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第9話 ギルドにて
しおりを挟む「以上が規則になります。次にランクについての説明をさせて頂きます。まず―――」
翌日の朝。
僕は一人で冒険者ギルドに来ていた。
ニーナさんはまだ寝ているだろうか。
起こすのも悪いかなと思ったのでこっそりベッドから抜けて今に至るというわけだ。
登録料は無料とのことらしいので冒険者登録と説明を受けている。
登録には登録者の血液が必要らしい。
これで本人かどうかを確認したりするらしい。
針を刺してそれを書面に垂らして登録を終えた。
で、次に説明。
まずランクはF、E、D、C、B、A、S。
前の世界と同じだね。
ざっくり説明するならF、Eでビギナー。
Dで中堅らしい。
C、Bにもなればベテランと呼ばれAに至っては誰もが憧れるような存在らしい。
ニーナさんって結構凄い人らしい。
そんなAランクであの嫌われ様は、それだけニーナさんが周囲から見てどんな存在かを表しているのだろう。
そして、人外のランクと言われているS。
まずはニーナさんと同じAを目指そうかな。
ニーナさんの友達として恥ずかしくない人間でいたい。
クエストは一つ上のランクまで受注できるらしい。
ほかにもパーティー制度があるけどランクが違い過ぎるとそれもできないらしい。
じゃないと強い人に手伝ってもらって無理矢理ランクを上げる人が出るとか。
「何か特技はありますか?」
「特技?」
「はい、何か特技があればパーティーに誘われやすくなりますし、こちらとしてもその方の特技に合ったクエストを紹介しやすくなります」
なるほど、そういうことならと僕は特技の欄に『回復魔法』とだけ書いた。
他にもできることはできるけど回復魔法は貴重だ。
前の世界ではそうだったけど似たような世界ならここでもそうだと思う。
ついでに言語についての補足。
転移の際に全言語理解を与えられているので読めない文字や通じない言葉は僕には存在しない。
「すごいですね! ユウトさんはヒーラーなんですね!」
驚く受付嬢さん。
ギルドの職員である受付嬢はギルドの顔と言っても過言ではない。
つまり美人が担当することが多いのだ。
ここまで言えば分かるだろう。
僕の目の前にいる受付嬢さんは控えめに言ってゴリラである。
前の世界でも冒険していた僕としては違和感を感じずにはいられない。
これがこの世界の美人なのかあ……
「チッ、見せつけてんじゃねえよ」
「ゴルルちゃんありゃ完全に惚れてるな……」
「ば、馬鹿言うな! あんな顔だけの男にゴルルちゃんは渡さねえぞ!」
後ろから何か聞こえる。
これ惚れられてるの?
完全に交尾前の野獣みたいな顔してるけど。
もしそうなら全力で回避したい。
出来れば鼻毛も隠してほしい。
「次に担当者のご説明になります」
おっと、相手がどう思ってるにせよ仕事を真面目にしてくれてるなら僕も同じように真面目に聞かなくては。
姿勢を正して向き直る。
「冒険者の方は一定ランク以上になった際に自分を担当する受付嬢を選ぶことが出来ます」
「選ぶとどうなるんですか?」
「冒険者は担当の受付嬢からクエストを受注する際に保険を受けれます。受付嬢は担当する冒険者のクエスト報酬の5%と同じ額が自分の給金としてギルドから支払われます」
それなら受付嬢としては自分を選んで貰いたいだろう。
5%ってことはその人が10万稼いだら受付嬢の懐には5000ゴルド入ることになる。
人数が多ければもっと入るだろう。
5%って少なく聞こえるけど結構馬鹿にできない。
保険についてはクエストの失敗とかに関するものらしい。
自信のない人や上を目指している人にはありがたい。
ついでに顔の良い受付嬢と仲良くなれるメリットもある。
「ユウトさんも気に入った人がいれば今のうちに話しておいた方がいいですよ、担当してもらってやっぱり……みたいなこともありますからね」
「僕まだFランクですけど」
「ユウトさんならきっとすぐに上位ランクになれますよ。私も期待しています」
褒め言葉……と受け取りたいけどさっきの話をしたばかりだと微妙だ。
私の財布になってくださいね! と言われてるような気がする。
深読みしすぎだろうか?
「受付する人って何人いるんですか?」
「私を含めて5人います」
順番に紹介してもらう。
「素材の買取をしているのがキーリです」
今手が空いているらしくニコリと笑って手を振ってくる。
太ったカッパみたいな人だな。
キュウリとか好きそう。
頭の円形に禿げた髪の毛がお皿のようだ。
「隣でクエストを紹介しているのがブウです」
凄い大きい。
贅肉がだるんだるんで豚鼻だ。
一人でスペース取りすぎじゃないだろうか。
そして反対側を見ると執事服が似合いそうなブロンドヘアーのイケメンがいた。
「彼がサンゾーです。女性の冒険者の方に人気なんですよ」
「へー」
西遊記みたいなメンバーだな。
サンゾーさん以外ちょっと顔はよろしくないけども。
そのサンゾーさんにしたって目の奥が濁ってるというか……前の世界の腹黒王族みたいな感じだった。
どうしよう、あまり選びたくないな。
担当はなしで良いかな。
「………」
そして、実際に見て違和感を感じた。
人の美醜の価値観と言うのは今まで見たことのある顔のパーツの平均値で決まる。
地球でも前の異世界アトランタでもそうだった。
逆転するくらいなら理解できる。
男女両方の美醜ならあり得る話だ。
―――だけど、男女で違いが出るっておかしくない?
嫌な感覚だ。
ほんの少しだけど面倒ごとの気配がする。
嫌な感覚だ。
ほんの少しだけど面倒ごとの気配がする。
「ユウトさん?」
「あ、すみませんちょっと考え事を……って、あれ? もう一人は?」
「ああ、あっちで雑用をしているのがフローラです」
少し冷たくなった声色。
そちらを見ると薄緑色の髪をした細身の女性がいた。
ゴルルさんが手招きをすると少し怯えた様にフローラと呼ばれた女性が近づいてくる。
「……エルフ?」
そう言うとびくりと体を震わせる。
フローラさんはエルフだった。
エルフの特徴に漏れずに耳が尖っている。
そして、かなり可愛い。
ニーナさんほど現実離れした美貌ではないにしてもぱっちりとした瞳はなんとも庇護欲をそそられる。
今日は随分エルフに縁がある日だな……
「フローラは入ったばかりなので仕事が苦手なんですよ、なにかあっても大目に見てあげてください」
「この人も受付嬢なんですか?」
「はい、今のところ一人も担当する冒険者がいないので頑張ってるんですよ、ですよね?」
フローラさんは引き攣った顔で頷いた。
フォローしてるように見えるけどさりげなく貶してるよね。
そして、気付く。
これ引き立て役だ。
合コンでも顔の悪い友達を連れてきて自分を引き立たせる人がいるって聞いたことがある。
まさにそれだろう。
「あいつまだやめないんだな」
「いい加減消えてほしいわね」
「担当してるやつ一人もいないらしいぜ?」
「ギャハハハッ! どんだけ嫌われてんだよ!」
フローラさんが俯く。
ゴリラさん……いや、ゴルルさんが優越感に満ちた表情を浮かべる。
フローラさんの味方はいない。
目に涙を溜めてそれを必死にこらえている。
誰も彼女を庇わない環境。
それに必死に耐える姿がニーナさんと重なった気がした。
「どうですか? 気になる方はいましたか?」
ゴルルさんが露骨に熱っぽい目で見てくる。
自分を選んでほしいのだろうか。
「んー、フローラさんですかね」
ゴルルさんの笑みが凍った。
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