5 / 57
第一章
花畑とサンドイッチ弁当②
しおりを挟む大きな音で空腹を訴えながら木の上から此方を睨みつけていたのは、綺麗な銀髪で緑の瞳の少年とも青年とも取れる見た目の人物だった。
初めは警戒するように距離を取りつつ、此方が少し離れればサンドイッチと唐揚げを両手に掴み匂いを嗅いで恐る恐る口に運び 、食べ始めれば先程の警戒はどこれやら凄い勢いで食べ勧めている。
「「……。」」
勢いが凄くてルヴァンも私も少し固まってしまう。
あぁ、そんなに急いで食べたら喉に…
なんて思っていたら案の定
「グォッフォッ…ッ、グッゴ…ゴホッ…」
やっぱり詰まらせるよね。
言わんこっちゃない。って、言ってなかった!
一人ノリツッコミを脳内で終えてハーブティーを差し出す。
「…大丈夫?ハーブティーどうぞ」
「んぐっ、ごきゅごきゅ…プハァ」
おぉ、喉の動きがわかる勢い。
なんて能天気に考えていたら怒鳴りつけられた。
「お前、図っただろう!」
「はかる?何を?」
「サラ嬢はそんな方ではありません!」
「な、口答えを…」
そういう。
「貴方が誰かも知らないのにそんな事をするメリット私にありますか?」
「それは…!」
「それに、お腹を空かせているようだったので恵んで差し上げただけですよ。ボク。」
「うぐっ」
これでもかってくらい挑戦的な顔で笑ってやりましたよ勿論。
食事を分けてあげてこの言い草失礼極まりない。
「ルヴァン、折角の気分転換が台無しになりそうだから帰ろうか?」
「はい。」
抱き抱えてからニッコリと
「残りの食事はお好きに処分して頂いて結構ですよ。では。」
と言えばもう此処に用はない。
はぁ、アップルパイ擬食べれなかった…
こっちに来て初めての甘味だったのに。
「何なのアイツ、失礼すぎ!」
「サラ嬢のご飯少ししか食べれませんでした。」
怒る私にションボリするルヴァン。
何だか自慢のもふもふもほんのり萎んでる気がする。可愛いけど可哀想で
「ピクニックはまたリベンジしょう!」
と言えば気持ちを切り替えるだけ。
そうとなれば甘いものを食べてエネルギーチャージだ!
勿論帰りも同じだけの時間をかけて帰るわけだけど…待ち構えている甘味と中途半端な空腹が足を早める。
って言っても行きもお弁当が早く食べたくて大分早く歩いてたんだけどね。
郊外から街に入ってすぐの道を進めば中央の通りよりも少し小さな家がいくつも並んでいて、お昼時を過ぎたからだろうか外に出ている小さな子供達が増えている事に気付いた。
今から夕方まで手伝いをしたり遊んだりするのかな?
だけど特に動く様子も見られずに段差に座って話をしていると言った様子だ。
それに中央の子たちよりも小さい、イヤ細い?
「ルヴァン、この世界でも貧富の差があるの?」
「無いとは言えません。平和なハウフロートですがやはり格差はあって郊外付近の市民にとっては収入の役7割が食費と言っても過言では無いので…」
愕然としてしまう数字
前世で言うなら3割が家賃で光熱費1割、食費2割の交際費3割、残り貯金みたいな感じでも割とカツカツだったのに…
「それで生活は何とかなるの?国は何も対策を立てないの?」
「死者も出ていない今の状況では特に問題視されてないのだと思います。」
もしこれで栄養失調を起こしたり餓死なんて事になったら…
やっぱり食料問題をこのままにしちゃダメだ。
今は暖かいけどこの先寒くなってきた時を想像したら気持ちが焦る。
寒さと空腹は人を弱気にさせるのをよく知っているから。
ふと過ぎった暗い過去を首を振って吹き飛ばせば対策を考えるために家路を急いだ。
家に着けば鞄を置いて台所。
まずは腹ごしらえ
腹が減っては戦はできぬ!
スマホでグラニュー糖を取り寄せれば
手を洗っていざ出陣!
フライパンを弱火で温めてバターを一欠片溶かす、バターを焦がさないように気をつけてサンドイッチを作った時に切り落とした耳の部分をそこに投入。
一度火を切って耳を回転させて予熱で火を通したらまた火をつける。
パンがカリカリになって来たところで火を止めて、
バットに取り上げてグラニュー糖をまぶしたらバター香るパン耳ラスクの完成!
「ルヴァン、おやつを作ったから食べながら作戦立てよう!」
「おやつ!」
「ラスクって言うのよ。」
そうだ、お惣菜メニューにサンドイッチも入れてこのラスクは破棄部分だからって理由で破格とかできるんじゃ無い?
アレコレ考えながら相談すれば既にラスクを頬張っているルヴァンがそれならパワーバランスも問題ないですねと笑ってくれた。
また、この世界で言うおやつはロールパンのようなものか切っただけの果物が主流だったようでラスクの様な甘いおやつは無くかなり気に入ってくれたようだ。
ただ困った事にこの世界ではスイーツというものがない、と言うことが判明してしまった。
自分で作れるスイーツにも限りがある、取り寄せれば食べれるけど何だか味気ない。
困った…
それに布教したい!お惣菜屋だけど作れる範囲のスイーツなら置いてもいいかな?
けどお惣菜屋じゃなくなっちゃう?
それには今更思い出したけどお店の名前を決めてない!
どうしよう。
この世界に来なかったら私はただの事務員でお惣菜屋とか開いてないだろうし、そもそも、アン様がくじで私を引かなければこちらにも来てないし、それにこちらの世界の食と出会ってこんな展開になってる訳だし、出会いとか巡り会いが……
「…一期一会」
「え?」
「お店の名前!」
思いっきり和名だけど日本人だしいいんじゃない?
総菜屋だって此方の文化ではないんだし。
「一期一会って言うのはね、ざっくり言うと同じ時間は二度と回ってこないから、一つ一つの出逢いを大切にしましょう。みたいな意味なの!」
たしか…あまり自信無いけど…
「素敵ですね!」
ルヴァンは良いと思いますと頷いてくれる。
「そういえばサラ嬢。私気になっていたのですが…あの青年よりサラ嬢の方が年下だと思われるのですが?」
「え?やだルヴァン、私こう見えても26歳よ」
「どう見てももっとお若いかと…ステータスも確認した方が…」
そんなはず無いと思うのに、ルヴァンがステータスの確認をせっつくのでスマホでステータスを確認すれば…
➖➖➖
サラ・クオン 人族 女性
年齢 16歳
能力 浄化 汚れや毒を取り除く、聖域に変える
女神アンジェリカによる加護
言語の読み書きの適用化
スマホスペシャル装備
体力強化 知識向上 若返り 革命
他いろいろ
➖➖➖
「若返ってる…16歳とか…」
「16歳なら成人してますね!」
「え?そうなの?」
「此方の世界では16歳で成人ですよ」
おぉ、そしたら昼間の彼は青年だったのね。
18~20歳くらいかと思ったから、ボクって言ったのに私の方が年下とか…
それとステータスの最後おかしくない?
アン様手を抜いたでしょ?
言いたい事やりたい事は色々あるけど総菜屋【一期一会】開店に向けてラストスパートです!
0
お気に入りに追加
2,238
あなたにおすすめの小説

【完】お義母様そんなに嫁がお嫌いですか?でも安心してください、もう会う事はありませんから
咲貴
恋愛
見初められ伯爵夫人となった元子爵令嬢のアニカは、夫のフィリベルトの義母に嫌われており、嫌がらせを受ける日々。
そんな中、義父の誕生日を祝うため、とびきりのプレゼントを用意する。
しかし、義母と二人きりになった時、事件は起こった……。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる