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第16話 初心
しおりを挟む幸いにもニーナさんはすぐに目を覚ました。
どうやら脳が現実についていかずにオーバーヒートしたらしい。
念のため回復魔法もかけておいたので大丈夫だろう。
問題は起きた後だった。
「………」
テーブルを挟んでニーナさんと向かい合う。
ニーナさんが凄いそわそわしてる。
頬を染めてチラチラと見てくる。
視線は上下左右にキョロキョロと忙しない。
両手の指を絡めてもじもじ、指先で髪をくるくるしたり、何か言おうとしてやっぱりやめたりととにかく落ち着きのない様子だ。
きっと脳内はパニックなんだろう。
分かる気がする。
僕もニーナさんほどではないけど似たような状態だから。
「あの」
「ッッ―――!?!??」
声をかける。
すると―――そんなに……? って、くらいニーナさんが飛び上がった。
テンパってるなぁ……
「な、なななななななんでしょうっ!」
ニーナさんの緊張具合を見て心を落ち着ける。
自分より焦ってる人を見ると落ち着くって本当だったんだね。
精神統一法としては間違ってる気もするけど……
気持ちを切り替えて言葉をかける。
「僕たち……恋人同士なんですよね」
「はっ、はひっ」
緊張でガチガチに強張っているニーナさん。
さっきからずっとこんな感じだ。
「なんか変な感じがしますね……」
不思議な感覚だった。
学生をしてた時とも、勇者だった時とも違う。
妙にふわふわする。
だけど嫌な感じじゃない。
ニーナさんを横目で見る。
もじもじしながら目を潤ませている。
今にも泣き出しそうな上目遣いでニーナさんは―――
「私は、嬉し過ぎて……し、死んでしまいそうです……」
手で顔を覆って恥ずかしそうに悶えていた。
隠しきれていない耳が真っ赤になっている。
不覚にも……そんなニーナさんを可愛いと思った。
ほんの一瞬とはいえ僕は完全に見惚れてしまったのだった。
本能のままに抱きしめたいとさえ思った。
鋼の精神で我慢する……ちょっとヒビ入った気がするけど。
「ニーナさん、ありがとうございます」
特に意味もなく言いたくなった言葉を言う。
案の定ニーナさんは不思議そうだ。
「な、なにがですか……?」
「いえ、なんとなく」
恋人とか彼氏彼女とかはよく分からないけど……楽しいなと、僕はそう感じていた。
状況は特殊だけど、自分を選んで貰えたことが嬉しかった。
しばらくして多少落ち着いたニーナさんが言ってくる。
「あ、あっ、あのっ! ユウトさん……えっと、お腹空いてませんか……?」
「あー……確かにお腹空きましたね」
こんな時だけどニーナさんの気遣いはありがたかった。
昨日からほとんど何も食べてないし……
あとこの家の主はニーナさんだから、客人と言う立場である僕から言い出しづらいことでもあったし。
「そ、それならそろそろお食事にしま……―――」
その時だった。
『待ってるよ』
不意に何かが脳裏を過ぎった。
「……ユウトさん? ど、どうしました?」
ニーナさんの声で我に返る。
……なんだ?
誰だ今の……?
いや、というより今のって……
「……あの、ニーナさんってお姉さんとかいます? 妹とか」
「? いえ、一人っ子ですけど……」
黙ってしまった僕を見て不安そうなニーナさん。
なんだろう、今妙な違和感が……
現実と夢が混ざったみたいな非現実感。
「あ、あの! 大丈夫ですか? 具合が悪かったりは……」
ニーナさんは僕のことを心の底から心配してくれている。
先ほど一瞬僕が黙ったせいでニーナさんは泣き出しそうだ。
「大丈夫ですよ」
今のは誰だったんだろう。
分からないけど、忘れてたら駄目な気がした。
だけど思い出せない。
内心気にはなったけど、今はニーナさんに心配をかけまいと僕は笑いかけた。
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