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第3話 友達

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 価値観と勇者云々は置いて遠い場所から転移したのだと伝えた。

「商人をしてましてね、転移アイテムだと気付かずに誤動作させてしまいまして……」

 勿論商人と言うのは嘘だ。
 さすがに身分が分からない相手だと警戒されるだろうと思ったから。
 その他にもいくつか質問する。
 この世界に転移アイテムがあるのかは分からなかったけど、彼女はあっさりと信じた。
 疑われるかもと思ったのは杞憂だったらしい。
 どうやらこの世界は価値観以外に魔王を倒した世界アトランタと比べて大きな違いはないようだ。

「は、話は分かりました……ムールの街まで……えっと、一緒にどうですか……?」

 期待半分怖さ半分みたいな感じで聞いてきたニーナさん。
 体格よりもかなり大きいローブを着て顔に白い仮面を装着しているのは体のラインと顔を隠すため……だと思う。
 徹底していた。

 そんなニーナさんはムールの街という場所で冒険者をしているのだそうだ。
 やっぱりこの世界にも冒険者組合ってあるんだね。
 Aランクと言ってたけどこの世界のAランクはどのくらい強いんだろうか?
 ちなみに前の世界のAランクは才能のある冒険者の限界とされていた。
 人外のSランクというのもあるけど今は割愛しよう。

 ちなみにムールの街はここから一番近い人族の都市らしい。
 別名冒険者の街とも言われていて人の出入りが盛んな街。
 一番近い都市ってだけで今の僕には行く価値があった。
 この世界の情報を知るべきだと思ったからだ。

 そして、補足。
 ここはイムの森と呼ばれている場所でスライム以外の魔物はほぼでないようだ。
 出ないことはないけど本当に稀。
 この森は主に薬草採取なんかの採取クエストをする冒険者が来るらしい。
 それも少数らしいけど。
 
「す、すみません! やっぱり嫌ですよね……? ごめんなさい……」

 僕の思考している間をどう捉えたのか必死に頭を下げてくる。
 この世界の美醜が逆転してるなら彼女は不細工なのだろう。
 それを確かめる術はないけど……
 まさか「あなたは不細工ですか?」なんて聞くわけにもいかない。
 検証は出来てもその後気まずくなるだろうし。

「いえ、少し考え事をしてたんですよ。良ければ街まで御一緒させてください」

「え……え!? い、いいんですか!?」

 跳ね上がるような勢いで彼女は視線を向けてきた。
 僕は鑑定ができない。
 先ほどの空間鑑定は置いておくとして、ステータス的な強さを正確に閲覧する様な力を僕は持っていなかった。
 ある程度身のこなしを見れば強さは分かるけどね。
 そして、彼女は相当強い。
 体の軸にブレがほとんどない。
 動きにも所々だが洗練されたものが見える……やたらと強張ってるけど。
 そういう意味では頼りになる存在だ。
 この世界に関して無知な僕からしたら、地形やこの世界の知識を持ったニーナさんという存在はありがたかった。

 チラチラと恥ずかしそうにこちらを見てくるニーナさんを見ると彼女は耳まで赤くして俯いた。
 異性に対する免疫がまるでないな。
 美少女になって男子中学生と話してるような気分だ……いや、そんな経験ないけどさ。

「それじゃあさっそくお願いできますか?」

「は、はいっ」

 









 木々の間を抜けていくと獣道のようなものが見えてくる。
 そこを進むと街道らしきものが見えてきた。
 道があるならここを辿れば人には出会えるはず……だけど、せっかくここまで来たんだし、街まで一緒してもらおう。

「ところでニーナさん」

「ッ!」

 僕が話しかけるたびにニーナさんはいちいち大げさに反応を返す。
 怯えるように肩を竦めて僕の顔色を窺う。
 照れてるのか怖がってるのかその両方か……

「なぜそんなところに?」

 僕の後方4mほど後ろをニーナさんが歩いていた。
 声は聞こえる距離だけどさすがに気になる。
 するとニーナさんは、がーん! と、ショックを受けたようで目に見えて落ち込んでしまった。
 涙声で言ってくる。

「ご、ごめんなさい……」

 そう言ってニーナさんはさらに遠くへ。
 その距離実に10m。
 気になるとかそういうレベルじゃない。
 話しにくいし、なぜ離れたのか。

「いや、遠すぎるって意味です。もっと近付いてほしいんですけど……」

 僕が耐えられないほどの悪臭を放っているなら仕方ないだろうけどそんなわけない。
 ない、よね……? 自信はあるけど念のため腕に鼻を近づけてみる。
 余談ではあるが魔王の青いような黒いような血は浄化の魔法で消しておいた。
 匂いも消してるはずなので大丈夫だと思うけど……
 
「い、いいんですか? 私……臭いですし……不細工ですし……汚いですし……」

 言いながらニーナさんは言葉尻をすぼませていく。 
 さすが美醜逆転世界。
 この容姿でここまで卑屈になれるとは。
 むしろ匂いに関しては良い匂いでしたよ、と心の中で補足をしておく。
 大丈夫だと伝えるとニーナさんは数歩近づいた。
 距離およそ9m。

「いや……できれば隣を歩いてほしいんですけど。方向は教えてもらいましたけどこの辺り詳しくないですし」

「そ、そうですね……ありがとうございます……」
 
 なぜかお礼を言った後でニーナさんはたどたどしい足取りで僕の隣へとやってきた。
 まだ距離はあるけど嫌われてはいないと思う。
 悪感情は見られないので今はこれで良しとしよう。

「あ、もしかしてあれですか?」

 低いけど城壁のようなものが見える。
 門があってそこには人が列をつくっていた。

「………」

「ニーナさん?」

「あ、そ、そうです……あれがムールの街です……」

 とても悲しそうにニーナさんが顔を伏せた。
 少しだけ歩く速さが遅くなったのはこの時間を惜しいと思ってくれているのだろうか。
 そうだと嬉しいけど、別にあの街にいるならその間はいつでも会えると思うけどな。
 
「あのっ!」

 ニーナさんが立ち止まる。
 あまりの大声に一瞬彼女の声だとは思わなかった。
 決死の一言。

「また、私と話してもらえたら……その、う、嬉しいなって……」

 その気配は必死を通り越して痛々しくすらあった。
 祈るように頭を下げてくるニーナさんの頼み。
 僕は―――
 
「友達になりたいってことですか? いいですよ、むしろこちらからもお願いします」

「と、友達……?」

 戸惑う銀色美少女ニーナさん。
 あれ、違っただろうか。
 僕は世界を救ったことはあっても豊富なコミュ力があるわけじゃない。
 そこへやってきたニーナさんのさっきの発言は渡りに船だった。
 僕はそう言う意味だと感じたけど違ったのだろうか?

「うぁあああああんっ!」

 泣かれた。



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