはりもふも…ルヴァンではなく、実際の私よりも年上であろう、うさ耳の男性と女性、それから男の子と女の子が居る。

「あ、日中の!」

そうだ今日キャベツと人参を売りにきた子達だ。そして一緒に居るのはきっとお父さんとお母さんなのだろう。
どうしたんだろう?もしかしてお釣り貰いすぎた?

どうかしましたか?と声をかけようとしたところで両親だと思われる男性と女性が思い切り頭を下げて謝罪をしてきた。

「この度は私共の子供がご迷惑をおかけしまして申し訳ございません。」

「責任は私共にあります。お代もお返しします。」

んん?

兎に角、近所の人達が此方を見ていて居心地が悪いので中に入ってもらうことにした。

一階の奥のスペースにある椅子に座ってもらってお茶を用意すると、今にも泣き出しそうに大きな目に涙を溜める兄妹と青い顔をする両親が目に入った。

「あの、失礼ですが謝罪される様な事に心当たりがないんですが…」

そう告げれば首を振ってから男性が話し始めた。

「いくつかご説明させて頂く前に、私はこの二人の父親でケインと言います、そしてこっちが家内のロビン、息子のピーターと娘のメイプルです。」

おお、リアル、ピーターラビッ◯!

「今、謝罪に伺わせて貰っているのは他でもない、今日子供達が販売した野菜についてです。」

高いけど新鮮で良い野菜だったけど?

「マーケットで買った物をその倍値で此方で販売して、我が家でお使いに頼んだ物の代金まで貴女に支払わせてしまったんです。」

「お恥ずかしい話、やり繰りが苦しく、主人と冬を越せるかと話しているのを聞いた子供達がこれならと考えた様なんですが…」

「それの何が悪いんですか?私最近引っ越してきたばかりでこの国に詳しくないんです。それに私が納得して買ってるし…」

「その…国の法に触れてしまい、罪になるんです」

そんなに大ごとになっちゃうの?

少し緊張しながら色々考え込んでいたら二階から

「ただいま帰りましたー!サラ嬢ー?」

とルヴァンの声が聞こえてきて、少しだけ気が抜けてしまった。




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