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第一章
ほかほかコロッケと心意気
しおりを挟む総菜屋を始めると決めてから、一階部分の改装の為にルヴァンに案内してもらって工務店に連れてきてもらった。
家自体が大通りに面したところにあるので商いには向いている。ただ総菜屋と言えばガラスケースに料理を並べてアレコレ選んで買う!ってイメージなんだけど此方の世界にはどのお店を探してもショーケースが無い。ルヴァンにショーケースの説明をしたところ、この世界では見たことはないけど、この工務店なら作れるかもしれないと言うので相談に来たのだ。
そして、目の前にいるのがオーナーのアイザックさん、彼は獣の耳と、もふもふの尻尾を持つマッチョなナイスミドルって感じの方だ。聞けば狼の獣人らしい。
要望を伝えれば細かく詳細を聞いてくれて、私の手書きのイラストを見せれば"へぇ"と興味深そうに頷いてくれる。
「作れそうですか?」
「作れるとは思うけど大きなガラスをそんなに透明に作れるかが問題だな。」
そう、この世界のガラスは透明とは言い難い。
透明と言えば食器くらいのもので、大きいものは曇りガラスの様に少し白いのだ。
もし透明のものが出来ても基本的に貴族様が買うくらい高いのだそうだ。
ショーケースは諦めた方が良いのかな
とちょっと弱気になっているとアイザックさんが
「まぁ、俺が何とかしてやるから数日待ってくれ」
と言ってニカッと笑えば何とかなる気がして肩の力が抜けたのがわかる。
アイザックさんがショーケースを何とかしようとしてくれてる間に総菜を持ち帰るための容器になるような物を探したり、人気の食材をリサーチしたりと出来ることをやってみた。
「ふむ、鳥人だから鶏肉を食べないとか魚人だから魚を食べないとかないのか」
驚いたのが鳥人と鳥は別物でまた魚人と魚は別物らしく鳥人が焼き鳥を売ってるって店も見かけられた。
そもそも一言で鳥人と言っても先日のような嘴が鳥だったり、足が鳥足だったりと全く同じ姿ではないということだ。
私からしたら共食いにしか見えないが、それを言うと人種差別だと激怒され、侮辱されたと罪になることもあるらしい。
なんともシュールな絵だが少しずつ慣れれたらとは思ってる。
そして驚いたのがこちらにはプラスチック製品がないという事、その為屋台の飲み物なども全部木の容器かガラスの容器で、そのどちらもかなり低コストだという事。
勿論家庭で使うものになればある程度の金額の様だが、屋台で使われているものは簡易式のものでお皿1枚が10円くらいなのだ。
彼方で言う発泡スチロールの器くらいの金額なのかな?
けどこっちの方が簡易的と言ってもしっかりしてる。
ルヴァンが言った様に、こう言った消耗品や花などは彼方と物価は似ている気がするけど家具や家財はこちらの方がかなり安い。
お陰でガラスも高いって言ってたけどどれくらいからが高いのか皆目見当もつかない。
とりあえずショーケースが無理でもコレは必要になるんだから、といくつかの店舗で見比べて質やコスト、総合的に見た時にリーズナブルと感じたお店で購入することにした。
結構な量を纏め買いしたお陰か少し割引してもらえて、更に店員さんと仲良くなってちょっとホクホクだ。
少し浮かれながら大量の荷物を素敵な鞄に入れれば全く重くないしウキウキして帰れば家の前にナイスミドルなアイザックさんが待っていた。
アイザックさんと声をかければ
「おう、サラちゃん」
と片手を上げてニカッと笑ってくれる
「もしかしてお待たせしちゃいましたか?」
「いや、俺が急に来たんだから気にすんな。」
発言が男前すぎる!
「サラちゃんが言ってたアレ出来たんだが見に来れるか?」
少し前のめりになりながら"本当ですか"と言えば
「おう、ただ希望どうりの品か確認してもらわなきゃなんねーな」
希望どうりでないものを売る事は出来ないんだとコレ又良い笑顔。
職人気質故の作ったんだから希望どうりで無くても買え、って言うんじゃなく制作時間や手間もかかってるのに納得いく品以外は売れないと言う心意気…素敵です!
「直ぐに行きます!」
興奮冷めやらぬ思いで完成を楽しみに工務店内の工房に向えば目の前には大きさも形も私が思い浮かべた姿のショーケースが有った。
「アイザックさん…素敵すぎます!思い描いた通りです!」
嬉しすぎてルヴァンを抱えたまま小躍りしてしまいそう
「そりゃー良かった」
「買います!買わせて下さい!おいくらですか?」
買える金額だと良いんだけど、もし凄く高くてもアン様がくれた半年分位の生活費で収まればいいな…
なんて考えてたらアイザックさんが指を1本立てた。
「100万円?!」
高い、と驚いていればアイザックさんは可笑しそうに笑いながら
「違う違う、10万だよ、高過ぎるか?」
少し呆れた様に笑う
けど10万円と言われれば逆に心配になってしまう。
スマホを使ってインターネットで検索してみたら安いもので20万円前後、高い物だともっと高いのだ
「けどな、サラちゃん。今回は半分で良い。」
「えっ!」
もっと安くなっちゃった…
「このショーケースってヤツのアイデア料だと思ってくれ」
「サラ嬢、ここはお言葉に甘えましょう」
少し悩んだけど、そうしてくれ!とニカッと笑った顔が余りにも眩しくて、男前で
「ありがとうございます!」
と感謝の言葉を、伝えれば嬉しそうにしながら着工の日程について話を進めてくれた。
◇◇◇
そこから数日、あっという間に工事は進んで一階の通り沿いにはシャッターの内側にガラスのショーケースそして彼方仕様のキッチンも出来た。
コレは彼方のアイランドキッチンをアン様が贈ってくれたのだ。
まだオープンはして無いが、全ての工事が終わったので今回の御礼を兼ねてアイザックさんとそのお弟子さんに総菜屋の定番メニュー予定の料理を振る舞うことにした。
勿論ちゃっかり市場調査も兼ねてである。
じゃが芋と挽肉(合挽き)、玉葱に、パン粉に卵に小麦粉、バター。
それからソース!
そう、コロッケだ!
じゃが芋の皮を剥いて四当分して鍋に入れて、しっかりと水につけて加熱
煮立ったら弱火にして、透き通ってきたら竹ぐしを刺してスッと入ればオッケー!
はぁ、良い色。
その間に玉葱を微塵切りにして、炒めて透明になったら挽肉と一緒に炒めて塩胡椒で整えて粗熱を取る。
茹で上がったじゃが芋はお湯を切って、軽く火をかけて水気を飛ばしてバターを隠し味程度に入れて絡めるのが私のポイント!
食感が残る用に潰して粗熱を取ったら炒めた挽肉と玉葱とざっくり混ぜる。
これだけで食べても美味しいけど更に形成して小麦粉を軽く叩いて、といた卵に潜らせてパン粉を抑えるように着けて
温度の上がった油は菜箸の先からプクプクと泡が出るのを確認したらタネを少し濃いキツネ色になるまでしっかり揚げる!
ジュワジュワといい音を立てながら揚げ物特有の香りが辺りに立ち込めてきた
油からあげて、油を切ったらコロッケの完成!
熱々のコロッケを大皿に沢山乗せて持っていくと初めて見る料理に皆んな首を傾げていた。
小皿とフォークをみんなに配れば興味深々に皿に取ったはいいが、誰かが食べるのを伺っているようだ。
「冷めても美味しいですけど、熱々のうちも美味しいので是非召し上がって下さい。」
塩むすびを出しながら言えば一番最初にアイザックさんが口に運んだ。
そんなアイザックさんの反応を伺うようにお弟子さんはジーッと見ている。
「美味いっ!」
熱々のコロッケをほふほふと食べながら目を見開いている
「このソースをお好みでかけてみて下さいね。あ、塩むすびとロールパンも置いときますね。」
アイザックさんの反応を見るや否や、俺もオレもと我先にお弟子さん達もコロッケに手をつけていく。
既に2つ目のコロッケに手を伸ばしソースを付けた物も楽しんでるアイザックさんは塩むすびにも手を伸ばしていた。
おお、食べるの早い
「この塩むすびつーのは穀物か?良い塩梅だ。」
「良かった、因みにコロッケはソースをつけてこのロールパンに挟むとまた美味しいんですよ」
お手軽コロッケパンだ
「お、コレもいけるな」
あちこちから美味いと元気な声が聞こえてくる。
そして私の横にいるもふも、んん、オホン。
ルヴァンも美味しいともぐもぐしている。
コロッケを、気に入ってくれた皆さんはオープンしたら他の料理も買いに来ると笑顔で帰っていった。
やった、顧客ゲット!
ルヴァン以外の人種の口にも合うことがわかったしそれだけで大収穫、後は残りの定番メニューと週替わりや日替わりのメニューを決めればお店をオープンできそうだ。
後一番大事なのはお店の名前か…
大詰めにはまだ時間がかかりそうだけど何だかんだ準備期間の終わりが見えてきた。
一階の店舗スペースを眺めて
「頑張ろう」
と呟けばほんのり心が暖かくなった気がした。
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